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第14話(3)
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食卓には、主夫妻、ニコライとアレクサンドラ、ソフィア嬢と、その兄であるエヴゲーニイが着いた。
ソフィア嬢はもはや癇癪の気配はなく、きちんと淑女めいて澄ましながら、テーブルの向こう側から、アレクサンドラの振る舞いの全てを見逃さない、と言わんばかりにしばしば視線を送って来ていた。
一方、兄のエヴゲーニイは、件の醜聞が公然の秘密となっていることで、非常に気まずそうな表情をしていた。
かといって廃嫡されているわけではない彼を、元王子が来訪される場から排除するわけにはいかず、席には着かせているが、本人は何の言及もされずとも針の筵に感じるのだろう、ニコライに朗らかに話しかけられても、緊張もあるのだろうが滑らかな返答ができず、そのたび主の公爵や夫人が酸っぱそうな顔をしたり目を逸らしたりしていた。
長くかかって食事が終わると、彼は食べ過ぎて苦しくなったと言い置いて、そそくさと食堂から去ったが、特に誰も止めることはなかった。
誘われて客間へと移動しながら、アレクサンドラは寛いでいた気持ちを引き締めた。
晩餐中は、公爵夫人や子息令嬢、給仕の前であったため、公証のことを話頭に上らせるのは控えており、ここからが本番であった。
とはいえ、トルベツコイ公爵と話せる機会が持てるか、今日の席は、元々ソフィア嬢の願いに端を発して設けられたものであり、目的に従うなら、ソフィア嬢の話し相手になるべきである。
それは構わない、心積もりはしていたことである、しかし、少しで良いので公爵と話せる時間を作れないものか。
(焦ってはいけない)
ニコライの忠告を頭の中で反芻しながら、アレクサンドラが客間に歩み入ると、公爵はまずニコライに席を勧め、公爵はその隣、アレクサンドラは幸いにもさらにその隣に隣に誘われた。
アレクサンドラの反対側には、当然という顔をしてソフィア嬢が占めた。
父公爵が「ソーニャも混ざるのかい」と戸惑いがちに問うと
「レディのおべんきょうですわ。おきになさらず」
と、つんと余所を向いた。
父公爵はああ、と曖昧に答えて興味を逸らした。
男親に対する早い反抗期なのだろうかとアレクサンドラが考えていると、公爵はニコライに、
「しかし、本日は娘の求めに応じて下さり誠にありがとうございました。私共としては、お2人にお近づきになれたのは非常に幸いなところなのですが、まさかこういう予想外のきっかけになるとは思いませんで」
と話しかけた。
ニコライは、「良いきっかけでした。先日、正式なご挨拶には参りましたが何分気忙しくて、なかなかどなたとも打ち解けて親しくなることができませんでしたから。妻からソフィア嬢のことを伺った時は、渡りに船だと思いました。お目が高くいらっしゃる」と答えながらソフィア嬢に微笑みかけ、すっとアレクサンドラに視線を送った。
受け取ったアレクサンドラは、
「奥様には、伯母のJ公爵夫人が主催しております茶席で、社交の場に慣れない私にも優しくしていただきました」
と公爵と、離れたところに座っている夫人へと順に眼差しを向けると、公爵は何度か頷きながら言った。
「ザハーリン公爵夫人が私的な場所に来られるのは珍しいと、妻とも話しておりました。公証長を継がれてご多忙なのだろと」
「未熟者でございますゆえ、お恥ずかしいことに忙しくはしております。そのため世間知らずも進んでおりまして……」
「またまたご謙遜を。しかし、こう言っては何ですが、女性の身で公証長の職務は大変でしょう。補佐をお務めだったとはいえ」
心配は不信の裏返しでもある。
元老院でもそういう論調になったのかもしれず、文字通りに取ってはいけない、とアレクサンドラは
「若輩者ではございますが、皆様に、ご指導ご鞭撻(べんたつ)を頂きながら、精一杯取り組んで参る所存でございます」
と楚々と頭を下げた。
公爵が「いやいや、オルロフの後継者は非常に優秀だと聞いておりますよ」と慌てたところに、ソフィア嬢が
