歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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初仕事

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「魔王派……ね」
 
 広場でその言葉を聞いた佐切はすぐさま調査を開始した。
 詰所で調べた書物にもその名は一つも載っておらず、一からの調査となった。
 しかし、意外にも調査はすんなりと進んだ。
 
「聞き込み調査で済むとはな……複数人に裏も取れたし、間違いはない……つまり、魔王派という存在は秘匿されたものでは無い、と」
 
 佐切は路地裏をメモを見ながら進む。
 佐切は現在、魔王派の人間の目撃情報が最も多い地区へと向かっていた。
 
(魔王派……スキルを持たない人間による魔王への恭順の意を示した集団……スキル至上主義のこの王国で、スキルを持つことが出来ない魔族による支配で、スキル至上主義からの脱却を願っている集団……か)
 
 このスキル至上主義の世界に対して不満を抱えている者は佐切だけではなく、この世界に元々存在していた。
 それが、魔王の出現によって表面化し、魔族はスキルを使えない事から、魔族の国の支配ならば差別対象である自分達の立場も回復するのではないかと期待して作られた物だった。
 
「さて……この辺りだが……基本的にはそこまで暴力的な集団では無いらしいが……話し合いに応じてくれるかな?」
「……止まれ」
 
 路地裏をメモを見ながら進んでいると、背後から声をかけられる。
 
「……あんたが。俺たちのことを探っている奴か……両手を挙げろ。そしてこちらに振り返らず、そのまま答えろ」
「成る程……範囲系のスキルを警戒してか。あれは視界に写った範囲に作用するものだからな……賢明だ」
 
 佐切は言われた通りにする。
 
「何が目的だ。正直に答えろ」
「何も? 俺はスキルが非常に劣っていてね。このままじゃあ明日の生活すら厳しいから、魔王派とコンタクトを取ってどうにかしようと考えてた訳さ。因みに、俺はあんたらが広場で一方的に殴ってた勇者の同僚だ。それでも今後の生活に困ってるんだ。この世界に不満を持ってもおかしくはないだろう?」
「広場で一方的に……何のことだ? いやそんなことよりも、貴様、勇者か!?」
 
 一瞬の戸惑いはあったものの、男の声は警戒を強める。
 すると、足音が増え、背後にかなりの数の人数がいることが分かる。
 
(これは……受け答えを間違えれば死ぬかもな)

 佐切も警戒を強める。

(佐切殿! 今どちらに居るのですか!?)
 
 すると、頭の中にジョバンニの声が響く。
 
(ジョバンニさんか……ちょっと今忙しくてね。後にしてもらえます?)
(いえ! 近衛騎士団が魔王派の掃討に取り掛かりました! 王城で小耳に挟んだのですが、近衛騎士団はあなたを魔王派ごと消すつもりです! 詰所を追い出されたのも聞きました! 出来る限り人の多い所で待っていて下さい! 第六騎士団をすぐに向かわせます!)
 
 その言葉を聞き、佐切は全てを理解する。
 
(まさか……あの広場のやり取り……あれは全て仕込み!? いや、護からは演技のようなものは感じ取れなかった……ということは、あの暴漢共は全て近衛騎士団の人間……あれを見るようにあの団長は仕向けていたのか……? しかし、広場を通る保証は無い……何らかのスキルで誘導した?)
 
 すると、背後から背中に刃を突き立てられる。
 
「おい! 答えろ! 貴様は勇者なんだな!?」
「……ちぃ……意外とやりやがるな、近衛騎士団……上手く行けば俺を魔王派に殺させるつもりか……」
「一体何を……」
 
 すると、別の魔王派の人間が路地裏に走り込んできて大きな声で叫ぶ。
 
「おい! 急いでここから離れろ! 近衛騎士団が迫ってるぞ!」
「な!? き、貴様が呼び込んだのか!?」
「……どうやら、俺は餌だったみたいだ。すまんな。言っただろ? 俺も明日の生活にすら困ってるんだ。勇者がそんな状況に陥っているなんて、近衛騎士団は知られたくないんだろうな」
 
 佐切は振り向く。
 背後には十数名の男達。
 短弓や短剣を装備してはいるが、防具は無い。
 皆、近衛騎士団が迫ってきているのに怯えているようで、佐切に対する警戒は解かれていた。
 
「くそ……ここで終わりなのか……」
「急いでアジトに……いや、あいつらも危険にさらしてしまう……それだけは……」
「ここで……死ぬのか……」
 
 男達は口々に絶望を確かめる。
 
「……よし! 君、名前は?」
「え? お、俺?」
 
 佐切は自分に対して剣を突き立てていた男に声を掛ける。
 
「サ、サナン……だ」
「よし。君らはここらの地理には詳しいな? なら、俺が指揮を執る。どうせこのままだと俺も殺される。だったら、俺が指揮を執って、君たち全員を生きてこの町から逃がしてやろうじゃないか。スキルが無くても後れは取らないって事、見せてやるよ」
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