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第三章:新しい生活

3-2精霊魔法

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 私たちはトランさんやロナンさんの時間の有る時にコモン語を習っていた。


「はい、それでは今日はここまでですね」

「ありがとうございました、ロナンさん」

「ありがとうございます!」


 今日はロナンさんにコモン語を教えてもらった。
 文法とかはほぼエルフ語と同じだからどちらかと言うと方言のようにボキャブラリーを増やしていけば聞き取れて喋れるようになるってのが分かりほっとしていた。


 やだよ、私は生前も外国語が苦手で英語なんか赤点ギリギリだったんだから。


 でも今はそんな事言ってられなかった。
 迎えが来るまでここで生活するとなると会話位出来ないと不便で仕方ない。
 それにゆくゆくは習う言葉だし、暇なので今習っておいても損はない。


「しかしリルもルラもだいぶコモン語が話せるようになりましたね? 今私が話しているコモン語は分かりますか?」

「はい、全部聞き取れます」

「あたしも~」

 ロナンさんに答えながら私たちはにっこりとする。
 するとロナンさんは頷きコモン語が書かれた紙を渡してくれる。

「これはこの街の案内の一部です。まあ観光案内の様なものですがコモン文字を読み取る練習にもなります。明日までにこれを読んでおいてください」

「ふえぇ~、話せるだけじゃ駄目なの?」

「ルラ、街にある看板とかお店のメニューとか読めないと買い物もできないよ?」

 私がそう言うとルラは受け取った紙を見ながらたどたどしく読み始める。

「よ、ウこそ……レッドげいるへ…… うわ~、めんどくさい!!」

「ははは、しかし最初の所は読めましたね? この調子で頑張って明日までに読んでおいてください。何が書いてあるか明日質問しますからね?」

 ルラは上を向いてガーっとか言ってるけど、宿題をもらって私は苦笑いをする。

 トランさんはもっぱら口語がメインで教えてくれる。
 のだけど、コモン語には上級と下級が有るらしい。

 平たく言えば貴族とか王族とかお偉いさんは上級語を使っているとか。
 それ以外の、特に下町や冒険者は下級語が多いそうな。

 日本語で言う所の、母親を「お母様」と呼ぶのが上級語、「母ちゃん」とか呼ぶのが下級語というような感じらしい。
 ロナンさんはもっぱら上級語を教えてくれるけど、トランさんは両方教えてくれる。


 うーん、偉い人に会った時に日本語で言う敬語みたいなのが言えないと確かにまずいかも。


「あー宿題やだぁ~」

「ルラ、ちゃんとやらなきゃだめだよ? 一緒にやるから頑張ろうよ」

 じたばた騒ぐルラにそう言うとトランさんがやって来た。


「リル、ルラどうだいコモン語の勉強は?」


「あ、トランさん。順調ですよ」

「こんにちわー、トランさん」

 私もルラもコモン語で応えるとトランさんはうんうんと頷きロナンさんを見る。

「流石にロナンだ。ちゃんと上級語が多くなってるね。なんだか僕が教える必要はなくなってきたなかな?」

「いえいえ、エルフ語で訳しにくい所はやはりトランの助けが必要ですよ。私もまだまだ勉強不足です」

 ロナンさんはそう言って謙遜する。

 やっぱこの人魔術師だからかな?
 知識や研究とかすごく勉強熱心だもんね。


「うーんここまで順調なら、僕は二人に精霊魔法を教えよう。リルもルラも流石にレミンさんの娘だからね、魔法に関してのセンスがいい」

 そう言ってトランさんはにっこりと笑うのだった。


 * * * * *


 午後は夕食前までまだ数時間ある。

 今日は皆で食事する約束なのでそれまで時間に余裕が有ると言ったらトランさんが裏庭で精霊魔法の練習をしようと言い出した。


「二人とも【水生成魔法】や【明かり魔法】が出来るんだったよね? そうすると魔力の流れも感じられるかな?」

「はい、その辺は出来るみたいです」

「魔力って、なんか体の奥底から血が流れるようなあの感じだよね?」

 トランさんに質問されて私たちはそう答える。
 するとトランさんは顎に手を当て頷く。

「だったら魔力の流れはもういいね。じゃあ次は精霊を呼び出す練習だけど、実は君たちの周りにも、中にも既に精霊はいるんだよ」

「え?」

「もういるの!?」

 私もルラもそう言われて驚く。
 だっていくら精霊を探してもいないのだから。


「いいかい、精霊は全ての自然現象や心、感情の中にいるんだ。水の近くには水の精霊。土の近くには土の精霊、火の中には火の精霊、そして風の中には風の精霊がいる。自然界にはこの四大精霊が沢山いるんだよ」

