続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第15話(1)

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ニコライは席を外した後、長子エヴゲーニイの身の振り方について、ニコライの領地で静養とするとともに、矯正を施すのはどうかという提案をトルベツコイ公爵夫人にしていたと聞いたアレクサンドラは仰天した。

「まさかとは、私の目論見のためにそのようなことを?」

アレクサンドラが複雑な思いを隠して恐る恐る尋ねる、ニコライは「まさか、そんなことでトルベツコイ公爵は考え方を決めたりはしませんよ」と笑いながら首を振った。

「ご長男は今、引き返せるかどうかの瀬戸際にいます。本人は悪かったと思っているらしい、という話でしたが、頭ごなしに叱り厳重に閉じ込めると、天邪鬼を発揮する厄介な性分だとか。どうも、他の者達が自分達の行動を善としているようで、それに引き摺られているきらいがあるようです。
別荘に行かせることも考えたようですが、そこに悪友達が押しかけていって、また同じことを繰り返すのでは、と夫人達も持て余していたそうです」
「……それで、ザハーリンの領地をご提案なさったのですか?」
「ええ。トルベツコイ家のような由緒ある家に、跡継ぎの素行不良でぐらつかれては困りますから。陛下や皇太子殿下の治世にも影響が出かねません。賭け事自体はそう問題ではないとしても、負け分を埋めるため家の金に手を出すのは、いずれ家自体を破滅に追い込んでしまうでしょうし」

その点、ザハーリンの領地なら元王子・他公爵の所有地であり、悪友達はおいそれと出入りできないだろう。
それに静養と言っても遊ばせておくのではなく、ニコライの信頼厚い執事から、みっちり"教育"を受けられるよう手配をするということだった。
公爵夫人からは、夫と相談してすぐに返事をする、と泣かんばかりの感謝を受けたそうだ。

そもそも、エヴゲーニイの話は間違いなくニコライが持ち出したのだろうに、とアレクサンドラは夫の配慮を気取りながら、「さようでございましたか」とだけ答えた。
治世の安定を図るのは陛下のお子としての責務であり、真心であろうと思うし、実際のところ、元老院のうち中立的と言われるトルベツコイ公爵が、息子の素行不良あるいは犯罪で地位を追われるのは、国としてもアレクサンドラにとっても非常な損失だった。
ゆえに、アレクサンドラは助けてもらってばかりの負い目を感じながらも、ただそれを受け取ることにした。

*

遺言状の認証について、アレクサンドラはトルベツコイ公爵を信じていたが、個別に説明をしに来ないのは如何にも無礼だと、元老院の他の構成員から叱責があったらどうしようかとずっと懸念を抱えていた。
機嫌を損ねれば、次の段階である窓口は頓挫し、少なくとも今の構成員の在任中は実現不可能になる。
公爵の見立てに関わらず、全員に根回しの説明をしにいくべきだったのではないか、いくら気を揉んでももはや祈るしかなくなった彼女は非常に落ち着かない気持ちで日々を過ごし、それをニコライに気づかれて、落ち着きなさいと笑いとともに窘められた。
顔や態度に焦りが出ていたのだろうか、そういう指摘を受けたのは初めてで、アレクサンドラは恥ずかしい思いをした。
夫が相手だとどうも調子が狂う、と居心地が悪いながらも、努めて冷静に、しかし多少そわそわしながら、元老院の議題に上がるべき日を待った。
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