三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください

まさき

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第四章 麗奈という存在

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第四章 麗奈という存在
 
麗奈と二人きりになったのは、その年の初夏のことだった。
 
誠の会社の先輩の結婚式があって、夫婦で招待された。披露宴が終わったあと、二次会の会場へ移動する途中、誠が古い友人に捕まって、私は麗奈と並んで歩くことになった。
 
「澄花さんって、今日もきれいですね」
 
麗奈が言った。嫌みには聞こえなかった。でも素直に受け取れない自分がいた。
 
「ありがとう。麗奈さんこそ、そのドレス似合ってる」
 
「本当ですか? 誠くんには何も言ってもらえなかったんですよね」
 
さらりと言った。誠くん、という呼び方が、私の胸にひっかかった。職場の同僚なら、普通は苗字で呼ぶものじゃないか。でも幼なじみなら、そうじゃないかもしれない。
 
「誠、そういうの気づかないから」
 
私は笑って答えた。
 
「そうですよね。昔からそうで」麗奈も笑った。「ところで、澄花さんって呼んでもいいですか? なんか、さんづけで苗字だと距離感あって」
 
「もちろん。私も麗奈さんって呼んでいい?」
 
「ぜひ」麗奈は目を細めて笑った。「でも大事なときはちゃんと見てくれるんですよ、あの人。澄花さんも知ってますよね」
 
あの人、という言葉が耳に残った。
 
二次会の席で、麗奈は終始明るかった。場を盛り上げて、みんなを笑わせて、誠の隣に自然に収まった。私は少し離れた席で、グラスを傾けながらその様子を見ていた。
 
誠が麗奈に何か耳打ちした。麗奈が笑って、誠の腕を軽く叩いた。
 
ただそれだけのことだった。
 
でも私の手の中のグラスが、少し強く握られていた。
 
帰り道は三人一緒だった。駅の改札で麗奈と別れるとき、麗奈は私に向かって言った。
 
「澄花さん、今度ランチでもどうですか。誠くん抜きで、女同士で」
 
笑顔だった。きれいな、完璧な笑顔だった。
 
「ぜひ」と私は答えた。
 
改札を抜けながら、私は自分の笑顔がひどく似ていると思った。麗奈の笑顔と、私の笑顔が。どちらも感情を隠した、完璧な仮面みたいだと。
 
電車の中で、誠は眠った。私は窓の外の暗い景色を見つめた。
 
麗奈のことが嫌いかと聞かれたら、答えに困る。感じが悪いわけじゃない。意地悪をされたわけでもない。ただ、彼女のそばにいると、自分がひどく透明になっていく気がした。
 
誠の視界から、少しずつ消えていくような。
 
そんな気がして、私は膝の上で静かに手を握った。
 
隣で誠は、穏やかな寝顔をしていた。
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