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第十五章:動く世界
15-16貿易都市で
しおりを挟む「賢者の石…… それも二個もあるだなんて…… 一体どれだけの人魂を犠牲に……」
私はアリーリヤが掲げて見せた「賢者の石」を睨みながらそう言う。
「賢者の石」
本来は古い女神様が魔法王ガーベルに与えた三種の神器のうちの一つ。
無限とも言われる魔力を発揮し、その力は都市を空に浮かべ、深い海底に都市を作り、極寒の地で気候を操り常夏の野菜を作れるほどだと言われていたらしい伝説の魔道具。
しかしそれは魔法王国崩壊と共に失われたと言われている。
それを人の手で再現したのが今アリーリヤの指にはめられている赤い石。
しかしそれは本物ではなく、それを作るには沢山の人の魂が必要となる。
「この世界の矛盾を解消する為にはそんな事は些細なもの。今の女神はこの『賢者の石』を作る以上の魂をもてあそんでいる。いや、私たち人類自体を!」
「エルハイミさんはそんな事しません! ジルの村だってエルハイミさんに関係している人の魂を転生させるための場所だって!!」
「そう、自分の生い立ちすら選べない牢獄に閉じ込めているだけ。そしてその者たちが本来我々人類に与える影響を全て自分の物にしているだけ。英雄と呼ばれる者たちは全てあの女神の手元に行ってしまう、それではこの狂った世界を良き方向へは導けない。人は人としての進歩を閉ざされてしまうの!!」
アリーリヤはそう言って右手の賢者の石を光らせる。
「私たちと共に来なさいリル。あなたたちにはこの世界を変える力がある。この狂った世界を壊し、人の手にその世界を取り戻すのよ!!」
「そんな都合のいい自分よがりの世界でみんなが幸せになんかなれないです!!」
私がそう叫んだ瞬間だった。
「リルを泣かせるなぁっ! はぁっ! 三十六式が一つバトルアックス!!」
ヤリスがアリーリヤの頭上に現れ回転しながら踵落しを入れる。
ガンっ!!
だがその踵はアリーリヤに届く前にうっすらと透明な青い壁に遮られ受け止められる。
「あらあらあら、アリーリヤにしてはずいぶんと饒舌ですねぇ~。まあ何がしたいかは七大使徒の各々の自由ですから良いですけどね。同じ目的である世界の破滅さえ出来れば教団のお仕事は終わりですもんね」
アリーリヤとヤリスの攻防を見ていたイリカはそう言って手を振るとヤツメウナギ女さんが立ち上がりヤリスにその尾を振るう。
ぶんっ!
ばきっ!!
「ぐぅっ!!」
それは本当に一瞬でヤリスはかろうじて防御をしてはいるけどあっちの方へ吹き飛ばされる。
「ヤリス!!」
「ヤツメウナギ女さん、もう止めてっ!!」
ヤリスが吹き飛ばされ叫ぶ私。
これ以上ヤツメウナギ女さんに誰かを傷つけさせたくないルラ。
しかしイリカやアリーリヤの持つあの「賢者の石」に操られている限り女神の血を吸ったヤツメウナギ女さんは止まらない。
「ルラ、ヤツメウナギ女さんをお願い。あいつらの『賢者の石』を『消し去る』してやる! 集中する時間をお願い!!」
「分かったお姉ちゃん、あたしは『最強』!!」
私のチートスキル「消し去る」は集中が必要だ。
ましてや一度に二つのモノを「消し去る」事は出来ない。
まずはヤツメウナギ女さんを操るイリカの「賢者の石」を「消し去る」。
「ヤツメウナギ女さん、ごめん! 必殺ぱーんち!!」
ルラはヤリスを吹き飛ばしたヤツメウナギ女さんに飛び込み、必殺の拳を叩き込む。
しかし流石に二度もそれを喰らっているヤツメウナギ女さんはその滑っとした肌を大いに活用してその拳を避ける。
「リル、私たちと共に来なさい!」
アリーリヤがそう叫ぶと同時に足元にいばらの蔓が沸き上がる。
しまった、アリーリヤの方も魔法は勿論使えるんだった。
漸!
漸漸!!
「リル、集中しなさい!」
だがその伸び出るいばらの蔓はユカ父さんに切り刻まれる。
私は意識を集中してイリカの指にある「賢者の石」をロックオンする。
途端に頭の中に「消し去る」を実行するかの可否の確認が思い浮かぶ。
私は「可」を選択して力ある言葉を放つ。
「『賢者の石』を『消し去……』」
どすっ!!
だがそれはチートスキルの発動を止めるに十分な情景だった。
いばらの蔓を切り裂いていたユカ父さんの背後からオーガが襲いかかり剣をその背に挿し込む。
「!?」
力ある言葉を放つ前に私はその事実に思わず言葉を失う。
オーガの皆さんが次々にユカ父さんに剣を挿し込む。
どすっ!
どすどすどすっ!!
「ユカ父さん!!!!」
思わずオーガの皆さんに手をかけそれをやめさせようとするも体に何本もの剣を突き刺されたユカ父さんはその場に倒れてしまった。
「いやぁっ!! ユカ父さんっ!!!! なんでっ! 皆さん何やってるんですか!!!?」
私はなりふり構わず【癒しの精霊魔法】を使ってユカ父さんの身体に突き刺さる剣を抜きながら回復をさせようとする。
しかし傷口が深すぎる。
止血が追い付かない。
「け、剣を『消し去る』! 【癒しの精霊】よお願い力を貸して!!」
体中に突き刺さった剣をチートスキル「消し去る」で消して精霊魔法で傷口を塞ごうとする。
どすっ!
びくん!
ぴくぴくぴく……
しかしまたオーガの皆さんがユカ父さんに剣をさす。
「やめて! ユカ父さんが死んじゃう!!」
が、ここで私は初めてオーガの皆さんの瞳に光が宿っていない事に気付く。
呆然とした表情でユカ父さんに何度も何度も剣を突き立てている。
「イリカ! あなたのせいね!!!?」
「うふふふふ、リルさんも好い表情ですよ。私、ゾクゾクしちゃいます。この『賢者の石』は同時に何体もの魔物を操る事は容易なんですよ」
イリカはそう言いながら手を掲げオーガの皆さんに言う。
「さあ、そこのリルさんを捕らえるのです。そして私の術中に落としてあげましょう。世界をその力で破滅させるために!!」
途端にオーガの皆さんがくるりと私を見てこちらに向かってくる。
「い、いや…… もう止めて……」
ユカ父さんの血で赤く染まった手を私に向けて迫ってくるオーガの皆さん。
あの優しくて屈託ないオーガの皆さんがまるでゾンビのように私に迫って来る。
そしてその手が迫って来る。
もう駄目と私が思ったその瞬間身体がふわっと浮いた。
「もう大丈夫です、リル」
「え? ユ、ユカ父さん!?」
迫りくるオーガの皆さんの手から一瞬で私を助け出したのは正しくユカ父さんだった。
なんでと思いチラッと殺されたユカ父さんを見ると跡形もなく消えていた。
そして……
「この機会を待っていました」
漸っ!
ごとっ!!
「がっ!? な、なにっ!?」
教会の屋根の上から声が聞こえる。
慌てて見ればそこにもう一人のユカ父さんがいて今まさにイリカの右手を切り落としていた。
「私の能力を忘れましたか? ルラがあの魔物を押さえ、リルが注意を引き付けてくれたおかげで『賢者の石』を奪う事が出来ました」
お姫様抱っこされながらユカ父さんにそう言われる私、
しかし、イリカに次の一撃を入れようとするもう一人のユカ父さんの剣を見えない壁が遮る。
「イリカ、うかつよ! ちっ、魔物の制御は私に。ここは一旦下がるわよ!」
アリーリヤがそう言う言いながら右手をイリカに向けていた。
その手についている指輪を輝かせるている。
どうやらあの防御魔法はアリーリヤのようだ。
「く、こんな所で死んでたまりますか! 封印のひょうたんよ!!」
イリカは残った手で懐からあの封印のひょうたんを取り出し掲げる。
「させません!」
ひゅんっ!
ガンっ!!
「!?」
それをユカ父さんは剣を振り破壊しようとするも、アリーリヤがまた見えない壁で邪魔をする。
封印のひょうたんがその栓を引き抜かれ周りにいた魔物たちを一瞬で吸い込む。
そしてアリーリヤは魔晶石を懐から引き出し【帰還魔法】を発動させる。
「リル、ルラ。今は下がるわ。でもきっとあなたたちを私たちのモノにする。この矛盾だらけの世界を破壊する為に!!」
「アリーリヤ!!」
アリーリヤとイリカは最後にその言葉を残してその場から消えてしまった。
私はユカ父さんに地面に降ろされ彼女らのいなくなった屋根を睨みつける。
「お姉ちゃん! ヤツメウナギ女さんがいきなり消えた!!」
「いつつつつつ、あの化け物は? それにあの女とアリーリヤは!?」
ルラとヤリスも戻って来た。
しかし連中は【帰還魔法】でこの場から消えてしまった。
ばさっ!
とんっ
ちん。
「敵ながら見事な引き際です。しかし街の被害が大きい」
屋根の上からもう一人のユカ父さんがマントをなびかせながら飛び降りて来る。
そして剣を鞘に戻しながらそう言う。
「捕り逃がしましたか……」
そう言いながら私を助けてくれたユカ父さんはその姿を揺らがせ消える。
どうやら一人に戻ったようだ。
街にいた魔物たちは全て消えた様だ。
そしてイリカもアリーリヤも。
貿易都市サフェリナは解放された。
ただ一人のオーガの死体を残して……
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