『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき

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6話:赤いマットの上で

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6話:赤いマットの上で
 
月曜日の朝。
 
アラームより先に、目が覚める。
 
いつも通りだ。
 
 
赤いヨガマットを広げる。
 
黒のブラジャーと、黒のショーツ。
 
それだけの格好で、麗奈は右脚を前に伸ばした。
 
金髪が、床にさらさらと落ちる。
 
 
深く、息を吐く。
 
 
今週は、誠司と康介、両方に会う週だ。
 
 
誠司は水曜日。
 
康介は金曜日。
 
 
二人を同時に動かすのは、初めてじゃない。
 
でも康介は、今まで相手にしてきた男と違う。
 
 
読めない。
 
 
麗奈は左脚に替えて、また体を倒した。
 
開脚の姿勢で、床に両手をつく。
 
体の中心から、じわじわと伸びていく感覚。
 
 
康介のことを考えながら、体を整える。
 
 
あの男は、何を考えているのかわからない。
 
「知ってる」と言った目。
 
「嘘だ」と言った声。
 
値踏みしているのか、興味があるのか、それとも暇つぶしなのか。
 
 
イヤリングは、今もアクセサリーボックスの中にある。
 
まだつけていない。
 
 
つけた瞬間に、何かが決まる気がして。
 
 
十五分かけて全身をほぐして、麗奈は立ち上がった。
 
汗が、首筋をつたう。
 
 
絨毯の端を、足先でめくった。
 
 
床下収納を開ける。
 
封筒が並んでいる。
 
 
白い封筒。
 
茶封筒。
 
銀行の袋。
 
 
まだある。
 
今日も、負けていない。
 
 
絨毯を戻して、麗奈はスマホを確認した。
 
 
誠司からLINEが来ていた。
 
 
『水曜、楽しみにしてる。何か食べたいものある?』
 
 
麗奈は少し間を置いてから返信した。
 
 
『誠司さんが選んでくれた方が嬉しい』
 
 
送信する。
 
すぐに既読がついた。
 
誠司からハートのスタンプが来た。
 
 
選んでくれた方が嬉しい。
 
この一言が、男に「この子のために選びたい」という気持ちを生む。
 
選ぶことで、自分が特別な存在になったと思う。
 
特別な存在だと思うから、もっと与えたくなる。
 
 
単純な話だ。
 
 
次に、康介のトーク画面を開いた。
 
 
既読がついたまま、返信が来ていない。
 
バーで別れた夜から、三日が経っている。
 
 
麗奈から連絡したことは、まだない。
 
 
どちらが先に動くか。
 
 
いつもなら、麗奈は待つ。
 
男を待たせる側だから。
 
 
でも康介は、待たせることを気にしない男だ。
 
このまま待っていても、来ないかもしれない。
 
 
麗奈は少し考えてから、メッセージを打った。
 
 
『イヤリング、今日つけてみた』
 
 
嘘だ。
 
まだつけていない。
 
 
でも、これで康介がどう反応するかがわかる。
 
 
送信した。
 
 
五分後、既読がついた。
 
 
返信は来なかった。
 
 
麗奈は少しだけ眉を寄せた。
 
既読無視。
 
 
今まで、既読無視をされたことがなかった。
 
 
怒りじゃない。
 
ただ、想定外だった。
 
 
水曜日、誠司が来た。
 
 
いつものように、食事をして、部屋に戻った。
 
誠司はすっかり部屋に慣れた様子で、床に座った。
 
体の力が、最初の頃より抜けている。
 
 
「最近、どう?」
 
「仕事が忙しくて。でも麗奈ちゃんのこと、ずっと考えてた」
 
 
誠司が、少し照れながら言った。
 
 
麗奈は微笑んだ。
 
 
「嬉しい」
 
 
声を、少し柔らかくした。
 
 
誠司の目が、やわらかくなった。
 
 
「麗奈ちゃん、俺のこと、もう少し好きになってくれた?」
 
「……どうかな」
 
「どうかなって」
 
 
誠司が笑った。
 
悔しそうな、でも嬉しそうな笑い方だ。
 
 
「意地悪だな」
 
「そうかな」
 
 
麗奈は少しだけ体を傾けた。
 
誠司との距離が、五センチ縮まった。
 
 
誠司の呼吸が、少し変わった。
 
 
気づいている。
 
近づいたことに、気づいている。
 
 
麗奈はそのまま動かなかった。
 
近づいたまま、動かない。
 
 
誠司の手が、ゆっくりと動いた。
 
麗奈の手に、触れるか触れないかの距離で止まった。
 
 
「……触っていい?」
 
 
聞いてくる男は、優しい。
 
優しい男は、扱いやすい。
 
 
麗奈は少し間を置いた。
 
 
「……今日は、まだ」
 
 
誠司が、息を吐いた。
 
手を引いた。
 
 
「わかった」
 
 
怒らない。
 
引かない。
 
ただ待つ。
 
 
この男は、本気だ。
 
 
麗奈はそれを確認しながら、少しだけ誠司に寄りかかった。
 
肩が、触れた。
 
 
触れさせない、と言いながら、触れる。
 
このギャップが、男を狂わせる。
 
 
誠司が、固まった。
 
動かなかった。
 
壊れ物を扱うみたいに、そのままでいた。
 
 
しばらくして、誠司が静かに言った。
 
 
「麗奈ちゃんのこと、本気で好きだよ」
 
 
麗奈は何も言わなかった。
 
 
何も言わないことが、答えになる。
 
 
金曜日、康介と会った。
 
 
指定されたのは、先週と同じバーだった。
 
 
麗奈はあのイヤリングをつけていった。
 
 
康介はカウンターにいた。
 
麗奈を見て、イヤリングを一瞬だけ見た。
 
 
何も言わなかった。
 
 
「来たね」
 
「来たよ」
 
 
麗奈は隣に座った。
 
 
「既読無視した」
 
「見たから」
 
「返信くらいしてよ」
 
「嘘に付き合う必要がないから」
 
 
康介は静かにグラスを傾けた。
 
怒っているわけじゃない。
 
ただ、それが彼のスタンスだ。
 
 
「イヤリング、似合ってる」
 
 
康介が、グラスを見たまま言った。
 
麗奈の顔を見ていない。
 
それでも、気づいていた。
 
 
「ありがとう」
 
 
麗奈はグラスを一口飲んだ。
 
 
この男には、いつものやり方が通じない。
 
 
でも。
 
 
通じないことが、初めて、少しだけ面白かった。
 
 
その夜、麗奈は帰り道で立ち止まった。
 
 
夜の風が、金髪を揺らした。
 
 
誠司は本気だ。
 
康介は読めない。
 
 
二人を同時に動かしながら、麗奈は今週も計算の中にいる。
 
 
完璧なはずだ。
 
 
でも、なぜか今夜は床下を確認しなくていいような気がした。
 
 
麗奈は首を振って、歩き出した。
 
 
そんなはずはない。
 
 
明日の朝も、儀式は続く。
 
 
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