続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第17話(4)

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説明は簡易に済ませたいところだったが、窓口設置の意図と、それを第2の都市メルジューンに設置すべきと考えた理由、設置した場合にメルジューンが受けるメリット、考えられるデメリットとその対応など項目が多く、最後まで冷静を保って話すのには、練習を重ね心積もりをしていても気力が削がれた。
適宜相槌を打ちつつ熱心に聴いていた公爵は、アレクサンドラが話し終えてもなお、ソファに凭れて中空を見、何度か小さく頷きながら考えているようだったが、アレクサンドラが喉を潤しながら大人しく待っていると、最終的に「なるほど、そういうことでしたか」と言った。

「公証の事務実施、という前触れでしたので、我が家に何の関係があるのかと困惑しておりましたが、今やっと理解できました」
「申し訳ございません、手紙に記載するのは憚られまして」
「それは無理もありませんな。今の内容の密度では」

真剣な吟味をしている様子をどう評価すべきか、アレクサンドラは警戒を保ちながら、何事もなくスムーズに事が運ぶことへの期待を殺しきれず、公爵の評価を待っていると、公爵がアレクサンドラに視線を戻して口を開いた。

「筋論としては悪くはない話ですな」
「ありがとうございます」
「悪くはないが、そうですな、メリットがいまいち不明だと申し上げざるを得ません」

利便性の向上による都市機能の強化と、定住・関係人口の拡大による税収増加や産業発展。
見込まれる恩恵は説明したはずと戸惑うアレクサンドラは、その旨を仄めかしたが、ベルケンドルフ公爵は「いやいや」とそれを遮り、

「我がメルジューンのメリットは伺いましたよ。多少見積もり過ぎな点はありましたが、理解はできました。
そうではなく、私が貴女の案に承諾をするメリットです。私個人のメリットはどこにあるのです」

拒否は覚悟していた、何らかの注文や条件もいくつも想定していたが、公爵個人のメリットなど当然その中にはない。
公爵であり領主である者が、領土運営に資する以外の、個人的な恩恵を追求するというのはどのような了見なのか理解ができず、アレクサンドラは呆然とした。

「公爵閣下のメリットと仰いますと、例えばどのようなものをお求めでいらっしゃいましょうか」
「ははは。そこは先に提示していただかなくては何とも。元々貴女のご提案なのですから」

(例えば、愛人関係を結ぶなど)

ニコライの忠告を思い浮かべ、誘導の手口が実演されている、とアレクサンドラは努めて落ち着こうとした。
相手が困惑し、容易に答えを用意できないところに畳みかけていって、彼が思う壺まで連れて行く。
駆け引きの中でも嫌らしいやり方だと彼女はそれを憎んだが、現状、返答に窮していることには変わりがなかった。
許可料として納める金銭を引き上げる案を提示してみたが、それは個人のメリットに属さないと撥(は)ねられた。
金で贖(あがな)えないとなると、選択肢はどんどん狭まる。
思惑に乗る気はないが、突破口も見い出せない。

「この件は、元老院にはもうご説明申し上げたのですか」
「いいえ、まだでございます。公爵閣下にご内諾を頂けない場合は頓挫、いえ案の変更となりますゆえ」
「おやおや、そんなにぐらついたご提案だったのですか。そうすると、もし敬愛すべき元老院の皆様がノーと仰れば、このご提案もぬか喜びになってしまうというわけですね。なるほど、元老院よりも私の方が御しやすいだろうということですか」
「決してそのようなつもりはございません」
「まあそうお考えになるのももっともですが。元老院のお歴々、特に議長のデミトフ公爵は穴をお許しにならない。設置場所の所有者から承諾も得ないで持ち込んだのかと大層お冠になられることでしょう。私の立腹よりもそちらを恐れたということなのでしょう、この説明の順序は」

指摘は全て真実であり、アレクサンドラは重ね合わせた手を密かに強く握った。
主の公爵は大仰に嘆く調子で続ける。

「喜ばされたのも束の間、実現性の低いお話だったとは。それならば、無理をなさらずオルロフの領地であるオルトにだけ置かれればよろしいのでは。まあ、そうするとなおのこと元老院には説明しづらくなりましょうが。
私の失望の埋め合わせをしていただきたいものですな。先程の、私個人のメリットについてもご提案がまだですし」
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