三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください

まさき

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第六章 返信のない夜

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第六章 返信のない夜
 
誠に連絡が繋がらない夜が増えたのは、夏が終わる頃からだった。
 
最初は気にしなかった。会議中かもしれない、接待かもしれない、電車の中で気づかなかっただけかもしれない。いくらでも理由は作れた。作ることに、慣れていた。
 
でもその夜は違った。
 
夕方六時に「少し遅くなる」とメッセージが来て、それきりだった。既読もつかない。電話をかけると、三回目のコールで切れた。出なかったのか、それとも切ったのか。どちらかは、わからなかった。
 
夕食を作って、テーブルに並べて、一人で食べた。誠の分はラップをかけて冷蔵庫に入れた。いつものことだった。
 
十時を過ぎた頃、ようやく既読がついた。
 
「ごめん、飲みが長引いてる。先に寝てて」
 
それだけだった。
 
私は「わかった」と返した。それ以上は何も聞かなかった。
 
ベッドに入っても眠れなかった。天井を見上げながら、スマートフォンの画面を何度も確認した。新しいメッセージは来なかった。
 
ふと思い立って、誠のSNSを開いた。普段はほとんど更新しないアカウントだ。最後の投稿は半年前の旅行の写真だった。でもその日の夜、新しい「いいね」がついていた。
 
麗奈のアカウントから。
 
時刻は二十二時十七分。誠が「先に寝てて」と送ってきた、ちょうど十分後だった。
 
偶然かもしれない。SNSなんて、いつでもどこでも見られる。飲みの席でスマートフォンを触ることだってある。でも胸の奥で何かが締まって、息が浅くなった。
 
私はアプリを閉じた。
 
考えすぎだと、自分に言い聞かせた。証拠なんて何もない。ただの「いいね」ひとつで、夫を疑うのは馬鹿げている。
 
でも眠れなかった。
 
日付が変わる頃、玄関の鍵が開く音がした。誠が帰ってきた。足音が廊下を進んで、リビングで止まった。冷蔵庫を開ける音。ラップを外す音。レンジが回る音。
 
私は目を閉じたまま、寝たふりをしていた。
 
しばらくして、誠がベッドルームに入ってきた。着替える気配。シーツが持ち上がる感触。
 
「……起きてた?」
 
低い声で、誠が言った。
 
「ううん」
 
私は答えた。目は開けなかった。
 
誠はそれ以上何も言わなかった。しばらくして、寝息が聞こえてきた。
 
私はずっと、天井を見ていた。
 
泣きたかった。でも泣いたら、何かを認めることになる気がした。だから泣かなかった。ただ夜が明けるのを、静かに待った。
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