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第八章 麗奈の本性
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第八章 麗奈の本性
麗奈から三度目のランチの誘いが来たのは、十月に入った頃だった。
一度目は初夏、二度目は夏の終わり。そのたびに私は応じた。断る理由が見つからなかったし、断ったら何かを認めることになる気がした。だから今回も「ぜひ」と返信した。
待ち合わせはいつもの駅前だった。麗奈は今日も時間通りに来た。秋色のコートがよく似合っていた。
「最近どうですか?」
店に入って席に着くなり、麗奈が言った。
「普通かな。変わりなく」
「そうですか」麗奈はメニューを眺めながら言った。「誠くん、最近職場でも少し元気なさそうで。澄花さん、何か知ってます?」
胸の奥で何かが引っかかった。夫の様子を妻に聞く。それは自然なことのようで、どこかおかしかった。
「さあ。仕事が忙しいんじゃない?」
「そうかもしれないけど」麗奈は少し間を置いた。「誠くん、昔から誰かに頼るのが苦手で。側にいる人が気づいてあげないといけないんですよね」
側にいる人。
それが私ではなく、自分だと言いたいのだろうか。それとも、私が気づけていないと言いたいのだろうか。どちらにしても、笑顔の裏に刃を感じた。
「そうね」と私は答えた。笑顔で。
料理が来て、話題が変わった。麗奈はまた流暢に話し始めた。でも私はずっと、さっきの言葉が頭から離れなかった。
デザートが来た頃、麗奈がふいに言った。
「澄花さんって、誠くんのこと好きですか?」
思わず手が止まった。
「……夫だから」
「そうじゃなくて」麗奈は微笑んだまま続けた。「好きかどうか、って話です。結婚って、好きじゃなくてもできるじゃないですか」
静かな声だった。穏やかな笑顔だった。でもその言葉は、確かに私を狙っていた。
「好きよ」
私は答えた。声が震えなかったことに、自分でも驚いた。
「そっか」麗奈は小さく笑った。「よかった」
よかった、の意味がわからなかった。安心したのか、それとも確認できたのか。
店を出るとき、麗奈はいつものように「また来ましょう」と言った。私も「うん」と答えた。
駅への道を一人で歩きながら、私はようやく気づいた。
麗奈はずっと、私を試していたのだと。
笑顔の下に何があるのか、私がどこまで気づいているのか、どこまで耐えられるのか。全部、確かめていたのだと。
怒りはなかった。ただ、冷たい確信があった。
この人は、誠を諦めていない。
麗奈から三度目のランチの誘いが来たのは、十月に入った頃だった。
一度目は初夏、二度目は夏の終わり。そのたびに私は応じた。断る理由が見つからなかったし、断ったら何かを認めることになる気がした。だから今回も「ぜひ」と返信した。
待ち合わせはいつもの駅前だった。麗奈は今日も時間通りに来た。秋色のコートがよく似合っていた。
「最近どうですか?」
店に入って席に着くなり、麗奈が言った。
「普通かな。変わりなく」
「そうですか」麗奈はメニューを眺めながら言った。「誠くん、最近職場でも少し元気なさそうで。澄花さん、何か知ってます?」
胸の奥で何かが引っかかった。夫の様子を妻に聞く。それは自然なことのようで、どこかおかしかった。
「さあ。仕事が忙しいんじゃない?」
「そうかもしれないけど」麗奈は少し間を置いた。「誠くん、昔から誰かに頼るのが苦手で。側にいる人が気づいてあげないといけないんですよね」
側にいる人。
それが私ではなく、自分だと言いたいのだろうか。それとも、私が気づけていないと言いたいのだろうか。どちらにしても、笑顔の裏に刃を感じた。
「そうね」と私は答えた。笑顔で。
料理が来て、話題が変わった。麗奈はまた流暢に話し始めた。でも私はずっと、さっきの言葉が頭から離れなかった。
デザートが来た頃、麗奈がふいに言った。
「澄花さんって、誠くんのこと好きですか?」
思わず手が止まった。
「……夫だから」
「そうじゃなくて」麗奈は微笑んだまま続けた。「好きかどうか、って話です。結婚って、好きじゃなくてもできるじゃないですか」
静かな声だった。穏やかな笑顔だった。でもその言葉は、確かに私を狙っていた。
「好きよ」
私は答えた。声が震えなかったことに、自分でも驚いた。
「そっか」麗奈は小さく笑った。「よかった」
よかった、の意味がわからなかった。安心したのか、それとも確認できたのか。
店を出るとき、麗奈はいつものように「また来ましょう」と言った。私も「うん」と答えた。
駅への道を一人で歩きながら、私はようやく気づいた。
麗奈はずっと、私を試していたのだと。
笑顔の下に何があるのか、私がどこまで気づいているのか、どこまで耐えられるのか。全部、確かめていたのだと。
怒りはなかった。ただ、冷たい確信があった。
この人は、誠を諦めていない。
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