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第18話(2)
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邸宅に帰り着くと、執事が開けたドアから、アレクサンドラが足を踏み入れるのを待たずにニコライが「ご無事ですか!」と飛び出して来て、アレクサンドラの両肩を掴んだ。
心の準備もなく接近され、これまでならば血気盛んだという程度の穏やかな感想しか持たなかっただろうが、気が付いてしまったアレクサンドラは狼狽えて上体を引こうとした。
「お顔の色が。やはり何かされたのですか……!」
朱を散らした頬を勘違いしたニコライが血気盛んにアレクサンドラに迫り、その行動を過剰に情熱的に感じ取った妻は照れを増して、実に苦労して夫を引き離した。
しかし、それによりさらに勘違いを深めた夫は、今にもベルケンドルフ公爵のもとへ乗り込みそうな剣幕になり、それを何とか留めて落ち着かせるのに、アレクサンドラは執事達とともにさらなる苦労を重ねる羽目になった。
ようやく居間に腰を落ち着けると、アレクサンドラはニコライの問いかけに応じる形で、公爵との交渉結果を語った。
言葉にするのは憚られる内容は濁そうとしたが、ニコライの矢継ぎ早で的確な質問に誤魔化しきれなくなり、愛人契約の強要があったことについては口を割らされる結果になった。
「やはり心配した通りでした。人の妻、しかも私の妻と知りながらそのような爛(ただ)れた話を、よくも聞かせてくれたものだ。それに対して貴女はどうやって抵抗を?」
「それは、断固としてお断りしたに尽きますわ。ですが話術は、仰る通り非常に巧みでした。あのような追い詰め方をして、世の女性達を手玉に取って来たのかと。いえ、交渉事を持ち込んだ殿方方が、被害者は多いでしょうが」
「さぞかし怖い思いをされたでしょう。しかし、こう言っては何ですが、よくあの色情狂が貴女を解放しましたね」
王子であった人が発した相応しくない俗語に、アレクサンドラは抵抗を感じながら、「きっぱりとお断りしましたので」と答える。
「では、窓口の方は……どうなさったのです」
「窓口の相談ごと、無かったことにしていただきました」
さすがに不本意が隠せないままアレクサンドラは言った。
交渉に破談にして、夫への想いが明らかな形となった点は非常な幸いだったが、それは怪我の功名であって、元々の目的であったメルジューンへの窓口設置の方は案から取り除かなければならなくなってしまった。
ベルケンドルフ公爵に啖呵を切ったことは後悔はしていない分、今後窓口設置について元老院にどう説明をしていくかを、新たな課題として早急に検討する必要があった。
ニコライは、「そうでしたか。貴女が、志のためにご自分を犠牲しなくて本当に良かった」と表情を和らげた。
「さすがにそこまでは……許可料の大幅な引き上げなど、違う条件を出されていたら、大いに悩みましたでしょうが」
「やむを得ないことです。何にせよ、これで貴女を苦しめていた窓口の件は幕引きですね」
「まあ、まだでございますわ。元老院の皆様からご了解を得るために、下準備を続けなければ」
「まさか、まだお続けになるのですか」
「もちろんでございます。断念したのはメルジューンだけですわ」
「しかし……オルトだけでは説得力が出ないのでは」
ベルケンドルフ公爵を訪問するとなった際に、ニコライはオルトだけへの設置を志すよう勧めたはずだ。
それなのに、いざオルトのみとなってから転向した夫が理解できず、アレクサンドラは「それでも、諦める理由にはなりませんわ」と不興を滲ませた。
「元老院の皆様に不可を言い渡されない限り、廃案にすべき段階ではございません。説得力についてはこれから補強いたします」
「もちろんそうなさるのでしょうが、成功率は……」
「事に当たる前に諦めろと仰いますの」
「……失敗して、貴方が苦しまれるのが嫌なのです。そもそも、元老院に接触した段階で心労も重なります」
