立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

eggman

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強襲編

第74章 倒錯

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謁見の間を退出したシェリーは、フラフラと覚束ない足取りで、昼の繁華街へと向かっていた。

耳鳴りが止まない。
あの日の映像が流れ続ける。

何かの均衡が崩れて、関を切るように露見した、思いがけないほどの自らの脆さ。ガンダラ王国最強の一角にまで登り詰めたはずなのに・・・。シェリー自身が戸惑っていた。

精鋭隊に所属する以上、才能があれば年端も行かぬ若者が戦地に赴くことは、決して珍しくなかった。元々、そのことに心を痛めてはいたが、今回、教え子のように気にかけていたメタルやティル達が、重ねて危険にさらされたことが、自責の念に拍車をかけた。さらに、その経緯を踏まえてなお、原因の1つとも言える秘薬を隊員に使わせることが上層部で議論されていたことで、自分の選んだ道が正しかったのか分からなくてなりかけると同時に、心の傷が一気に開いてしまったのだった。

「(いきなりどうしてしまったんだ。私は、鋼魂精鋭隊のS級戦士なのに。もっと、しっかりしなきゃいけないのに・・・。気持ちを紛らわせなければ。誰かに、話を聞いて欲しい。受け止めてもらわないと・・・壊れる。)」

ぼんやりと定まらない目線で、行きつけの居酒屋『イオリ』の扉を開ける。

過去の辛い記憶を必死で胸に押し込み、それでも心に影が刺す時には、チートデイと称して、馴染みの店で心ゆくまで飲み食いすることで、気持ちを紛らわせて来た。

「あれ、ランチタイムに来るなんて珍しいね・・・?大丈夫かい?すごい顔してるよ⁉︎」

まるで幽鬼のように、生気の抜けたシェリーの顔つきを見て、カウンター越しに大将が心配する。

「お願い・・・。『いつものセットとドリンク』を出して。あ、一応、勤務時間中だから、今日はソフトドリンクで。」

「本当に・・・大丈夫かい?」

いつもの姿とのあまりの違いに驚きながらも、大将は手際よく、だし巻きたまごと天ぷらの盛り合わせを作り、うなだれるように腰掛けるシェリーに差し出した。

焼きたてのたまごを箸で割る。ジューシーな断面が顔を覗かせ、立ち上がる出汁の香りが、鼻腔をくすぐる。

優しさを形にしたようなころもを纏ったえび天。
一口かじれば、

サク

ふわ

プリ

肉厚の身が程よい弾力で、『元気出せよ。』と答えてくれる。

・・・はずだった。

「(・・・どうしよう、楽しめない。)」

だし巻きの香りも、天ぷらの優しさも、心に届かない。
いつもはシェリーの心を躍らせてくれるはずの品々が、まるで砂を噛むように味気ない。

誰かに話を聞いてもらおうにも、軍の内情に関わる話を大将にするわけにも行かない。

心の逃げ道を塞がれ、いつの間にか涙が頬を伝っている。

「シェリーちゃん??」

「・・・ごめん。また来るよ。」

注文した品と、心づけの一皿を、まるで作業のように淡々と胃に流し込むと、シェリーは店を後にした。

目眩と動悸が一段と激しくなる。

「(キサラギの秘薬、オーバーテクノロジー・・・。そんなものがあるから、子供達を戦場にまた送り出さなきゃいけなくなるんだ。私が守らなきゃ、あの子たちを・・・)」

倒錯した思考が、断片的に頭をよぎる。
足取りはトボトボと覚束ない。
記憶が途切れ途切れになる・・・
景色の輪郭が消え、視界が白に包まれる・・・

・・・

気がつくと、シェリーは、石造りの冷たい建物の中にいた。

長い通路を真っ直ぐに進んだ奥には、堅牢に施錠された扉が見える。人気はなく、自分の立てる足音だけが耳障りに響く。
彼女が今いるのは、軍の施設内にある保管庫へと続く廊下だった。

「(いつの間にこんなところに・・・。私は何をしようとしているんだ、何を・・・?)」

ぼんやりと足を運ぶ自分を、どこか他人事のように俯瞰しながら、取り憑かれたように通路を進む。

「(この角を曲がったら、保管庫がある。その中には今、オーバーテクノロジーも入れられているはず・・・。いっそ、この手で壊してしまえば・・・。いや、そんなことをしたら軍人しての務めも果たせなくなる・・・でも・・・)」

そこまで考えたところで、ふと、施錠された扉の前には見張りの隊員がいるということが頭に浮かぶ。
今は特に守りを厳重にするため、A級隊員のダリオとエイトが、配置されているはずだ。

「いけない、いけない。私ったら何考えてたんだろ。魔がさしかけてたのかな。うーん、まぁ、せっかくだから2人に声だけかけて、帰るかな・・・。」

歳の近い若手の戦士2人の姿を思い浮かべて、ふと現実に立ち返る。
耳鳴りは遠のき、視界はにわかに透明感を取り戻していた。

バツの悪い笑顔を浮かべながら、角を曲がる。
しかしその時、彼女の目に映ったのは・・・。

「・・・!何があったんだ、2人とも!」

頭から血を流し、床に倒れ伏す戦士の姿が、そこにあった。
そして、厳重に施錠されていたはずの保管庫の扉は、無造作に開け放たれている。

「まさか、何者かに襲われたっていうの?」

急いで2人の元に駆け寄る。
後頭部を強打されているようだが、まだ息はある。

床には、何かで擦ったような跡が微かに残っているものの、争った形跡がほとんど見当たらない。
一瞬で意識を奪ったことになる。それも、A級隊員2人を相手に。
間違いなく、手練れの仕業だ。

否が応でも警戒のスイッチが入り、シェリーは最大限に神経を研ぎ澄ます。


その時、背後から忍び寄る気配が。

「誰だい⁉︎」

「お前こそ、こんな所で何をしている?」

身を翻した先では、メイカ・バレンタインが不敵な笑みと、青く冷たい輝きを浮かべ、シェリーのことを見下ろしていた。









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