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第19話(1)
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なかなか代わりになる場所は見つからないものだ、とニコライは溜め息とともに天井を仰いだ。
元老院の公爵・侯爵方を訪問する前に、必ず教えるようにとアレクサンドラに言い聞かせたため、まだ戦いの火蓋は切られていなかった。
その間に、ニコライはメルジューン以外の適地を密かに探し回っていたが、公証の長たる優秀な妻でさえ苦戦した通り、決定的な場所はないと結論付けざるを得なかった。
場所の地理的な問題と、その領主の問題がどちらも解決できなければ適地にはできないが、前者は都市の大きさと帝都からの位置関係で、メルジューン以上に適した土地がない。
第3の都市は帝都に非常に近く、第4の都市は辺境にあって、しかも規模としては著しく落ちる。
順位付けに拘らず位置を重視して目星を付ければ、今度は後者、許可を出すべき領主が絶対に首を縦に振らないとか、山ほど条件を提示して来る強欲だとか、不良と評するしかない者ばかりで埒が明かない。
元々、メルジューンも後者に属していたから、条件が整っていてスムーズに設置が叶う場所はないに等しいのだが、問題があってもなお推し進めるべきである場所は探し出せなかった。
机上に目を落とすと、M公爵からの手紙が無造作に散らばっている。
M公爵領は、規模・位置ともに可もなく不可もなくというところだったが、どうだろうかというニコライの打診はにべもなく断られた。
手紙では、挨拶もなく、君の申し出は果たして奥方の意向なのかと図星を突かれ、公証に権限は持たないが、自領に窓口を置くことのデメリットを理路整然と並べ立てて、ニコライの思い付きを全て潰し、頼まれないのに勝手に立ち回るのは止めたまえという叱責で、問い合わせに対する部分への返信は締め括られていた。
親友に対し、容赦というものはないのかとニコライは溜め息を零す。
確かに、アレクサンドラに隠れての行動ではある。
些細なことでも相談して欲しいと告げ、妻も承知してくれたが、考えの全てが伝えられているわけではなく、隠されていることも数多くあるだろう。
そのような奥ゆかしい妻の先回りをして、不安要素をなくしたいというのが夫の通常の心情であると、斟酌(しんしゃく)してくれても良いのではないかと爪弾きしながら、友の手紙を摘まみ上げた。
数枚纏めて捲り、話題が切り替わっている部分を露わにする。
ところで、という書き出しに始まる近況に、ニコライはもう一度目を通す。
手紙によれば、M公爵はQ伯爵夫人のサロンに足を運ぶようになり、先日第1王女タチアナと直接口を利く栄誉を得たという。
王女は、噂通り音楽について、歴史や文化論を含めて非常に造詣が深く、参集していた学者と真剣な議論を交し、庶民階級の者にも気取りなく話しかけていた。
M公爵自身も、近くの席を占められた幸いを大いに活用し、披露された曲について批評を語り合い、恐れ多くも好みが似通っていることを知り、大いに胸襟(きょうきん)を開くに至った。
王女がお気に入りの作曲者に関する手紙を最近手に入れて、それを伝えたところ、ぜひ読みたいという思し召しであったので献上した。
手紙は事実だけが淡々と綴られていたが、親友の性質を知るニコライは行間から、計画通りに進めた者の自慢が押し寄せる思いだった。
近くに座れたのは幸いではなく、彼の根回しによる。
直接口を利くのは、妹が逆に下々に気を遣うため、1度ならば円滑に実現されるが、2度目以降は話しかける大胆さか、話しかけられるよう雰囲気を誘導する技術がなければ機会などを得られるべくもない。
しかも、芸術には微塵も興味を持たなかった彼が、タチアナの関心に合わせて、付け焼き刃ではないレベルに見識を蓄え、音楽通のようになるまで仕上げる執念に、薄ら寒さを感じた。
元老院の公爵・侯爵方を訪問する前に、必ず教えるようにとアレクサンドラに言い聞かせたため、まだ戦いの火蓋は切られていなかった。
その間に、ニコライはメルジューン以外の適地を密かに探し回っていたが、公証の長たる優秀な妻でさえ苦戦した通り、決定的な場所はないと結論付けざるを得なかった。
場所の地理的な問題と、その領主の問題がどちらも解決できなければ適地にはできないが、前者は都市の大きさと帝都からの位置関係で、メルジューン以上に適した土地がない。
第3の都市は帝都に非常に近く、第4の都市は辺境にあって、しかも規模としては著しく落ちる。
順位付けに拘らず位置を重視して目星を付ければ、今度は後者、許可を出すべき領主が絶対に首を縦に振らないとか、山ほど条件を提示して来る強欲だとか、不良と評するしかない者ばかりで埒が明かない。
元々、メルジューンも後者に属していたから、条件が整っていてスムーズに設置が叶う場所はないに等しいのだが、問題があってもなお推し進めるべきである場所は探し出せなかった。
机上に目を落とすと、M公爵からの手紙が無造作に散らばっている。
M公爵領は、規模・位置ともに可もなく不可もなくというところだったが、どうだろうかというニコライの打診はにべもなく断られた。
手紙では、挨拶もなく、君の申し出は果たして奥方の意向なのかと図星を突かれ、公証に権限は持たないが、自領に窓口を置くことのデメリットを理路整然と並べ立てて、ニコライの思い付きを全て潰し、頼まれないのに勝手に立ち回るのは止めたまえという叱責で、問い合わせに対する部分への返信は締め括られていた。
親友に対し、容赦というものはないのかとニコライは溜め息を零す。
確かに、アレクサンドラに隠れての行動ではある。
些細なことでも相談して欲しいと告げ、妻も承知してくれたが、考えの全てが伝えられているわけではなく、隠されていることも数多くあるだろう。
そのような奥ゆかしい妻の先回りをして、不安要素をなくしたいというのが夫の通常の心情であると、斟酌(しんしゃく)してくれても良いのではないかと爪弾きしながら、友の手紙を摘まみ上げた。
数枚纏めて捲り、話題が切り替わっている部分を露わにする。
ところで、という書き出しに始まる近況に、ニコライはもう一度目を通す。
手紙によれば、M公爵はQ伯爵夫人のサロンに足を運ぶようになり、先日第1王女タチアナと直接口を利く栄誉を得たという。
王女は、噂通り音楽について、歴史や文化論を含めて非常に造詣が深く、参集していた学者と真剣な議論を交し、庶民階級の者にも気取りなく話しかけていた。
M公爵自身も、近くの席を占められた幸いを大いに活用し、披露された曲について批評を語り合い、恐れ多くも好みが似通っていることを知り、大いに胸襟(きょうきん)を開くに至った。
王女がお気に入りの作曲者に関する手紙を最近手に入れて、それを伝えたところ、ぜひ読みたいという思し召しであったので献上した。
手紙は事実だけが淡々と綴られていたが、親友の性質を知るニコライは行間から、計画通りに進めた者の自慢が押し寄せる思いだった。
近くに座れたのは幸いではなく、彼の根回しによる。
直接口を利くのは、妹が逆に下々に気を遣うため、1度ならば円滑に実現されるが、2度目以降は話しかける大胆さか、話しかけられるよう雰囲気を誘導する技術がなければ機会などを得られるべくもない。
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