三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください

まさき

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第五章 揺れる午後

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第五章 揺れる午後
 
麗奈からランチの誘いが来たのは、結婚式から二週間後のことだった。
 
断る理由がなかった。いや、正確には、断ったら負けな気がした。何に負けるのかはわからない。ただ、ここで引いたら何かが決まってしまう気がして、私は「ぜひ」と返信した。
 
待ち合わせは駅前のイタリアンだった。麗奈は五分前に来ていた。白いブラウスに細いパンツ、肩にかけた小さなバッグ。仕事帰りとは思えないくらい、きれいにまとまっていた。
 
「待った?」
 
「全然。私も今来たところ」
 
ありきたりな挨拶をして、店に入った。
 
料理が来るまでの間、麗奈はよく話した。職場のこと、最近見た映画のこと、気になっているカフェのこと。話題が尽きない人だった。私も相槌を打ちながら、少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。
 
もしかしたら、ただの気のいい人なのかもしれない。
 
そう思い始めた頃、麗奈が言った。
 
「誠くんって、最近どうですか? 職場では相変わらず忙しそうで」
 
「そうね、帰りも遅いし」
 
「心配しますよね。あの人、無理するタイプだから」
 
また、あの人という言葉。私はパスタを口に運びながら、さりげなく聞いた。
 
「麗奈さんって、誠のこと昔から好きだったりした?」
 
笑いながら言った。冗談めかして。でも答えを聞きたかった。
 
麗奈は少し間を置いた。
 
「どうだろう」
 
笑っていた。きれいに、穏やかに。
 
「好きだったのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。昔のことはよく覚えていないんですよね」
 
覚えていない、という言葉が、なぜか引っかかった。覚えていないのではなく、言わないのだと、私は思った。でもそれを確かめる方法はなかった。
 
「そっか」と私は笑った。
 
ランチは二時間ほどで終わった。店を出るとき、麗奈は「また来ましょう」と言った。私も「うん、ぜひ」と答えた。
 
電車に乗って、座席に腰を下ろしたとき、急に疲れを感じた。
 
楽しくなかったわけじゃない。麗奈は話しやすいし、気が利くし、一緒にいて退屈しない。でも帰り道がこんなに重いのはなぜだろう。
 
スマートフォンを開くと、誠からメッセージが来ていた。
 
「今日も遅くなる」
 
それだけだった。既読をつけて、画面を閉じた。
 
窓の外を流れる景色を見ながら、私はさっきの麗奈の言葉を思い返した。
 
好きだったのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。
 
どちらにしても、今はどうなのか。それだけが、頭の中でゆっくりと揺れ続けた。
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