立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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強襲編

第72章 思惑1

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この日再び、王宮の謁見の間には、S級戦士の面々が揃っていた。

怒髪天を抜く武人の出立ち、バルトス・ヴォルファング。
いつもの武道着物姿に、今日は腰に一振りの獲物を携えている。

メイカ・バレンタイン。
これが自分の戦闘服だとばかりに、鮮やかなネイビーのスーツで身を固め、額には水晶の青い輝きが、怪しく揺れる。

ガルド・ヘルファイヤー。
ガッシリと筋肉質な体躯を迷彩服に包み上げる。短く刈り上げた髪が精悍な印象を、さらに引き立てる。
北方の防衛ラインに、野生の魔獣よりも明らかに強力な個体が多く押し寄せるようになったため、前線に長く止まっていたが、今回は、シェリーの応援の甲斐もあって情勢がひと段落したため、現場を自身の親衛隊に任せて、国王の呼びかけに馳せ参じた。

ヘクター・スカーフェイス。
漆黒の外套を纏い颯爽と現れる・・・が、古傷の刻まれた顔をいつも以上に歪ませ、ほんのり汗を浮かべている。
今日は、キサラギの里で受けた傷が癒えていないのを押して、招集に応じていた。

シェリー・ハイボール。
しなやかな肢体を軽装のスポーツウェアに包み、後ろで括った髪を煌びやかに揺らす・・・が、その顔つきは、何やら浮かない様子だ。

そんな彼らを一同に眺めながら、国王、レバン・ドルキーム・ガンダラⅢ世は、真紅のマントに身を包み、その口髭は鋭利な輝きを放っていた。

「大義である。今日集まってもらったのは他でもない。我が国の管理下に置くことになった、古代超文明のオーバーテクノロジーの処遇、そして、完成した『ブラックファルコン』の運用についてだ。」

国王が静かに重く切り出し、謁見の間に緊張が走る。

いち早く答えたのは、メイカだった。

「キサラギの里の技術責任者、バンという男でしたか。彼から申し送られた話では、オーバーテクノロジー『銀の歯車』と、種々の魔獣の細胞の抽出物を原料に、破格の回復力を持つ秘薬を合成出来るとか。これを我が軍に導入しない手は、ないのではないかと。」

国庫に収められたオーバーテクノロジーの中には、魂と肉体の結合に干渉するという『黒き十字架』及びそのレプリカ、時間に干渉する力を持つとされる、『銀の歯車』など、霊や時間に影響を及ぼすとされるアイテムが肩を並べていたが、メイカの感心を最も引いたのは、キサラギの秘薬の話だった。

苛烈な副作用を伴うことを差し引いても、破格の効用。希少アイテムを原材料に用いなければならず、さらに、万人に適合するとは限らないものだ。しかし、可能な限りの体制で製造し、軍属に支給すべきというのが、メイカの見解だった。

それを聞いたシェリーが、即座に反論する。

「何を言ってるんだい、メイカ。それを使ったせいで、ティルもレイチェルも、生死の境を彷徨ったっていう報告だよ。そんなものを支給するなんて、とてもじゃないけど認められないね。」

この日、シェリーは自分を責めていた。
前線部隊の応援に駆け付けなければならなかったため、キサラギの里に向かうメタル達に同行することは出来なかったが、ずっと後ろ髪を引かれていた。ティルが無事に目覚めたことは心の底から喜ばしかったが、一方で、彼らが自分のいない所でまたもや窮地に追い込まれ、命を落としかけたことに、心を傷めていた。
命令に従い、前線で自分の力を振るったが、本当に正しい選択だったのか、分からなくなっていた。

・・・

『うわあーー、怖いよ、死にたくない!』

『先生・・・助けて!』

かつて、教師を志していた頃に、魔獣の襲撃で教え子の命を失った日の映像が、脳裏に繰り返し再生される。
悲鳴。
血塗られた黒板アート。
腕の中で静かに消えていく、温もり。

・・・

「(分かっている。公私混同だってことは。指令に従ったことは、間違いじゃない。・・・それでも、あの日の記憶が、胸の奥から私を突き刺すんだ。)」

何もしていないのに、時折、視界が狭窄し、心臓の早鳴りを覚える。
張り詰めた空気の中、シェリーは独り、心の傷の疼きと戦っていた。

「私もシェリーに同感だ。年若いとはいえ、A級戦士の彼女らでさえあの有様、B級以下の兵士は、とても副作用に耐えられないだろう。」

続けて口を開いたスカーフェイスも、シェリーに追随した。
しかし、それをメイカが切って捨てた。

「自決用の弾丸よりは、はるかにマシだろう。そもそも、大量生産出来る代物じゃないんだ。使うかどうかは、力のある者だけに、自分の意思で決めさせればいい。
らしくもないな、スカーフェイス。冷静に考えろ。それとも、他に強力な回復手段が整ったら、自分の立場が脅かされるとでも考えたか?」

挑発するように口角を上げて、持論をまくし立てた。
スカーフェイスの眼に一瞬、激情の欠片がほとばしるが、自制するようにグッと抑え込む。メイカに反論することはせず、何かを考え込むように静かに目を閉じた。
自分の能力に代わり得る治療手段を求めていたのは、彼の本音でもあった。しかし、秘薬の問題点を無視することも出来ず、自己矛盾を起こしていることに気づいたからだった。

謁見の間には、ピリピリとした不穏な空気が漂っていた。

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