「そ、それじゃぁ今この場所にもいるんですか?」

 私がそう聞くとトランさんはにっこりと笑って頷く。

「そうだよ、今そよ風が吹いていてちょうどリルの髪の毛に悪戯をして揺らしているよ」

 言われて私は自分のツインテールを見るけど、確かにそよ風に揺れていた。
 でも精霊の姿は見えない。


「さて、それじゃぁその精霊を呼ぶ方法なんだけどね、まずはエルフ語で語り掛けるんだ。その時に口に魔力が流れる感じでね」

 言いながらトランさんはエルフ語で風の精霊を呼ぶ。
 するとトランさんの周りにつむじ風が舞い始める。


「風の精霊よ、その姿を僕たちに見せておくれ、舞い踊る風の乙女、シルフよ」


 トランさんがエルフ語でそう言うとトランさんの周りのつむじ風が一所に集まり裸のエルフの女性の姿になる。

「リル、ルラ見えるかい? これが風の精霊シルフだよ」

 それは透き通っていてぼんやりとしているけど確かに見える。
 シェルさんが手の平に出した光の精霊ほどはっきりは見えないけど。

「エルフの人? じゃ、無いか…… これが精霊なのトランさん?」

「そうだよルラ、じゃあ今度は二人とも目に魔力を流す感じでこのシルフをもっとよく見てごらん」

 私とルラは言われた通りにするとなんと今度は風の精霊シルフがもっとはっきりと見える。


「はっきりと見えた!」

「た、確かに。少し透けているどさっきよりはっきりと見える!!」


「良し、じゃあ今度は口に魔力を流すイメージでシルフに挨拶してみて」


 精霊に挨拶?
 そんな事が出来るの?


 半信半疑で私は口にも魔力を流すイメージでエルフ語でそのシルフに挨拶をして見る。

「えっと、こんにちはシルフさん?」

 するとそのシルフはピクンとしてから私に振り向く。
 そしてにっこりと笑う。

「そうそう、それで好いんだ。精霊魔法は精霊たちに魔力を与える代わりに色々と手伝ってもらう魔法だからね。精霊とのコミュニケーションは大切なんだよ」

 トランさんにそう言われて私はシェルさんが言っていた言葉を思い出す。


 ―― 精霊は友達だから命令じゃなくてお願いをするのよ? それが精霊魔法をうまく使えるコツなんだからね ――


 なるほど、確かに精霊が有っての精霊魔法だ。
 
「えっと、こんにちわシルフさん。あたしルラだよ!」

 ルラも同じくシルフに挨拶すると今度はルラの方を向いてにっこりと笑う。

「うん、ルラも出来たみたいだね? よしよし、これが精霊魔法の第一歩だよ。ありがとう、風の精霊よ」

 トランさんがルラも出来たのを確認してから風の精霊シルフにそう言うとシルフは頷いてからすっと消えていった。
 そしてあのつむじ風も消える。


「あ、消えちゃった……」

「ほんとだ、いくら目に魔力を流してもいない……」


 シルフが消えさった後をどんなに凝視してももう見えない。
 するとトランさんが私たちの頭に手を乗せて撫でながら言う。

「よく出来た二人とも。シルフはもうここにはいないよ。消え去った時点で他の所に飛んで行ったか精霊界に戻ったかだね。こうやって魔力の流れを使って精霊を見たり声をかけたりするんだよ。さて、今日はここまでだね。これ以上魔力を使うと使い切って気絶してしまうからね。リルとルラはまだ魔力コントロールが完全じゃないから無理はしちゃだめだよ?」

「はい、でもすごかったぁ。あたし初めて精霊見ちゃった!」

「うん、凄かったね。あんなにはっきりと精霊が見れる何て……」


 でもシェルさんの時は何もしなくても精霊が見えた。
 あれって……


「と、そろそろみんな集まってくる時間だね。リル、ルラそろそろ行こう。みんなも集まってる」



 トランさんに言われて私たちは久しぶりに集まる皆さんと食事をする為に食堂に向かうのだった。

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