139 / 150
第四章:転移先で
4-35:ガルザイル出発
しおりを挟む「あれが連合軍の駐在所ですか……」
私たちはなんやかんや言ってタフトと一緒に学園都市ボヘーミャに向かっていた。
馬車でひと月弱もかかるらしい。
しかもその間ほとんどがガレント王国領になる。
ガレント王国は世界の穀物庫と言われるほど穀物の生産量が多い。
その生産量は全世界のなんと六割にも及ぶと言われている。
なので、ガレント王国からの穀物輸入をしなければ何処の国も基本自給自足が難しい。
過去には自給自足を行っていた国もあるが、効率を考えるとガレント王国から穀物を輸入した方が断然いいという事になる。
そしてそれだけの生産をするのだからこの国は豊かだ。
毎年の収入に加え、各衛星都市は各衛星都市でいろいろと産業を持っている。
私たちが途中立ち寄ったユーベルトの街などは典型的だ。
あそこはマシンドールや「鋼鉄の鎧騎士」のパーツや、遊戯の品々の生産に特化している。
この世界にもなぜか将棋やチェス、オセロと言ったボードゲームやカードが存在している。
その遊戯のほとんどがそのユーベルト発祥というのだから、私同様に異世界転生して者がきっといるはずだ。
だってどう考えたってあっちの世界の遊戯なんだもん。
そんなことをぼんやり思っていたらマリーが窓の外を見ながらそんなことを言ってきた。
「連合軍?」
「はい、各国の軍隊が協力しあって有事の時はすぐに対応をする組織です。噂では特にジュメルに対してはその動きが活発と聞きます」
そう言ってマリーはじっと郊外にあるその建物を見る。
外から見る感じはまるでコロシアム。
円形の建物に囲まれたっぽいそれはかなりの大きさだ。
耳をすませば何か大きな音がしているので、もしかしたら「鋼鉄の鎧騎士」同士で訓練をしているのかもしれない。
「アルムは『鋼鉄の鎧騎士』に興味があるのかい?」
私もマリーにつられてそれを見ていると、タフトがそう聞いてくる。
「いや、『鋼鉄の鎧騎士』ってなんか散々な目になったような気がしてね…… 覚えては無いのだけど、かかわりあいたくはないような気がするんだ」
「そうか? 『鋼鉄の鎧騎士』は魔道の集大成、僕はとても興味があるのだがな…… それに、我がガレント王国の宝物庫には十二体しか存在しないと言われるオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』があるんだよ! と、そういえばイザンカ王国にも一体あったはずだが……」
「ごめん、その辺の記憶もないんだ」
うーん、何だろう?
イザンカの「鋼鉄の鎧騎士」と聞いた瞬間女性の影がちらつくのは……
なぜか心がざわつきながら私は視線をその先の街道へと移すのだった。
* * * * *
「暇だぁ……」
馬車で移動する事四日目。
聞いてはいたけど街道の左右は地平線が見える畑が連なっていた。
一毛作ではないようで、小麦を植えている隣で収穫をしているという風景にはちょっと驚かされた。
生前の記憶でも、小麦って一年に一回しか収穫できなかった記憶がある。
「はははは、延々と小麦畑の連続だからね。まぁガレント王国では『麦は大地の恵み』と言われいつでも採れるからね、小麦で困ったことはないだろうね」
タフトはそう言いながら魔導書に目を落とす。
日中馬車の移動時にはこうして魔導書を読んでいる。
そして休憩時の夕刻には軽く魔道や剣の鍛錬をして、夕食後に体を拭いて寝るという生活。
たまに町や村があると宿屋に泊まれるけど、圧倒的に野宿が多い。
そして移動時にはいつ終わるのかわからない畑を左右に変わらない風景にあくびが出てくる。
そんなまどろみながらも、ふと気になってタフトに聞いてみる。
「でも、これだけの穀物が毎年手に入るんじゃ、他国も黙っていないんじゃないの?」
「だから『鋼鉄の鎧騎士』がいるんじゃないか。君の母国イザンカなどはそれ以外にも魔獣駆除に役立っているとは聞いたが、イージム大陸自体が異様に魔獣や魔物が多い。ドドス共和国への量産型の売却も本来それが目的だったはずなのだが…… すまなかった、戦争に勝てたとはいえ我がガレント王国によってアルムの国が大変なことになってしまった……」
どうやらドドスと戦争になったことについてガレント王国の原因を言っているようだけど、私はその辺の記憶がないんだよなぁ~
私は頭を下げるタフトに対して慌てて言う。
「いやいや、タフトのせいじゃなんだから。頭を下げないでよ。王族がそうそう簡単に頭を下げちゃまずいでしょうに」
「しかし、君は友人だ。友人に不利になるようなことをしたのだ、謝罪させてくれ」
そう言ってもう一度頭を下げるタフト。
誠実なところもあるのは分かるけど、やめて欲しい。
「わかった、わかったから頭を上げて! もう、そんなこと言われたって僕はその辺の記憶がごっそりと無いって言うのに……」
いわれのないことで頭を下げられているようなものだ。
実際には聞いた話の範疇では、確かに影響はあったろう。
でも記憶にない事だし、戦争には勝利したようだし、もういいんじゃないかな?
「タフト、その辺にしておきなさいよ。アルム君も困ってるわよ?」
「しかしエル姉様……」
「はいはい、このお話はここまで。それよりこれやらない? 私はまだ一回もアルム君に勝ってないんだからね! さぁ、勝負よ!!」
そう言ってエルさんはオセロのボードを開く。
これって四隅を取った方が圧倒的に有利なんだけど、エルさんは目の前の利益ばかり追って、その辺に未だ気づいていない。
言おうかどうか迷ったけど、意外とみんなこの辺を知らないので私は黙っておくことにした。
そのうち気づくとは思うんだけどなぁ……
「とにかく、暇なら勝負よ! 今度こそはぁ!!」
「はいはい、わかりました。それじゃぁエルさんからどーぞ」
私はそう言って、エルさん相手に退屈な馬車の旅をオセロで紛らわせるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる