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第17話(6)
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ベルケンドルフ公爵は、自身の承諾がないまま、元老院を通すことはできないと確信している。
それにもかかわらず、生意気な小娘はできると虚言を吐いた。
その懲罰とともに、どちらに転んでも公爵個人が良い思いができるように。
仮に公爵の言動をアレクサンドラが暴露したとしても、結婚したての若妻が勘違いをしただけだと言い得る逃げ道を残して。
アレクサンドラは、冴え冴えとした翠眼を主の公爵に注ぎながら、扇をぱちり、と畳んだ。
「それが公爵閣下個人のメリットということでございますね。申し訳ございませんが、ご提案を受けるのは難しゅうございますので、この話はなかったことにさせていただきたく存じます。貴重なお時間を割いていただいたことには、心から感謝申し上げます」
子供の話を持ち出したのは、妊娠しづらければ冒険をしても安全であるとの仄めかしと、嘲り。
座礼をしてさっと立ち上がったアレクサンドラを追いかけるように、ベルケンドルフ公爵も立って
「おやおや、何か勘違いされているのではありませんか」
とそれとなく進路を遮った。
アレクサンドラは「勘違い?何のお話でしょう」と、ピョートルへの再現のように冷えた声で呟いた。
「私は専ら、案にご承諾を頂戴できるか否かのみを求めて参りました。それが叶わないとなりますれば、引き下がるしかございませんわ」
「それは乱暴な要求というものです。交渉というのはそういうものではない。公証の窓口を新たに設置したいというのが究極ならば、譲歩や条件は当然考えの内に入れるべきでは」
「ええ。ですが交渉は"こういうもの"でもございません。そして、これは勘違いでもなく、譲歩すべき場面でもございません」
怯む様子もなく説得を試みる巧者は、宥めすかして再誘導を図るのも慣れているのだろうが、怒りのあまり一時的に冷徹を、過去から取り戻してしまったアレクサンドラはもはや網にかかるどころか、糸に手を振れることもなかった。
「やはり何かを勘違いされているのではありませんか」
「では、無条件でのご承諾を頂戴できますか」
「それは、ですからできませんな」
「でしたらやはり引き下がらせていただきます」
「では窓口はどうするのです」
「そのことで、閣下のお心を煩わせることはございません、ご安心下さいませ」
身を引いて書斎のドアまで辿り着いたアレクサンドラの背中に、「何が気に入らないのか……勘違いを」と呟きが届いた。
主の公爵は、世間知らずの聞き分けのない娘を諭すと言ったポーズで首を竦めている。
この期に及んで、女で弱みを持ち御しやすいからと見て、おかしいのはなおこちらだと誤解させ操ろうとする姿を、アレクサンドラは限度を超えて痛みさえ感じ始めた頭で認識した。
これが今代のベルケンドルフ公爵という人か、ニコライが策士だと警告してくれた下衆の正体か。
「お気に召さないのはむしろ閣下の方でいらっしゃいましょう」
このまま貴婦人のマナーは犯さないで立ち去るつもりだったが、もはや我慢は効かなかった。
「私は!ザハーリン公爵、ニコライ・フョードロヴィチ・ザハーリンの妻でございます!侮らないで!」
なりふり構わず怒鳴るのも2度目、いやそういえば3度目、求婚を受けた時もだったと、アレクサンドラは帰りの馬車の中で記憶を訂正した。
それにもかかわらず、生意気な小娘はできると虚言を吐いた。
その懲罰とともに、どちらに転んでも公爵個人が良い思いができるように。
仮に公爵の言動をアレクサンドラが暴露したとしても、結婚したての若妻が勘違いをしただけだと言い得る逃げ道を残して。
アレクサンドラは、冴え冴えとした翠眼を主の公爵に注ぎながら、扇をぱちり、と畳んだ。
「それが公爵閣下個人のメリットということでございますね。申し訳ございませんが、ご提案を受けるのは難しゅうございますので、この話はなかったことにさせていただきたく存じます。貴重なお時間を割いていただいたことには、心から感謝申し上げます」
子供の話を持ち出したのは、妊娠しづらければ冒険をしても安全であるとの仄めかしと、嘲り。
座礼をしてさっと立ち上がったアレクサンドラを追いかけるように、ベルケンドルフ公爵も立って
「おやおや、何か勘違いされているのではありませんか」
とそれとなく進路を遮った。
アレクサンドラは「勘違い?何のお話でしょう」と、ピョートルへの再現のように冷えた声で呟いた。
「私は専ら、案にご承諾を頂戴できるか否かのみを求めて参りました。それが叶わないとなりますれば、引き下がるしかございませんわ」
「それは乱暴な要求というものです。交渉というのはそういうものではない。公証の窓口を新たに設置したいというのが究極ならば、譲歩や条件は当然考えの内に入れるべきでは」
「ええ。ですが交渉は"こういうもの"でもございません。そして、これは勘違いでもなく、譲歩すべき場面でもございません」
怯む様子もなく説得を試みる巧者は、宥めすかして再誘導を図るのも慣れているのだろうが、怒りのあまり一時的に冷徹を、過去から取り戻してしまったアレクサンドラはもはや網にかかるどころか、糸に手を振れることもなかった。
「やはり何かを勘違いされているのではありませんか」
「では、無条件でのご承諾を頂戴できますか」
「それは、ですからできませんな」
「でしたらやはり引き下がらせていただきます」
「では窓口はどうするのです」
「そのことで、閣下のお心を煩わせることはございません、ご安心下さいませ」
身を引いて書斎のドアまで辿り着いたアレクサンドラの背中に、「何が気に入らないのか……勘違いを」と呟きが届いた。
主の公爵は、世間知らずの聞き分けのない娘を諭すと言ったポーズで首を竦めている。
この期に及んで、女で弱みを持ち御しやすいからと見て、おかしいのはなおこちらだと誤解させ操ろうとする姿を、アレクサンドラは限度を超えて痛みさえ感じ始めた頭で認識した。
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このまま貴婦人のマナーは犯さないで立ち去るつもりだったが、もはや我慢は効かなかった。
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