魔王様の小姓

さいとう みさき

文字の大きさ
2 / 26
第一章:魔王様の蹂躙

第二話:魔王様の出陣

しおりを挟む
 赤く大地が燃えている。
 彼の眼前にはぶすぶすと煙を上げている兵士の屍がある。


 まだ所々魔法による攻撃で火災が起こったところがある中を、彼は面白くもなさそうに歩いている。


「魔王、覚悟!!」

 
 いきなりそう叫びながら物陰から鎧をまとった兵士が槍を構えて彼に飛び掛かり、その槍を突き刺す。
 しかし、彼はニヤリと口角を上げて片手をあげる。

 そして突き出された槍をその手の平で受け止める。


「軟弱だな、人間!」


 そう言ってそのまま手の平に魔光弾を発生させ、その兵士をその光の中に包み込み消し去る。



「魔王様! ご無事で!?」

 完全にその兵士が塵になった所に、魔族の従者が慌てて駆けよる。

「バカ野郎、俺様を誰だと思っていやがる! ザルバード=レナ・ド・モンテカルロッシュ・ビザーグ様とは俺様の事だぞ!? 人間風情に俺様の髪の毛一本傷つけることなんざ出来ねーぜ!!」

 そう言って漆黒のマントをひるがえす。
 長い銀髪に頭の上には二本の立派な水牛のような角を生やしている。
 やや太めの眉毛に釣り目、赤と黒の混じった瞳をぎらつかせ、整った顔にはにやけた笑みが張り付いていた。

「軟弱すぎる! 所詮人間なんぞ我らが魔族の糧となる存在! このまま人族の国を押しつぶし滅ぼしてやろうか?」

「魔王様、しかし御身が最前線でお力を振るうまでもございません。ここは我らにお任せを!」

 そう言って先程の従者は膝をつき、魔王に懇願をする。
 それを見て彼はつまらなさそうになる。

「ちっ、せっかく身体が動かせると思ったんだがな。骨のあるやつはいねーし、騎士団は雑魚並みに弱ぇーし、少しはこの俺様を楽しませろや」

「恐れながら、魔王様に敵う者などこの地上におりますまい。魔王様には退屈やもしれませぬが、人間を全滅させると我らの食料が無くなってしまいます故、ここは我らにお任せくだされ」

 そう言われると流石に魔王もこれ以上は勝手な事は出来ない。
 
 魔族は人を喰う。
 厳密には人の魂を喰らう。
 魂に内包されている魔素を栄養とするからだ。


「ふん、まあいい。後はお前らがやっておけよ!」

 そう言て彼は踵を返して本陣へと戻って行く。



 アズール歴二千二十四年、人類は魔王軍の進行にその勢力圏を徐々に奪われ始めていたのだ。



「ふん、つまらん。どこかにこの俺様を楽しませることはないのか?」

 そう彼はごちてからちらりと戦場を見る。
 そこには自軍の魔族以外立っている者はいなくなっていたのだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 この世界には人族や亜人族、そして魔族が存在していた。
 
 魔族は悪魔とも呼ばれていて、人を喰らう。
 厳密には人の魂を喰らう。

 それは人の魂に内包される魔力の元となる魔素があるからだ。

 
「んんぅぅうううぅ~っ!!」

 ちゅばちゅばと卑猥な音をさせ、裸の魔王は一人の青年の唇を奪っている。
 その青年は高揚した表情をしながら手足をもがかせ、裸のまま魔王に成すがままにされてた。
 魔王はその絶大な力で青年を押さえつけている。
 肌と肌が触れあっていて、汗がきらめいている。


 じゅちゅぅ~♡


「んふぅっ♡」


 じゅぽんっ!
 

 魔王は吸っていた唇から離れ、起き上がる。
 唇を奪われていた青年は満足そうな顔をしていたが、いつの間にか息をしていなかった。


「ふん、毎度毎度食事をするたびに死んじまうとは、本当に人間はひ弱だな」

 そう言って魔王はベッドから起き上がり、裸のまま控えていた執事に言う。

「もっと美味い奴はいねーのか? 男でも女でも構わねぇ、美味い奴を連れて来い!」

「魔王様、ですがもうお食事に使える者がいなくなってしまいました。いつも魔王様は最後まで魂を吸いつくすので、回復させる間もなく死んでしまいますので」

 執事で見た目は六十歳くらいの、白髪が目立つ彼はそう言って頭を下げる。
 しかし、魔王は不満げに鼻を鳴らす。

「ふん、人間なんざいくらでもいるだろうに?」

「それが、配下の者も食事に困窮しておりまして、近隣の人族の村や町は全てわが軍が喰いつくしてしまいました。このままでは人間の確保も難しくなります故、四天王スィーズ様の案を採用されるのがよろしいかと」

