立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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空輸任務編

第40章 代償

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容赦なく眼前に迫る大地。
肌を切る風が無情に強さを増していく。
重力に弄ばれなす術がないまま、メタルとティルは互いに身を寄せ合い、固く目を閉じた。

「(もう自分はどうなってもいい。どうかティルの命だけでも・・・!)」

「(神様お願い、メタルだけでも・・・!)」

互いのことを思い遣ったとき、不意に、2人を隔てる肉体の輪郭が曖昧になったかのような感覚を覚える。
メタルの魂気がティルの体を包み込み、彼女の背中に集まっていく。

「(背中が・・・熱い⁉︎この感覚は!)」

自分の身に起きた変化を感じ取ったティルは、咄嗟に、普段魂気を練る時と同じように体の奥に力を込めた。

次の瞬間・・・

ティルの背中に光り輝く翼が形作られ、2人は重力から解き放たれていた。

「これは・・・、オレの魂気を使って翼が作られたのか⁉︎」

事態をすぐには飲み込めないメタルが、腕の中のティルに視線を落とす。ティルは呆気に取られたような顔つきで見上げていたが、やがて、張り詰めた糸が緩んだように、くしゃりと安堵を見せた。

翼は2人をゆっくりと大地へと誘い、彼らの体を優しく下ろした。
大地に触れる手の感触をゆっくりと確かめながら身を起こし、2人は再び立ち上がった。

改めて互いの顔を見る。
2人ともボロボロ、ひどい姿だ。
落下の恐怖で忘れていた傷の痛みが蘇り、苦悶の声が漏れるが、それでも口元が緩む。

生きている。

徐々に実感が湧いてくる。感極まり歓喜の声を上げながら今一度互いを抱き寄せたが、やがて、ふと我に返ったかのように体を離し、そそくさと視線を泳がせた。

「い、いやー、今度は本当に死ぬかと思った。助かったよ、ティル。」

「メ、メタルが来てくれたおかげだよ。私だけだったら・・・ペッチャンコだったよ、きっと。」

ペッチャンコという響きが妙に軽妙で愉快に感じられ、メタルは笑い声を上げそうになるが、忘れることは許さないとばかりに声高に叫ぶ背中の痛みに襲われ、うめき声を上げて膝をついた。
ネオグライダーに滅多切りにされた背中からは、おびただしい血が流れ続け、いつの間にか足元を赤く浸していた。

「メ、メタル大丈夫⁉︎ひどいケガ・・・。」

「参ったな・・・これ全部オレの血か。」

現実を突きつけられると、途端に強烈な眩暈と寒気に襲われ、立ち上がることができなくなってしまった。

「待っててね、すぐに応急処置するから。あ、でも早く発信機で助けも呼ばないと。ええと、落下時刻からするとこの辺の場所は・・・」

ティル自身もひどいケガを負っていたにも関わらず、油断すると意識がもやがかりそうになる頭にムチを打ち、テキパキと手を動かす。

しかし・・・

突如、殴りつけるような頭痛がティルを襲った。
思わず声を漏らし腰を折ると、足下が斑らに赤く染まる。
鼻の奥にドロドロとした金物臭さを感じ、思わず顔に手を当てると、鼻腔からおびただしい量の血が溢れていることに気がついた。

「(え、何が起きてるの・・・)」

考えを巡らせる暇もなく、視界が狭窄する。意識が深い闇に飲み込まれ、五感が徐々に消えていく・・・

「(ウソ、やだ・・・)」

「(この感覚、どこかで味わったことある⁉︎
いつだったっけ・・・?思い出せな・・い・・)」

ティルの体はまるで魂を失ったように力を無くし、膝ががくりと折れると、あっけなく地面に崩れた。その瞳は焦点を失い、ぽっかりと空いた穴のように、ただ天を仰いでいた。

「ティル・・・」

メタルはそんなティルの様子を目の当たりにしどうにか手を伸ばそうとするも、すでに体を動かす力は残っておらず、自らの作り出した血の海に体も心も沈んで行った。

雲間から顔を覗かせた太陽が、力無く大地に張り付いた2人の姿を容赦なく照らし出していた。

・・・

意識を失ったメタルは、夢を見た。

暗闇の中、メタルはただ走っていた。目の前には遠く灯りのようなものが見える。息を切らしながら無心に足を動かすが、あまりにも遠くにあるのだろうか、薄明かりとの距離が縮まる気配は一向にない。

『『『お前はオレより見どころあるかもな。』』』

かつて父から投げられた思い出のセリフが、焦燥感を煽るかのようにくぐもった声で反響する。

「いいんだ!すぐに届かなくても。今のオレには、もっと大事なものが・・・」

雑念を振り払うように手を前に伸ばすと、温もりが触れるのを感じる。
つかんだのは、1人の少女の華奢な手。
ティルの屈託のない笑顔がこちらを振り向く。

しかし、もう離すまいと力を込めると、その手はまるで土塊のようにボロボロと崩れて形を失ってしまう。

次に視界を覆ったのは、空な瞳で血の海に横たわる彼女の姿・・・
その口元がかすかに動く。

『助けて・・・』

それだけ言い残すと、ティルの姿は血の海の中に沈んで、音もなく消えていく。

・・・

「うわあー!」

メタルは叫び声を上げて身を起こす。全身が汗でぐったりと濡れている。
荒い呼吸音が耳に響くが、それが自分のものであることにしばらくして思い至る。
その次に、自分が身を預けているのが病室の寝台であることにようやく気がつく。

「夢・・・か?ここは、一体?」

まだ混濁する意識の中で周囲を見渡していると、横から声が聞こえる。

「ようやく目覚めたか。それだけ叫ぶ元気があるなら、もう大丈夫だな。」

一足遅れで視線を向けると、腰掛けに体を預けたままこちらを見るジェノの姿があった。

「ジェノ・・・。あれから、どうなったんだ?・・・ティルは、ティルはどうなったんだ⁉︎」

「落ち着け、1つずつ伝えてやる。まずは水を飲め。」

ジェノはポットから湯冷ましを注ぎ、コップを差し出した。

メタルはそれを言われるがままに口に含み、胃袋に落とし込む。

ジェノから聞いた話はこうだった。

敵は輸送船を深追いすることなく撤退し、結果的にオルハン鉱石の輸送には成功した。
さらに、ティルが起動していた発信機の救難信号を頼りに、不時着したジェノが傷ついていた2人を発見、応急処置を行ったところに、軍の救援部隊が到着した、ということだった。

「あと少し発見が遅ければ、危ないところだった。悪運の強いやつだな。だが、お前たちが身を投げ出しただけの甲斐もあって、今回の任務は『成功』に終わったと、上は判断している。」

ジェノは、メタルたちを助けるために雄叫びを上げながらネオグライダーに突撃したことはおくびにも出さず、辛辣な口調で淡々と伝えた。

そう、オルハン鉱石が目的地に到着した以上、この任務は大別すれば『成功』なのだ。

自分の不甲斐なさを噛み締めつつも、その1点だけは前向きに捉える・・・というわけにはいかなかった。

「ティルは、大丈夫なのか?」

今までジェノの口から出なかった彼女の安否を、耐えきれずに尋ねた。

「・・・ティルは、意識が戻っていない。スカーフェイス先生の処置で、体の傷はお前よりも早く治ったハズなのに、だ。」

頭の中が真っ白になる。

・・・

同じ頃、ティルは意識を失ったまま、別室の寝台に乗せられていた。
その体には何本もの管が繋がれ、室内にはバイタルサインを伝える電子音が無機質なリズムを刻んでいた。

機器の明かりが照らす薄明かりの中に、まるで置き物のように、静かに目を閉じ眠り続ける少女の顔が、浮かび上がっていた。













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