立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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キサラギの里編

第66章 キサラギの里の攻防8 帰還

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上空から『ジャッジメントレイン』を見舞ったティルは、高揚していた。

長らく闇に沈んでいる間に失われていた五感が、その埋め合わせをしようとするかのように、感度を増している。

星々の煌めき。

木々の囁き。

肌を撫ぜる夜風。

森の香り。

舌の奥にまだ尾を引く薬の苦味さえも、慣れてくると少しだけ愛おしい。

戦域に辿り付くと、空の上からでも眼に飛び込んでくる、懐かしい仲間たちの姿。
しかし、レイチェルとジェノは既に倒れている。
メタルは今にも、重戦車を思わせる巨漢とぶつかろうとしている。
私も何かしなきゃ!

今までの鬱憤を晴らすかのように、ど派手な一発を撃ち込んだのだった。

閃光と土煙の隙間から、こちらに気がついたメタルの、パッと輝く瞳が。

心臓が高鳴り、『キサラギの秘薬』がティルの脳をさらに熱く揺らす。

「やっほーー皆!心配かけてごめんね!『天空の飛行美少女』ティル、ただ今、帰還しました!」

高らかに、声を張り上げた。

「天空の」

「飛行」

「美少女」

戦場の空気が一瞬、凍りつく。
勢い余って飛び出したであろう、場違いな名乗りに、メタルは一瞬呆気に取られた顔を浮かべるが、すぐに、ニヤリと口角を上げる。

あれは間違いなく、ティルだ。
元気なティルが戻って来た!

「ああ、よろしく頼むぜ、『天女様』!」

ティルの集中砲火を受けたジグロは、咄嗟に足を止めている。

今だ!

メタルは、爆ぜる笑顔を推進力に変えて、地面を蹴った。

「『アースクラッシュ』!!」

全霊を乗せた一撃を、ジグロの脳天に振り下ろした。

「ゲハァッ!」

ジェノの捨て身の攻撃により、頭部へのダメージが蓄積していたジグロが、強烈な追撃を受けてよろめく。

「少しはやるじゃねぇか、ガキンチョ共!」

それでも、戦に飢えた筋肉の重戦車は、止まらない。

歓喜すら帯びた好戦的な笑み。
上がり切った口角から、ギラギラと輝く白い歯が覗く。

「突撃!」

咆哮を置き去りにして、ティルが急降下・・・
からの、旋回、反転、加速、また加速。
ジグロの顔をかすめるように横切り、光のムチで一発見舞うと、敵の周囲を縦横無尽に飛び回り、翻弄する。
ジグロも無造作に拳を振るい、打ち落とそうとするが、絶好調のティルを捉えることが出来ない。

「ハッハァーー!なかなか破天荒な天女様もいたものだな!」

「びっくりした?悔しかったら捕まえてごらん!筋肉大魔神!」

軽口を叩き込みながら、ジグロの正拳突きから噴き出す衝撃波を、ひらりとかわしざま、光のムチの先を、ジグロの喉元に滑り込ませる。

「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」

炸裂音。

弾ける閃光が、夜の森を照らす。

頭部への重なる痛打を受け、ついにジグロが膝をつく。

「(こいつらは、1人1人は確実にオレより弱いはずだ。なのに、ここまで食い下がるとは。若いとはいえ、精鋭隊に属しているのは伊達ではないということか。やはり、人生の意味を決めるのは、長さじゃあないな。)」

心の中で、己に対して奮戦する少年少女たちに、惜しみない賛辞を送った。

「(人間も悪くない・・・と言いたい所だが、オレとて命の使い方の密度で、お前たちに負けるつもるはない。悪く思うなよ?)」

森全体を揺らすかのような、重低音。
ジグロは地面を踏み鳴らし、腰を落とすと、全身を燃やすかのような魔力の柱を立ち上げ、あの破壊の波動を撃つ準備に入った。

「させるか!」

「なんかヤバい!」

ただならぬ気配を感じ、メタルは剣を振るって斬撃を、ティルは翼から魂気の羽を撃ち込むが、ジグロの周囲を覆う魔力の渦に阻まれ、攻撃態勢に移るジグロを止めることは出来なかった。

