36 / 155
ジョバンニの心中
しおりを挟む
「……来ないか」
やはり、狙いは悟られたようだ。
飛び道具が効かないこの陣形、咄嗟に思いついた副官であるタインには感謝しなければ。
そもそもは陣の中央にいるスキル持ちである二人を見えなくする為に四方全てを盾で覆っただけなのだが。
すると、タインが近づいてくる。
「隊長。敵、来ませんね」
「あぁ。だが、初戦で勇者を直接狙われ、敗北を喫したんだ。この陣形だからと言って決して油断はするなよ」
相手が相手である。
一瞬の油断も許さないのだ。
既に総員に警戒を怠るなと言い渡してある。
(まぁ、初戦で勇者を討ち取られた時から、皆の士気はガタ落ち。油断する者など一人も居なかったがな……そのせいか、皆疲れているな)
指揮官クラスの人間は陣を外れ、周囲の警戒に当たっている。
それ故、指揮官クラスの人間が一番気を張っている。
陣形を保ちつつ進軍する兵よりも、常に死との恐怖が隣り合わせている。
このままではグンローグ要塞にたどり着けたとて、まともな戦は不可能だろう。
だが、我々第六騎士団はこの任をやり遂げなければならないのだ……。
「謀反の疑い!? 我らにか!?」
「あぁ。そうだ」
佐切が王都を追われてから数日後。
駐屯所に旧友、近衛騎士団団長のロームが訪ねてくる。
彼女は幼馴染であり、昔からよく遊んだりもしたが、彼女は優秀なスキルを与えられ、俺は与えられなかった。
それからというもの、彼女は騎士団の中でもメキメキと力をつけていき、近衛騎士団長にまで上り詰めた。
しかし彼女はそれからも時たま顔を出してくれている。
いつもは下らない話しかしないが、今回の話題は物騒てあった。
「ジョバンニ。あなたが裏切り者……魔王派に与した佐切勘助を匿っていたのが悪かったみたい。あなたにも容疑がかけられてるの」
「ただの言いがかりだ……それに、そうなる要因を作ったのは王家の方針ではないのか!? スキルによる優劣等ではなく、その個人の能力で評価し取り立てれば、あのお方は必ずや魔王軍を退けてくれる方となった筈! そもそも魔王との戦だって王家が……」
そこまで言うと、ロームが口を塞いでくる。
「あんた馬鹿なの? 王家を侮辱して……それに、近衛騎士団長の私の目の前で……先代だったら速攻切られてたわよ」
「む……すまん」
謝ると、手を離してくれる。
「というか……随分と肩入れしてるのね」
そう言うロームの顔は少し不満気であった。
「……あのお方と話をしてみれば分かる。佐切殿を手放すのは王国にとって……いや、我々人類……いや、この世界に暮らす生物、魔族等の縛りを越えて、全ての今を生きる者に多大な影響を与えられる筈だ! それだけの才能を持っている!」
「……そう。そこまで言うのね……」
すると、ロームは少し顔をそらし、小さく呟く。
「……確かに、スキルだけでは判断しきれないか……最後のあの言葉……惜しい事をしたのかも……」
ブツブツとつぶやいており、なんと言ったのかはわからなかったが、少し考えた後、ロームは懐から一枚の書状を差し出してくる。
「これは?」
「……例の魔王派が魔王軍の籠もるグンローグ要塞……というか、魔王領へ向けて進んでいるという確かな情報が入ったの。役立たずのスキルとは言え、元勇者。謀反の疑いを晴らしたいのならば魔王討伐軍に加わり、見事裏切り者の首を取ってみせよ、との仰せよ」
文の最後には、王家の紋が記されていた。
「……逆らえば……」
そう口にすると、ロームはすぐさま剣を抜き、それをこちらの首筋に当ててくる。
「殺すまでよ」
「……出来るのか? お前に?」
彼女とは長い付き合いだ。
互いに互いの想いに気付いている。
互いにいい歳だがそれぞれの立場があるので、発展はしていない。
「……」
すると、ロームは切っ先を自分の喉元に当てる。
「なっ!?」
「あなたの居ない世界に興味は無いわ。あなたの処分は私じゃなくても遂行される。なら、私も死ぬだけ」
「……」
その眼差しは、確かなものだった。
彼女の言葉に嘘偽りは無い。
「……分かった」
「……良かった」
ロームは剣を鞘に納めた。
「だが約束してくれ。今後、そのような真似は冗談でもしないと」
「……ええ。約束するわ。でも、必ず生きて戻ってきてね。そうじゃないと、本当に自殺するから」
気が付けば、日が落ち始めていた。
それでも、歩みを止めること無く、兵は進んでいる。
(……別に佐切殿を討ち取らなくても良いのだ……見つけられなかったとし、別の事で武功を立てれば謀反の疑いも晴れる筈だ……)
再度辺りを見渡す。
もう視界も悪くなってきている。
このまま進軍するのは危険だ。
「全軍停止! 各陣形維持したまま、休息を取れ! 盾を使って壁と天井にし、その中で夜営をする! 追って設備を渡す! それまでその場で待機せよ!」
この世界の軍の盾は簡単に立てられるようになっている。
それで四方を囲み、盾の壁に木材を数本かけ、その上にまた盾を置く。
これが昨日思いついた防御しつつ夜営をする方法である。
(負けるわけには行かんのだ……負けられない理由が俺にもある……佐切殿、どうか許してくれ)
やはり、狙いは悟られたようだ。