 それを聞いた魔王は不機嫌になる。

「あの、人間共を飼いならし、少しずつ魂を吸えというやつか? 人間共は魂を吸われても休ませれば回復するから食事用の人間共を飼えというやつか?」

「はい、なかなか良い案だと思いますが?」

「めんどくせぇな……」

「しかし、このままでは兵も飢えます故に」

 執事にそう言われ、魔王は頭をガシガシ片手で掻く。
 そして召使に服を着させてもらい、眼下に広がる外を見る。

 そこは高い魔王城の一室だった。
 眼下には今回の戦で捕らえられてきた人間共が魔族に喰われている所だった。

 人間の魂を吸い取る時には、相手を高揚させるとその味が良くなる。
 裸にひん剥き、人間共に快楽を与える。
 そして高揚した所で唇を奪う。
 特に若い奴はその魂が濃厚で、甘みがあって美味い。

 魔王はぺろりと唇を舐めてから言う。

「人間狩りに行くぞ! うまそうな奴等を家畜として捕らえるのだ!! そして俺様用に若くてイキの良い奴を準備しろ! たっぷりと可愛がってその魂を味わってくれるわ!!」

 
 * * * * * 
 

 サルバスの村は王都から離れていた。

 村はここドリガー王国の最北端に位置していた。
 そして最近はその北にある魔族領から魔王軍が攻め入って来ていた。

 ユーリィは今年十四歳になっていた。
 そしてこの村で両親を助けながら、小さな食堂を始めていた。


「ユーリィの作るご飯はいっつもおいしいよね~、私のお嫁さんにならない?」

「もう、シーラは僕をからかってばかりいるんだから」

 シーラは少し頬を染め、そう言う。
 ユーリィの作った野菜たっぷりのポトフは味付けが絶品で、この村でも大評判だった。
 その他、ふっくらとした葡萄の酵母を使ったパンや味付けした長持ちする干し肉に燻製、オイル漬けにしたヤギの乳で作ったチーズなど、おおよそ村には今までなかったモノばかり作り上げていた。

 ユーリィのいる食堂は大繁盛で、こうして時々シーラも手伝いに来てくれていた。
 そしてまかないを食べるといつもシーラはそう言ってアピールをしてくる。

 だがユーリィはそんな彼女の気持ちに全く気付いていない。
 鈍感であった。

 
「もう、本気なのにぃ」

「はいはい、それじゃあ僕が大人になったらシーラが僕をお嫁さんにしてね」

 ユーリィはそっけなくそう言うと、シーラは、ぱぁっと明るい表情になって立ち上がる。

「いいのっ!? 私本気だよ!?」

 いつも以上に乗り気のシーラにユーリィは苦笑しながら思う。
 絶対に僕が作った料理が食べたいだけだと。

 おざなりに「はいはい」とか言っているが、シーラはかなり真面目な表情だった。
 そして、鍋をかき回すユーリィの手を取ってぐっと顔を近づける。

「じゃ、じゃあ、ユーリィが来年成人したら私と結婚して!」

「はい?」

 ふざけていると思ったシーラが真剣にそうプロポーズをしてくる。
 思わずユーリィは首を傾げた。
 しかし、疑問として放った「はい」は肯定の「はい」と捉えられ、シーラを喜びの頂点へといざなう。

「やったぁっ! ユーリィがやっと私の愛を受け止めてくれたぁっ! 私幸せ!!」

「あ、えーと、その、本気だったの、シーラ……」

 思わず呆気に取られてそう言うユーリィにシーラはキッとなって彼を睨む。

「当り前じゃない! ずっとアプローチしててもユーリィったら全然気付かないし、私、ユーリィの事が本当に好きなんだよ!!」

 まりにもそのストレートな物言いに、ユーリィは思わず硬くなってたじろぐ。
 まさか、幼馴染のに求婚されるとは思ってもみなかったからだ。
 ずっとふざけていると思っていた。
 しかし、今年十五歳の成人になったシーラはそれ相応に美しく成長していた。

 改めて見れば、村娘だけど肌は白くきめ細やかだ。
 年頃になって女性らしいフォルムでもある。
 しっかりとユーリィの食事をしているせいで、立派に胸も育っている。
 そして今は膨れているその表情は幼いころから見ているモノだが、大人になってまつ毛も長くなり、目もぱっちりとして、可愛らしい鼻に瑞々しい唇もある。
 正直、美人の部類だった。

「あ、えっと、その……」

 正直に言うと、シーラの事は嫌いじゃない。
 むしろ好意を寄せていた。
 だからユーリィは改めて言う。

「シーラ、僕もシーラの事……」

 ユーリィがそう言いかけた時だった。
 外から叫び声が聞こえてきた。

 大事な言葉をもう少しで言えそうだったユーリィはその声に驚き、シーラと共に外の様子を見る。
 すると、ちょうど村の中に魔族たちが攻め入って来ていた。


「魔族が襲って来た!!」

「逃げろぉっ!」

「きゃーっ!!」


 村の中は騒然そうぜんとなっている。
 そしてすぐに親たちが来てユーリィとシーラに言う。

「すぐに逃げ出すぞ! 早くっ!!」

 何が何だか分からないうちに二人はユーリィの両親にその腕を引っ張られて裏口から抜け出す。
 しかし、そこには漆黒の鎧を身にまとった魔族がいた。

「ほほう、美味そうなガキだな」



 彼はそう言ってユーリィに手を伸ばして来るのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...