「よく分かりませんが、おとうさまは"げんろういん"なのでしょう。アレクサンドラ・イワーノヴナさまがたいへんなら、助けてさしあげればいいではないですか」
と尖らせた口を挟んだ。
ソフィア嬢はもはや癇癪の気配はなく、きちんと淑女めいて澄ましながら、テーブルの向こう側から、アレクサンドラの振る舞いの全てを見逃さない、と言わんばかりにしばしば視線を送って来ていた。
一方、兄のエヴゲーニイは、件の醜聞が公然の秘密となっていることで、非常に気まずそうな表情をしていた。
かといって廃嫡されているわけではない彼を、元王子が来訪される場から排除するわけにはいかず、席には着かせているが、本人は何の言及もされずとも針の筵に感じるのだろう、ニコライに朗らかに話しかけられても、緊張もあるのだろうが滑らかな返答ができず、そのたび主の公爵や夫人が酸っぱそうな顔をしたり目を逸らしたりしていた。
長くかかって食事が終わると、彼は食べ過ぎて苦しくなったと言い置いて、そそくさと食堂から去ったが、特に誰も止めることはなかった。
誘われて客間へと移動しながら、アレクサンドラは寛いでいた気持ちを引き締めた。
晩餐中は、公爵夫人や子息令嬢、給仕の前であったため、公証のことを話頭に上らせるのは控えており、ここからが本番であった。
とはいえ、トルベツコイ公爵と話せる機会が持てるか、今日の席は、元々ソフィア嬢の願いに端を発して設けられたものであり、目的に従うなら、ソフィア嬢の話し相手になるべきである。
それは構わない、心積もりはしていたことである、しかし、少しで良いので公爵と話せる時間を作れないものか。
(焦ってはいけない)
ニコライの忠告を頭の中で反芻しながら、アレクサンドラが客間に歩み入ると、公爵はまずニコライに席を勧め、公爵はその隣、アレクサンドラは幸いにもさらにその隣に隣に誘われた。
アレクサンドラの反対側には、当然という顔をしてソフィア嬢が占めた。
父公爵が「ソーニャも混ざるのかい」と戸惑いがちに問うと
「レディのおべんきょうですわ。おきになさらず」
と、つんと余所を向いた。
父公爵はああ、と曖昧に答えて興味を逸らした。
男親に対する早い反抗期なのだろうかとアレクサンドラが考えていると、公爵はニコライに、
「しかし、本日は娘の求めに応じて下さり誠にありがとうございました。私共としては、お2人にお近づきになれたのは非常に幸いなところなのですが、まさかこういう予想外のきっかけになるとは思いませんで」
と話しかけた。
ニコライは、「良いきっかけでした。先日、正式なご挨拶には参りましたが何分気忙しくて、なかなかどなたとも打ち解けて親しくなることができませんでしたから。妻からソフィア嬢のことを伺った時は、渡りに船だと思いました。お目が高くいらっしゃる」と答えながらソフィア嬢に微笑みかけ、すっとアレクサンドラに視線を送った。
受け取ったアレクサンドラは、
「奥様には、伯母のJ公爵夫人が主催しております茶席で、社交の場に慣れない私にも優しくしていただきました」
と公爵と、離れたところに座っている夫人へと順に眼差しを向けると、公爵は何度か頷きながら言った。
「ザハーリン公爵夫人が私的な場所に来られるのは珍しいと、妻とも話しておりました。公証長を継がれてご多忙なのだろと」
「未熟者でございますゆえ、お恥ずかしいことに忙しくはしております。そのため世間知らずも進んでおりまして……」
「またまたご謙遜を。しかし、こう言っては何ですが、女性の身で公証長の職務は大変でしょう。補佐をお務めだったとはいえ」
心配は不信の裏返しでもある。
元老院でもそういう論調になったのかもしれず、文字通りに取ってはいけない、とアレクサンドラは
「若輩者ではございますが、皆様に、ご指導ご鞭撻(べんたつ)を頂きながら、精一杯取り組んで参る所存でございます」
と楚々と頭を下げた。
公爵が「いやいや、オルロフの後継者は非常に優秀だと聞いておりますよ」と慌てたところに、ソフィア嬢が
「よく分かりませんが、おとうさまは"げんろういん"なのでしょう。アレクサンドラ・イワーノヴナさまがたいへんなら、助けてさしあげればいいではないですか」
と尖らせた口を挟んだ。
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