三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください

まさき

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第七章 空いた助手席

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第七章 空いた助手席
 
九月の連休に、誠の実家へ行く予定があった。
 
毎年恒例のことだった。誠の両親は車で二時間ほどの場所に住んでいて、お盆と年末、それから秋の連休には顔を出すのが暗黙のルールになっていた。私はそれを当然のこととして受け入れていた。嫌いではなかった。誠の両親は優しいし、実家の空気は穏やかだった。
 
出発の朝、誠は無口だった。
 
助手席に乗り込んで、シートベルトを締めながら、私はさりげなく聞いた。
 
「何かあった?」
 
「別に」
 
それだけだった。ラジオをつけると、誠は黙って運転に集中した。私も窓の外を見ながら、話しかけるタイミングを探して、結局何も言えないまま二時間が過ぎた。
 
昔は違った。ドライブのたびに他愛もない話をして、くだらないことで笑って、目的地に着くのが惜しいくらいだった。今は同じ車の中にいるのに、どこか遠い場所にいるみたいだった。
 
誠の実家は静かな住宅街にあった。
 
玄関を開けると、お義母さんが出迎えてくれた。
 
「澄花さん、遠いところよく来てくれたわね。顔色悪くない? 疲れてる?」
 
「大丈夫ですよ。最近少し忙しかっただけで」
 
笑顔で答えた。お義母さんは少し心配そうな顔をしたけれど、それ以上は聞かなかった。
 
昼食のあと、お義父さんと誠が庭に出た。私はお義母さんと台所で片付けをしながら、他愛もない話をした。近所のこと、季節の野菜のこと、テレビで見たドラマのこと。
 
「誠、最近どう? 元気にしてる?」
 
お義母さんがふいに聞いた。
 
「元気ですよ。仕事が忙しそうですけど」
 
「そう。……あの子、昔から抱え込むタイプだから。澄花さんが側にいてくれて安心してるわ」
 
胸が痛かった。側にいる、という言葉が。同じ屋根の下にいるだけで、側にいると言えるのかどうか、最近わからなくなっていたから。
 
帰り際、お義母さんが野菜を持たせてくれた。誠は先に車に乗っていた。
 
「またいつでも来てね。澄花さんのこと、娘だと思ってるから」
 
「ありがとうございます」
 
頭を下げながら、泣きそうになった。堪えた。
 
車に乗り込むと、誠はすでにエンジンをかけていた。
 
「お義母さん、元気そうだったね」
 
私が言うと、誠は「うん」とだけ答えた。
 
帰り道も、ラジオだけが流れた。助手席の窓に頭を預けて、私は目を閉じた。
 
眠れるわけじゃなかった。ただ、誠と目が合うのが怖かった。
 
何かを聞いてしまいそうで。聞いたら、もう戻れなくなりそうで。
 
だから私はずっと、目を閉じたままでいた。
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