『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき

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2話:貧乏な部屋

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2話:貧乏な部屋

誠司が初めて部屋に来た夜。

食事を三回して、ようやく誘った。

時刻は、夜の九時過ぎ。

麗奈はドアを開ける前に、一度だけ深呼吸をした。

笑顔の角度を、少し調整する。

目に、うっすらと潤いを乗せる。

準備完了。

ドアを開けた。

「来てくれたんだ」

声を、少しだけかすらせる。

誠司の目が、やわらかくなった。

入った。

「狭くてごめんね」

麗奈は少し俯いて、恥ずかしそうに笑う。

誠司は部屋を見渡した。

六畳。

薄いカーテン。

古い食器が一つだけ、シンクの脇に置いてある。

テーブルは小さくて、傷がついている。

「全然、いいじゃないか」

誠司の声が、少し低くなった。

守りたい、という気持ちが灯った瞬間を、麗奈は正確に見ていた。

今日も、順調だ。

「座って。何も出せないけど」

麗奈は申し訳なさそうに言いながら、小さなテーブルの前に誘導する。

誠司は慣れない様子で、床に腰を下ろした。

スーツのままで。

この部屋には、ソファがない。

それも計算のうちだ。

床に座ると、距離が縮まる。

壁が近くなる。

息が、届く距離になる。

「こういう部屋、初めて来た」

誠司がぽつりと言った。

「そうだよね、汚くてごめん」

「そんなことない。なんか、ほっとする」

麗奈は少しだけ目を伏せて、微笑んだ。

計算通りの反応だ。

男は二種類に分かれる。

貧しい部屋を見て、引く男。

貧しい部屋を見て、守りたくなる男。

誠司は後者だ。

最初に会った時から、そう読んでいた。

「麗奈ちゃん、一人でここに住んでるの?」

「うん。仕事、あんまり稼げなくて」

少しだけ、声を落とす。

誠司の眉が、わずかに寄った。

心配している。

「大変じゃないか」

「慣れてるから、大丈夫」

大丈夫、慣れてるから。

これが最強の言葉だと、麗奈は知っている。

心配させて、でも強がらせる。

男はこの組み合わせに、弱い。

「でも……」

誠司が何か言いかけて、止まった。

麗奈は待つ。

急かさない。

男が自分で言葉を見つけるまで、待つ。

それが大事だ。

「もっといい部屋、住めたらいいのにな」

麗奈は少しだけ笑って、首を振った。

「いいよ、ここで十分。慣れてるから」

また、慣れてるから。

誠司の顔が、少し歪んだ。

胸が痛い、という顔だ。

入った。

深く、入った。

麗奈は気づかないふりをして、お茶を入れに立った。

小さなキッチンで、やかんに水を入れる。

背中を向けたまま、麗奈はゆっくりと息を吐いた。

今夜は、うまくいく。

お茶を二つ、テーブルに置いた。

誠司の隣に、少し近めに座る。

肩が、触れるか触れないかの距離。

誠司の体温が、じんわりと伝わってくる。

「麗奈ちゃんって、ずっとここ住んでるの?」

「上京してから、ずっと。もう五年になる」

「東京、慣れた?」

「慣れたっていうか……」

麗奈は少し間を置いた。

「慣れるしかなかったから」

誠司が、黙った。

麗奈はお茶を一口飲んで、窓の外を見るふりをした。

薄いカーテン越しに、夜の街の光がにじんでいる。

「ごめん、暗い話して」

「いや」

誠司が、少し前に乗り出した。

「もっと聞かせてよ」

麗奈は誠司の顔を見た。

真剣な目だ。

この目は、本物だ。

本気で、知りたいと思っている。

だから、余計に使いやすい。

「誠司さん、優しいね」

麗奈は少しだけ、声を柔らかくした。

誠司の耳が、わずかに赤くなった。

「そんなことないけど」

「ある」

麗奈は、誠司の目をまっすぐ見た。

三秒間。

それから、ゆっくり目を逸らした。

誠司が、息を飲む音がした。

今夜は、ここまでだ。

これ以上近づけない。

近づけないから、また来たくなる。

また来たくなるから、何かしてあげたいと思う。

何かしてあげたいと思うから、金を出す。

麗奈はお茶を飲みながら、話題を変えた。

仕事の話。

他愛のない話。

誠司がよく笑った。

楽しそうだった。

本当に楽しいのだと思う。

麗奈には、関係ない話だけれど。

帰り際、ドアの前で誠司が言った。

「また来ていい?」

「うん」

麗奈は少し俯いて、微笑んだ。

「また来て」

誠司が帰っていく。

エレベーターのドアが閉まる音がした。

麗奈は部屋に戻って、ドアに背中を預けた。

静かな部屋。

一人の空気。

テーブルの上に、誠司のお茶のカップが残っている。

麗奈はそれを片付けながら、今夜の採点をした。

距離感、合格。

表情、合格。

言葉の選び方、合格。

次回、プレゼントが来る。

たぶん、来週中に。

麗奈は流しでカップを洗いながら、小さく息を吐いた。

今夜も、完璧だった。

部屋の隅に、赤いマットが丸まっている。

明日の朝も、儀式は続く。

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