三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください

まさき

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第二章 幼なじみの微笑み

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第二章 幼なじみの微笑み
 
麗奈と初めて会ったのは、結婚して半年が過ぎた頃だった。
 
誠の会社の同僚だという話は聞いていた。幼なじみで、同じ中学出身で、偶然同じ職場になったと、誠は笑いながら教えてくれた。その笑顔が少し違う種類のものだと気づいたのは、もっとあとのことだ。
 
最初に顔を合わせたのは、誠の職場の飲み会だった。配偶者も参加できるという気軽な集まりで、私は誠に誘われるまま出席した。会場は駅近くの居酒屋で、十人ほどが集まっていた。
 
「澄花さんですよね。誠くんからよく聞いてます」
 
声をかけてきたのが麗奈だった。
 
黒髪のきれいな人だった。華やかすぎず、でも場の中心にいるような、不思議な存在感がある。笑うと目が細くなって、それがどこか計算されているように見えた。気のせいかもしれない。でも私の中の何かが、小さく警戒した。
 
「はじめまして。よろしくお願いします」
 
私は笑顔で返した。完璧な笑顔で。
 
麗奈は誠の隣にすんなりと座って、昔話を次々と話し始めた。中学時代のこと、部活のこと、先生のあだ名のこと。誠はそのたびに声を上げて笑った。私が隣にいることを、少しだけ忘れているみたいに。
 
「誠くんって昔から優しいんですよね。困ってる子がいたら必ず助けに行くタイプで」
 
麗奈が言うと、誠は照れたように頭を掻いた。
 
「大げさだろ」
 
「大げさじゃないよ。私、あのとき本当に助かったんだから」
 
二人の間に流れる空気は、穏やかで、自然で、そしてひどく親密だった。私はグラスを持ったまま、ただ微笑んでいた。会話に入るタイミングを、何度か探して、そのたびに諦めた。
 
帰り道、誠は上機嫌だった。
 
「麗奈、変わってないなあ。昔から明るくて、場の空気作るのうまいんだよ」
 
「そうだね」と私は答えた。
 
「澄花とも仲良くなれると思う。同い年だし」
 
「うん」と私は答えた。
 
誠は気づいていなかった。私がその夜、一度もお酒を飲めなかったことに。グラスを傾けるたびに、喉が締まる感じがして、何も流し込めなかったことに。
 
あれは嫉妬だったのか、それとも予感だったのか。
 
今となってはどちらでもよかった。結果は同じだったから。
 
マンションに帰って、お風呂を済ませて、ベッドに入っても眠れなかった。隣で誠はすぐに寝息を立てた。その寝顔を見ながら、私は天井を見上げた。
 
大丈夫。夫の昔の友達というだけだ。
 
そう自分に言い聞かせた。
 
でも目を閉じると、麗奈が誠を見る目が浮かんだ。あの、柔らかくて、懐かしそうで、それでいて少し熱を帯びた視線が。
 
私はそっと目を開けた。
 
眠れない夜が、これから続くとはまだ知らなかった。
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