「クソ・・・次にあの一撃を撃たれたら・・・終わりだ。」

地面に突っ伏したまま動けないジェノが咳き込み、枯れた声を漏らす。

「ティル、目覚めてすぐにこんなに動けるなんて・・・何か秘密がありますか?」

か細い声の主は、レイチェルだった。
『回復魔法』を限界まで自分に使い、全ての魂気を使い果たしてしまったものの、どうにか立ち上がれるようになっていた。

「レイチェル・・・!実は、薬でちょっとムリしてる。未完成の、命を前借りする薬・・・」

「それを、私にも下さい!」

かぶせ気味に、レイチェルが声を絞り出す。

「ダメだよ。後でどんな副作用があるか、分からない。」

ティルは、いつの間にか滝のような汗をかいていた。薬の影響だろうか。体が危険な熱をはらみ、呼吸は速く、不規則だ。

「今、あいつの一撃に対抗出来るのは、私の『カオスフレア』だけです。皆頑張ってるんです。それに、私もこの里を守りたい!命、張らせて下さい!」

いつも自信のなさそうだった彼女の瞳の深淵に宿る、確かな決意。
ティルは根負けし、どうしても必要になった時のためにと渡された、残り1本の秘薬の小瓶を懐から取り出し、レイチェルに渡した。

「・・・ありがとうです、ティル。」

レイチェルは受け取ったボトルを口に含み、飲み下した。

「(案の定、不味い。お約束ですね。でも、たぎってきました!)」

体が熱くなり、思考がクリアになる。
全能感。
魂気を練る力が戻ったことを確信する。

同時に、体と命が削り取られるような、ザラっとした感覚。

「(ああ、これは本当に、大事な何かがすり減るヤツですね。)」

直感しながらも、レイチェルは拾い上げた杖を高々と掲げ、その先に極彩色の輝きと、黒い火花を練り上げる。
もう一度、全力の『カオスフレア』を放つために。

ジグロは一連の様子を、ただ、見守っていた。
先手を打って攻撃を放つことは容易だった。
しかし、自らにここまで食い下がった若人たちが命をすり減らしての全力の一撃。
正面から受けて捩じ伏せたいという気持ちがまさり、自らもまた、さらに力を高めながら、敵に猶予を与えることを選んでいた。

「(ドグマハートやゲンジには悪いが、オレ自身の人生、全力で楽しませてもらおうか。)」

ジグロを取り巻く奔流が、さらに荒々しくなる。

レイチェルは、今にもはち切れんばかりに力を
溜め込んだ杖の先を前に構えると、ティルに語りかけた。

「お母さんとは、仲直り出来ましたか?」

「(え、今⁉︎)」

予想外の問いかけに、少したじろぎながらも、ティルは答えた。

「正直、まだ分からない。でもね、今日初めて、私のこと1人の戦士として少し認めてくれたのかなって思えた。お父さんも相変わらずだし、里の皆も命懸けで戦ってる。レイチェル、ありがとう。私も、この里を守りたいよ。」

「ありがとうです、ティル。それ聞いて、私、頑張れそうです。」

レイチェルの中で、自責の念、悔しさ、決意、そして、背中を押してくれる友への感謝が、弾けて混ざる。

「私も今、ティルと同じ気持ちです。一緒にあいつやっつけましょ!」

敵は強大。でも、迷いはない。

ジグロもまた最高潮に達し、両の手を前にかざす。
みなぎる魔力が彼の全身の肌を岩のように硬質化させ、ゴーレムを彷彿とさせる異形の姿へと変える。

「話は終わったか?さあ、悔いのないようにあがけよ。『ファイナルインパクト』!」

先刻にも増して巨大な破壊の波動を放つ。

「受けて立ちます!
 出力最大!『カオスフレア』!」

今宵2度目の、破壊の波動と混沌の波動のぶつかり合い。

眩いばかりの閃光が、戦士たちを包み込んだ。

























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