150 / 155
再軍議
しおりを挟む
「……最悪だな」
「えぇ。最悪です」
再び、天幕の中で軍議を執り行う。
それは、敵の総大将がドルーガになったからである。
無論、彼が脱走する前、彼のいる所で軍議は執り行っていない。
策は漏れていない筈だが、彼が相手ならばそんな事は些細な事だ。
敵がこちらの想定の倍以上に手強くなったと見るべきである。
「そもそも、師匠はどうやって逃げたのだ? 佐切殿は何かわかっているようだったが……」
「多分、お師匠様は転移系のスキル持ちの支援者がいるのよ。そうでもなきゃ、私達より先にファレスに到着して攻略隊の指揮をするなんてこと出来ないもの」
ロームの言う通りである。
しかし、憶測で何の確証も無かったとは言え、ドルーガさんの逃走手段の推測を打ち明けなかったのは悪手だった。
勿論監視の目は増やしていたが、それでも目が離れる瞬間というのはある。
そもそも俺はドルーガさんを尊敬して、プライベートな瞬間は守っていたのだ。
それが仇となった、か。
「なにはともあれ、決戦の要となるのは目の前に流れるこの川だろう」
ガルンが地図上の川を指さす。
「そうだね。ドルーガもそれを理解しているはず。渡河をさせるか渡河するか……何か策を張っているかもしれぬし、こちらも迂闊に手を出せない……下手をすれば睨み合いの状況が続きかねないね」
「カルラの言う通りね。ドワーフとエルフはこの戦の切り札になり得るし、夜通しの川の監視は私が統括して、ノージリア軍と連合軍を使って見張るわ」
「カ、カレン様自らですか!? 何も、儂に任せてくれれば……」
「ザイル。貴方のファレス騎士団も十分切り札となる存在よ。それに、ノージリアの女王自らが指揮を執れば、将兵にここが肝要だと示せるでしょう?」
「む……確かに……」
「なら、私達魔族も前線に出るのが良いでしょう。相手への牽制になりますし」
もはや俺がいなくても軍議は滞り無く進む。
先程から話されている内容も何一つとして意見する所が無い。
自惚れる訳では無いが、ここまで共に戦ってきたからだろうか。
……それにしても川、か。
ふと、あの少女に見せられた未来視を思い出す。
「……」
「佐切様?」
「あぁ、すまん。フィアナ、気にしないで続けてくれ」
あの未来は近いのかもしれないな……。
何か打てる手は打っておいたほうがいいか……。
「……よし、フィアナ。ここは任せた」
「えぇ!? 本当ですか!? あのドルーガさんを相手に策を練ろと!?」
「ファレスで立派に指揮したフィアナなら大丈夫だ。俺は少しやることがあるから、任せた。後で確認はさせてもらうけどな。俺は俺でやることが出来た。レナ、ついてきてくれるか?」
「ん、勿論」
レナは頷く。
「サナン。俺は将兵達の様子を見てくる。お前も来るか?」
「ん? そうだな……俺じゃああんまり良い策を進言できる自信が無いからな……ついていくぜ。最悪、魔王派の指揮はフィアナに任せても良いしな!」
「なんか……私に押し付け過ぎじゃないですか……」
「すまんフィアナ! 宜しく!」
「ということで、サナンは借りてく。フィアナ、魔王派の皆への策の説明は頼んだ。出来上がった策、期待してるぞ」
俺はその場を後にする。
「……?」
天幕を出る際、視線を感じたが……。
……気にし過ぎ、か?
「えぇ。最悪です」
再び、天幕の中で軍議を執り行う。
それは、敵の総大将がドルーガになったからである。
無論、彼が脱走する前、彼のいる所で軍議は執り行っていない。
策は漏れていない筈だが、彼が相手ならばそんな事は些細な事だ。
敵がこちらの想定の倍以上に手強くなったと見るべきである。
「そもそも、師匠はどうやって逃げたのだ? 佐切殿は何かわかっているようだったが……」
「多分、お師匠様は転移系のスキル持ちの支援者がいるのよ。そうでもなきゃ、私達より先にファレスに到着して攻略隊の指揮をするなんてこと出来ないもの」
ロームの言う通りである。
しかし、憶測で何の確証も無かったとは言え、ドルーガさんの逃走手段の推測を打ち明けなかったのは悪手だった。
勿論監視の目は増やしていたが、それでも目が離れる瞬間というのはある。
そもそも俺はドルーガさんを尊敬して、プライベートな瞬間は守っていたのだ。
それが仇となった、か。
「なにはともあれ、決戦の要となるのは目の前に流れるこの川だろう」
ガルンが地図上の川を指さす。
「そうだね。ドルーガもそれを理解しているはず。渡河をさせるか渡河するか……何か策を張っているかもしれぬし、こちらも迂闊に手を出せない……下手をすれば睨み合いの状況が続きかねないね」
「カルラの言う通りね。ドワーフとエルフはこの戦の切り札になり得るし、夜通しの川の監視は私が統括して、ノージリア軍と連合軍を使って見張るわ」
「カ、カレン様自らですか!? 何も、儂に任せてくれれば……」
「ザイル。貴方のファレス騎士団も十分切り札となる存在よ。それに、ノージリアの女王自らが指揮を執れば、将兵にここが肝要だと示せるでしょう?」
「む……確かに……」
「なら、私達魔族も前線に出るのが良いでしょう。相手への牽制になりますし」
もはや俺がいなくても軍議は滞り無く進む。
先程から話されている内容も何一つとして意見する所が無い。
自惚れる訳では無いが、ここまで共に戦ってきたからだろうか。
……それにしても川、か。
ふと、あの少女に見せられた未来視を思い出す。
「……」
「佐切様?」
「あぁ、すまん。フィアナ、気にしないで続けてくれ」
あの未来は近いのかもしれないな……。
何か打てる手は打っておいたほうがいいか……。
「……よし、フィアナ。ここは任せた」
「えぇ!? 本当ですか!? あのドルーガさんを相手に策を練ろと!?」
「ファレスで立派に指揮したフィアナなら大丈夫だ。俺は少しやることがあるから、任せた。後で確認はさせてもらうけどな。俺は俺でやることが出来た。レナ、ついてきてくれるか?」
「ん、勿論」
レナは頷く。
「サナン。俺は将兵達の様子を見てくる。お前も来るか?」
「ん? そうだな……俺じゃああんまり良い策を進言できる自信が無いからな……ついていくぜ。最悪、魔王派の指揮はフィアナに任せても良いしな!」
「なんか……私に押し付け過ぎじゃないですか……」
「すまんフィアナ! 宜しく!」
「ということで、サナンは借りてく。フィアナ、魔王派の皆への策の説明は頼んだ。出来上がった策、期待してるぞ」
俺はその場を後にする。
「……?」
天幕を出る際、視線を感じたが……。
……気にし過ぎ、か?
0
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる