続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第18話(3)

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非難されショックを受けているのはアレクサンドラなのに、そうしているニコライの方が苦痛を表していることが理解できない。
夫に対し非礼だと押し留める躊躇はあったが、つい先程、一度箍(たが)が外れたばかりのアレクサンドラは、親愛なる夫に対しても制御が緩むのは容易だった。

「何もせずに諦める方が苦しくなりますわ、なさずに打ち切ったことを死ぬまで忘れられないでしょう。私が、私自身の職務を遂行することを、お止めになるのですか」
「貴女はご自身に限界がないかのように、使命に猛進なさってしまう。先日の、その……しょんぼりなさっている姿を知ってしまっては、ただ闇雲に背中を押すことは誤りではないかと、どうしても思ってしまうのです」

夫の前で涙を零した醜態が脳裏に蘇り、アレクサンドラはかっと恥ずかしくなった。
しょんぼりという形容は全く自分に似合わず、そんなに酷い顔をしていたのかと情けないとともに、非常にはしたなく思う。

「私には……目的を達成する力がないということでございますか」
「いいえ、そうではありません。ただその、メルジューンが外れたからには、状況としては後退したと言わざるを得ません。その状態で元老院に当たって、何と言われるか……特に議長のデミトフ公爵は必ずその穴を突くでしょう、激しく。
私としては、ここで留まることをお勧めしたい。貴女がまた、少なからずお心を痛めるかと思うとどうしても……夫ですので」

結局、実力不足だと言われているに等しかった。
過保護であり、余計なお世話でもあったが、アレクサンドラはそのような判定をしながら、抗議したい気持ちを放棄した。
ニコライは、妻の心配その1点だけをもって、妻の耳に痛く、己の口が重くなる忠告を敢えてしてくれている、それを知ってしまったら、見縊(くび)るなと夫と詰ることはもうできなかった。
夫は最後まで、手放しでアレクサンドラを支援してくれると思い込んでいたが、慕わしいと思い、相手も想ってくれていても、全てについて同じ心を持つわけではなかった。
そんな初歩的なことはよく考えればすぐ分かることだったが、初めて体感したアレクサンドラは消沈し、寂しさを覚えた。

(心配してくださるのは嬉しいけれど、だからと言ってここで引き下がることはない)

アレクサンドラはニコライの妻であり、公証の長でもある。
公証長としてやると決めたことはやり遂げなければならず、嫌な思いをしたくないからという甘さが許される立場ではないし、アレクサンドラもそのような考えを抱く選択肢は持ち合わせていなかった。
アレクサンドラとて、好んで嵐に飛び込むのではない。
巻き戻ってかつての自分を悔い、何も起こらないように人との接触を避けて来たにもかかわらず、敢えて衝突するなど主義に反する。
しかし、公証長としての行動で起こることは、たとえ涙するほど辛い思いをしても飲み下して然るべきであり、それを避けたいならば、あらかじめ知恵を絞り行動そのものを洗練させるのみであるとは、アレクサンドラが未来の公証長として受けた教育と、実際に職務に就いてから学んだ。
不得意であることを、撤退の言い訳にしてはならない。

「お気持ちはありがたく存じますが……どのような障害が待っていようとも、やはり試みもせず断念することはできません。
今度はご心配を、お見苦しいさまをお目にかけないように精進いたしますので、見守ってくださいませんでしょうか」

ニコライは、どうしてもですか、と何度か尋ね直したが、妻がどうしても折れないのを悟ると苦虫を噛み潰したように、

「やむを得ませんが……心配はさせてください。悩まれたり傷つかれたりした時は知らせてください。
いや、貴女が不本意でも、勝手に気が付いて勝手に手を出しますよ。私達は家族なのだから。よろしいですね」

と強く断言をし、アレクサンドラはこの思い遣りにいつか報いなければと思いながら、仄かな幸せとともに、粛々と頭を下げた。
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