飛び道具が効かないこの陣形、咄嗟に思いついた副官であるタインには感謝しなければ。
そもそもは陣の中央にいるスキル持ちである二人を見えなくする為に四方全てを盾で覆っただけなのだが。
すると、タインが近づいてくる。
「隊長。敵、来ませんね」
「あぁ。だが、初戦で勇者を直接狙われ、敗北を喫したんだ。この陣形だからと言って決して油断はするなよ」
相手が相手である。
一瞬の油断も許さないのだ。
既に総員に警戒を怠るなと言い渡してある。
(まぁ、初戦で勇者を討ち取られた時から、皆の士気はガタ落ち。油断する者など一人も居なかったがな……そのせいか、皆疲れているな)
指揮官クラスの人間は陣を外れ、周囲の警戒に当たっている。
それ故、指揮官クラスの人間が一番気を張っている。
陣形を保ちつつ進軍する兵よりも、常に死との恐怖が隣り合わせている。
このままではグンローグ要塞にたどり着けたとて、まともな戦は不可能だろう。
だが、我々第六騎士団はこの任をやり遂げなければならないのだ……。
「謀反の疑い!? 我らにか!?」
「あぁ。そうだ」
佐切が王都を追われてから数日後。
駐屯所に旧友、近衛騎士団団長のロームが訪ねてくる。
彼女は幼馴染であり、昔からよく遊んだりもしたが、彼女は優秀なスキルを与えられ、俺は与えられなかった。
それからというもの、彼女は騎士団の中でもメキメキと力をつけていき、近衛騎士団長にまで上り詰めた。
しかし彼女はそれからも時たま顔を出してくれている。
いつもは下らない話しかしないが、今回の話題は物騒てあった。
「ジョバンニ。あなたが裏切り者……魔王派に与した佐切勘助を匿っていたのが悪かったみたい。あなたにも容疑がかけられてるの」
「ただの言いがかりだ……それに、そうなる要因を作ったのは王家の方針ではないのか!? スキルによる優劣等ではなく、その個人の能力で評価し取り立てれば、あのお方は必ずや魔王軍を退けてくれる方となった筈! そもそも魔王との戦だって王家が……」
そこまで言うと、ロームが口を塞いでくる。
「あんた馬鹿なの? 王家を侮辱して……それに、近衛騎士団長の私の目の前で……先代だったら速攻切られてたわよ」
「む……すまん」
謝ると、手を離してくれる。
「というか……随分と肩入れしてるのね」
そう言うロームの顔は少し不満気であった。
「……あのお方と話をしてみれば分かる。佐切殿を手放すのは王国にとって……いや、我々人類……いや、この世界に暮らす生物、魔族等の縛りを越えて、全ての今を生きる者に多大な影響を与えられる筈だ! それだけの才能を持っている!」
「……そう。そこまで言うのね……」
すると、ロームは少し顔をそらし、小さく呟く。
「……確かに、スキルだけでは判断しきれないか……最後のあの言葉……惜しい事をしたのかも……」
ブツブツとつぶやいており、なんと言ったのかはわからなかったが、少し考えた後、ロームは懐から一枚の書状を差し出してくる。
「これは?」
「……例の魔王派が魔王軍の籠もるグンローグ要塞……というか、魔王領へ向けて進んでいるという確かな情報が入ったの。役立たずのスキルとは言え、元勇者。謀反の疑いを晴らしたいのならば魔王討伐軍に加わり、見事裏切り者の首を取ってみせよ、との仰せよ」
文の最後には、王家の紋が記されていた。
「……逆らえば……」
そう口にすると、ロームはすぐさま剣を抜き、それをこちらの首筋に当ててくる。
「殺すまでよ」
「……出来るのか? お前に?」
彼女とは長い付き合いだ。
互いに互いの想いに気付いている。
互いにいい歳だがそれぞれの立場があるので、発展はしていない。
「……」
すると、ロームは切っ先を自分の喉元に当てる。
「なっ!?」
「あなたの居ない世界に興味は無いわ。あなたの処分は私じゃなくても遂行される。なら、私も死ぬだけ」
「……」
その眼差しは、確かなものだった。
彼女の言葉に嘘偽りは無い。
「……分かった」
「……良かった」
ロームは剣を鞘に納めた。
「だが約束してくれ。今後、そのような真似は冗談でもしないと」
「……ええ。約束するわ。でも、必ず生きて戻ってきてね。そうじゃないと、本当に自殺するから」
気が付けば、日が落ち始めていた。
それでも、歩みを止めること無く、兵は進んでいる。
(……別に佐切殿を討ち取らなくても良いのだ……見つけられなかったとし、別の事で武功を立てれば謀反の疑いも晴れる筈だ……)
再度辺りを見渡す。
もう視界も悪くなってきている。
このまま進軍するのは危険だ。
「全軍停止! 各陣形維持したまま、休息を取れ! 盾を使って壁と天井にし、その中で夜営をする! 追って設備を渡す! それまでその場で待機せよ!」
この世界の軍の盾は簡単に立てられるようになっている。
それで四方を囲み、盾の壁に木材を数本かけ、その上にまた盾を置く。
これが昨日思いついた防御しつつ夜営をする方法である。
(負けるわけには行かんのだ……負けられない理由が俺にもある……佐切殿、どうか許してくれ)
1
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる