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第三章:新しい生活
3-1新たな生活
しおりを挟む私たちがレッドゲイルの「赤竜亭」に住み始めて早ひと月が経った。
その間ファイナス長老から連絡があって、シェルさんとエルハイミさんに救護支援を要請中だとか。
結局、他のエルフの人を派遣するのは時間がかかるし、私たちがエルフの村に戻るまで旅をするのが危険だろうと言う事になったからだ。
「ひまぁ~」
「ううぅ、それは分かってるのだけど仕方ないよ。あまり勝手に動き回るとトランさんたちに迷惑かけるし……」
あの後私たちはコモン語の学習やコモン文字、精霊魔法の手ほどきをトランさんから受けている。
あの地竜を換金したお金は実は莫大な金額でトランさんたちに渡した金貨三万枚だってすごいお金だった。
おかげでトランさんに時間が出来て色々と教えてもらえるのはうれしいのだけど、流石にずっと一緒というわけにはいかない。
なのでトランさんが出かけている間は私たちは大人しく部屋で待っている。
「お金の心配は無くなったけど、毎日毎日宿で大人しくしてるってのもねぇ~」
「そうだよ、ねえお姉ちゃんちょっとでいいから外行かない? すぐに戻ってくればトランさんも大丈夫だよ。それにあの焼き菓子また食べたい!!」
ルラにそう言われ思わず心が揺らぐ。
あの焼き菓子は確かに美味しい。
実際レッドゲイルに来てから毎日おいしいものばかりで驚かされている。
だってエルフの村なんて比べ物にならない程豊富な食材や料理が有るのだから。
……ちょっとだけだよ?
ほんのちょっとだけ太ったよ?
でもほら、エルフだから分からないくらいしか太っていないよ?
そんな事を頭の片隅に置いているけど、焼き菓子の誘惑に私は抗えなかった。
「す、少しだけなら大丈夫かな……」
「大丈夫だよ! それにコモン語もだいぶ話せるようになってきたし、いこっ!」
ルラに背中を押されながら私たちは街に出るのだった。
* * * * *
「へへへ、おまけしてもらっちゃったね」
「うん、でもこれ全部食べちゃうと晩御飯食べれなくなるわね」
焼き菓子のお店で日本で言う甘食みたいなものをたくさん買う。
これは甘くて美味しい。
それにあまり油を使っていないから私たちでも容易に食べられるのがうれしい。
袋に入れてもらって二人で食べながら歩いているとあの冒険者ギルドの前に着く。
そう言えばトランさんは冒険者だから良くここに来ている。
「トランさん、今日何処へ行ったのかなぁ」
「お姉ちゃんトランさんのこと好きだよね?」
「なっ!?」
ルラにいきなりそう言われて思わずどきっとする。
そりゃぁトランさんは頼りになるお兄さん的で素敵な人だと思うし、今は私たちの保護者になっている。
仲間の冒険者にも頼りにされているし、冒険者としてもかなりの腕だって聞いた。
「ななななな、なに言ってるのよ、ルラ!」
「え? 違うの?? あたしはトランさんのこと好きだよ~」
「えっ? ちょっとルラ、まさかあなた……」
思わずルラを見てしまう。
しかしルラはにこにこしながら焼き菓子を食べている。
「他のロナンさんやエシアさん、テルさんにホボスさんも好き~」
「はっ? あ、ああぁ、そう言う好きか……」
あっけらかんとそう言い放つルラを見ながら思い切りため息を吐く。
私はてっきりルラがそう言った感情に目覚め、トランさんを男性として好きになったのかと思った。
「わ、私だってトランさんの事は…… す、好きだもん……」
少し赤く成りながらそう言うとルラはにっこりと笑っている。
そしてよく聞き慣れた声が後ろからかかって来る。
「それはうれしい事を言ってくれるけど、二人だけで外に出ちゃダメじゃないか?」
「え”っ!?」
振り向くとトランさんが立っていた。
き、聞かれたぁッ!?
トランさんはいつもの優しい笑顔で私たちを見ている。
しかし指を立てて左右に振りながら言う。
「だいぶ慣れてきたとはいえ、君たちくらいのエルフの女の子は狙われるから気を付けなきゃだめだよ? レッドゲイルの街中だって完全に安全という訳では無いんだからね?」
がしっ!
そう言いながらトランさんはいつの間にか私の横に来ていた人の腕を掴む。
そしてその腕にはあの魔法のポーチが掴まれていた。
「えっ? あ、わ、私のポーチ!!」
「子供からスリなんて良くないな? 返してもらうよ」
そう言いながらトランさんは魔法のポーチを取り上げる。
しかしそのスリはすぐに懐からナイフを引き抜く。
「くそっ!」
そしてスリはトランさんにナイフを突き出す。
「トランさん危ない!!」
「ふう、仕方ない」
ばきっ!
だけどトランさんは臆することなく突き出すナイフを弾き拳を相手の顔に入れる。
スリはその一発を喰らいたまらなく転げる。
そして慌てて悲鳴をあげながら逃げ出していった。
「あっ! 逃げちゃった!! 良いのトランさん!?」
「いいの、いいの。ああ言うのはこの街にもいるからね、気を付けて。はいリル、ポーチね。ちゃんと腰のベルトに括り付けないとだめだよ?」
「あ、ありがとうございます//////」
トランさんはそう言って魔法のポーチを返してくれる。
私はそれを受け取りながらトランさんの顔を見るとさわやかな笑顔に思わず心臓が高鳴ってしまった。
どきっ!
「あ、うぅ……」
「ん? どうしたのリル?」
「ん~、お姉ちゃんトランさんが好きだからなぁ~。そうだトランさん、この焼き菓子食べる?」
私が思わずパクパクと口をしているとルラがそんな事を言う。
するとトランさんは笑って手を差し出す。
「うん、じゃあ一つ貰えるかな?」
「ひゃ、ひゃい!」
私は慌てて袋から焼き菓子を出してトランさんに手渡すのだった。
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