続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第17話(2)

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ニコライはなおも言った。

「彼は策士だ。貴女が逃げられない状態にして、貴女の方から請わないといけない状況を作って、なんてお手の物だ。彼の政治はずっとそういうやり方を取って来たのです。
前にもお尋ねしましたが、本当にメルジューンを目指すのですが。オルトだけではダメなのですか」

王子であったニコライ自身がそうされたことはないはずであり、実際にそのような仕打ちを受けたという伝聞を受けたのだろう。
しかし、夫の心配を理解しありがたく思いながらも、根本の問いを提示されたアレクサンドラの気持ちは、逆方向に走り始めた。
暴走でもなく、むきになったのでもない。

「もしここで諦めるとすれば、私はかの公爵が在位している間は、案を進めるどころか、断られることすら
できなくなりますわ。
今回はベルケンドルフ公爵がお相手でございますが、他に同じような方にお願いをしなければならない時、発案すら諦めることになります。
それは、私には公証長の資格がないということと同義でございます」

ぶつかる前に断念するということは、アレクサンドラが女であるがゆえに、公証長としてなすべきことができないという示した。
今回は新しい取組を始めるための運動であるが、もし先般のような事件が起きるなどして、各所を駆け回らなければならなくなった時にも、同じ妨げが出ることになる。
すべきことすらできない者を公証長とは呼ばない。
アレクサンドラは冷静ながら、血が滾るのを感じた。
その勢いにアレクサンドラは思考を委ね、忙しく巡らす。

悪しき性格を持とうとも、ベルケンドルフ公爵は公爵位の貴族であり、知能犯であっても強行犯ではない。
策は弄しても、訪問した相手にその場で悪さをすることはないはずだ、公爵夫人相手に無体を働けば家の、いや自身の破滅になる。
それでも万が一不穏な動きをされれば、はしたなかろうと恥も外聞もなく騒いで跳ね除けてみせる。
仮にアレクサンドラが男だとしても、彼と交渉をしようとすれば知略をしかけられ、犠牲的な代償を求められるのだ、女の場合は代償の候補が1つ増えるだけだと、アレクサンドラは大胆すぎるという己からの叱責を振り払った。
自分より一枚も二枚も巧者な公爵と対峙する、女としての恐怖感はあるものの、不愉快事は必ず訪れるものだということを、アレクサンドラはこれまでの経験で学んだ。
当たる前から逃げてどうする、それが掛け値なしの本音であった。

「まずは、ベルケンドルフ公爵にお願いに参ります。ただ、無理に押し通すことは致しません、引き際は弁えますわ」
「どうしても行かれるのですか。侮辱とは取らないで下さい、彼はこの点で貴女より遥かに上手です、1人で行くのは愚の骨頂だ」
「それでも」

強い態度に出るならば、その責任も自分自身で引き受ける、そのつもりで宣言をすると、妻を止められないと悟ったニコライは

「しかし私は、貴女の身の安全の方が大事だ」

と辛そうな顔を背けた。
アレクサンドラは心を痛めながらも、

「ご懸念は忝(かたじけな)く存じます。ですが挑戦をさせていただきたいのです」

と意思を示した。
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