「だから接触しないでこの件も終わらせるように、と?」
「元々、その……どうして、窓口設置をなさりたいと思われたのですか」
「必要性があるからですわ」
心の準備もなく接近され、これまでならば血気盛んだという程度の穏やかな感想しか持たなかっただろうが、気が付いてしまったアレクサンドラは狼狽えて上体を引こうとした。
「お顔の色が。やはり何かされたのですか……!」
朱を散らした頬を勘違いしたニコライが血気盛んにアレクサンドラに迫り、その行動を過剰に情熱的に感じ取った妻は照れを増して、実に苦労して夫を引き離した。
しかし、それによりさらに勘違いを深めた夫は、今にもベルケンドルフ公爵のもとへ乗り込みそうな剣幕になり、それを何とか留めて落ち着かせるのに、アレクサンドラは執事達とともにさらなる苦労を重ねる羽目になった。
ようやく居間に腰を落ち着けると、アレクサンドラはニコライの問いかけに応じる形で、公爵との交渉結果を語った。
言葉にするのは憚られる内容は濁そうとしたが、ニコライの矢継ぎ早で的確な質問に誤魔化しきれなくなり、愛人契約の強要があったことについては口を割らされる結果になった。
「やはり心配した通りでした。人の妻、しかも私の妻と知りながらそのような爛(ただ)れた話を、よくも聞かせてくれたものだ。それに対して貴女はどうやって抵抗を?」
「それは、断固としてお断りしたに尽きますわ。ですが話術は、仰る通り非常に巧みでした。あのような追い詰め方をして、世の女性達を手玉に取って来たのかと。いえ、交渉事を持ち込んだ殿方方が、被害者は多いでしょうが」
「さぞかし怖い思いをされたでしょう。しかし、こう言っては何ですが、よくあの色情狂が貴女を解放しましたね」
王子であった人が発した相応しくない俗語に、アレクサンドラは抵抗を感じながら、「きっぱりとお断りしましたので」と答える。
「では、窓口の方は……どうなさったのです」
「窓口の相談ごと、無かったことにしていただきました」
さすがに不本意が隠せないままアレクサンドラは言った。
交渉に破談にして、夫への想いが明らかな形となった点は非常な幸いだったが、それは怪我の功名であって、元々の目的であったメルジューンへの窓口設置の方は案から取り除かなければならなくなってしまった。
ベルケンドルフ公爵に啖呵を切ったことは後悔はしていない分、今後窓口設置について元老院にどう説明をしていくかを、新たな課題として早急に検討する必要があった。
ニコライは、「そうでしたか。貴女が、志のためにご自分を犠牲しなくて本当に良かった」と表情を和らげた。
「さすがにそこまでは……許可料の大幅な引き上げなど、違う条件を出されていたら、大いに悩みましたでしょうが」
「やむを得ないことです。何にせよ、これで貴女を苦しめていた窓口の件は幕引きですね」
「まあ、まだでございますわ。元老院の皆様からご了解を得るために、下準備を続けなければ」
「まさか、まだお続けになるのですか」
「もちろんでございます。断念したのはメルジューンだけですわ」
「しかし……オルトだけでは説得力が出ないのでは」
ベルケンドルフ公爵を訪問するとなった際に、ニコライはオルトだけへの設置を志すよう勧めたはずだ。
それなのに、いざオルトのみとなってから転向した夫が理解できず、アレクサンドラは「それでも、諦める理由にはなりませんわ」と不興を滲ませた。
「元老院の皆様に不可を言い渡されない限り、廃案にすべき段階ではございません。説得力についてはこれから補強いたします」
「もちろんそうなさるのでしょうが、成功率は……」
「事に当たる前に諦めろと仰いますの」
「……失敗して、貴方が苦しまれるのが嫌なのです。そもそも、元老院に接触した段階で心労も重なります」
「だから接触しないでこの件も終わらせるように、と?」
「元々、その……どうして、窓口設置をなさりたいと思われたのですか」
「必要性があるからですわ」
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