72 / 155
友
しおりを挟む
「サナン。少し良いか?」
「おお、我が友であり我等が軍師殿。勿論だ」
娼館の中に設けられた作戦室。
その中の隅で一人、窓から外を見て黄昏ていたサナンに声をかけた。
「何を黄昏てたんだ?」
「黄昏てなんか無いさ。ただ、俺たちもやっとここまでこれたなって思ってただけだ」
サナンはテーブルの上に広げられた作戦図の方を見ながら言う。
「もしお前がこの世界に来てなかったら俺達は壊滅してただろ。魔王軍もここまでこれなかっただろうし……そもそも滅亡していたかもしれん」
「……」
「多くの偶然が重なってここまでこれたんだな……って思ってた所だ」
サナンは魔王軍の思想に共感して宮本武蔵が設立したという魔王派に加入した。
そして、宮本武蔵が志半ばで倒れ、サナンが跡を継いだ。
宮本武蔵という偉大な指導者を失い、仲間も徐々に減っていく魔王派をここまで守り抜いていたサナンからしたら感慨深いのだろう。
「……そう言えば、宮本武蔵はどういう経緯で魔王派を設立したんだ? そこまで詳しく聞いたことはなかったが……」
「そうだったか? そうだな……どこから話したものか……」
サナンは思い出しながら話し始めた。
「武蔵さんは国を追放されてから暫くは一人で放浪していたらしい。色んな所を回ってスキルを持たない、強くなりたいという人に稽古をつけて回ってた。その内の一人が俺でもある」
「そうだったのか? そう言えばお前の魔王派へ入った経緯も知らないな……こうして見ると、何も知らないんだな、俺」
サナンは少し笑いながら答えてくれる。
「そうだな……武蔵さんと知り合ったのは言った通りだが、知り合って稽古をつけてもらった後に国の軍が俺の村に攻めてきた」
「……一体どうして?」
「……俺の村は数十年続けてスキル持ちを出してなかった。レナの事でスキルを得られる人間の条件が尚更分からなくなったが、国の方針としてはスキル持ちを産出しない村は不要な村となるらしい。非公式だが、いくつもの村が滅ぼされてきた。下手したら魔王軍の侵攻で滅んだ村よりも数は多いかもな」
「そんな事が……」
そんな歴史は俺も知らない。
ジョバンニさんならば何か知っているかもしれないが……。
「そこで稽古をつけに村に来ていた武蔵さんが軍の連中をバッタバッタと切り倒して生き残った村の連中を助け出してくれたんだ。そしてそのまま魔王派を創設した。つまり、俺は創設メンバーって事だな」
サナンは楽しそうに素振りして宮本武蔵の栄光を語る。
しかし、その様子を見ても話の内容が内容なので笑顔で答えられなかった。
「……そうか……」
生き残った村の人間の数は聞けなかった。
何人にせよ、今は二十人。
それから後も減り続けたんだろう。
そんな俺の表情を読み取ったのか、サナンは席に戻った。
「……ま、スキルについて魔王様が調べてくれてるんだろ? 俺の村みたいな事になる村も減るだろうさ」
「……何言ってるんだ」
俺はサナンの言葉を訂正する。
「そんな事になる村は今後一つもなくなるさ。俺達が国を……世界の常識を塗り替えるんだからな」
「……流石は俺達の軍師……」
「いいや、これは軍師の言葉じゃない。お前の友の言葉だ。約束する。魔王派のリーダー、サナンの友である俺が約束するさ。サナン、この戦争に勝とう」
「……おう!」
「おお、我が友であり我等が軍師殿。勿論だ」
娼館の中に設けられた作戦室。
その中の隅で一人、窓から外を見て黄昏ていたサナンに声をかけた。
「何を黄昏てたんだ?」
「黄昏てなんか無いさ。ただ、俺たちもやっとここまでこれたなって思ってただけだ」
サナンはテーブルの上に広げられた作戦図の方を見ながら言う。
「もしお前がこの世界に来てなかったら俺達は壊滅してただろ。魔王軍もここまでこれなかっただろうし……そもそも滅亡していたかもしれん」
「……」
「多くの偶然が重なってここまでこれたんだな……って思ってた所だ」
サナンは魔王軍の思想に共感して宮本武蔵が設立したという魔王派に加入した。
そして、宮本武蔵が志半ばで倒れ、サナンが跡を継いだ。
宮本武蔵という偉大な指導者を失い、仲間も徐々に減っていく魔王派をここまで守り抜いていたサナンからしたら感慨深いのだろう。
「……そう言えば、宮本武蔵はどういう経緯で魔王派を設立したんだ? そこまで詳しく聞いたことはなかったが……」
「そうだったか? そうだな……どこから話したものか……」
サナンは思い出しながら話し始めた。
「武蔵さんは国を追放されてから暫くは一人で放浪していたらしい。色んな所を回ってスキルを持たない、強くなりたいという人に稽古をつけて回ってた。その内の一人が俺でもある」
「そうだったのか? そう言えばお前の魔王派へ入った経緯も知らないな……こうして見ると、何も知らないんだな、俺」
サナンは少し笑いながら答えてくれる。
「そうだな……武蔵さんと知り合ったのは言った通りだが、知り合って稽古をつけてもらった後に国の軍が俺の村に攻めてきた」
「……一体どうして?」
「……俺の村は数十年続けてスキル持ちを出してなかった。レナの事でスキルを得られる人間の条件が尚更分からなくなったが、国の方針としてはスキル持ちを産出しない村は不要な村となるらしい。非公式だが、いくつもの村が滅ぼされてきた。下手したら魔王軍の侵攻で滅んだ村よりも数は多いかもな」
「そんな事が……」
そんな歴史は俺も知らない。
ジョバンニさんならば何か知っているかもしれないが……。
「そこで稽古をつけに村に来ていた武蔵さんが軍の連中をバッタバッタと切り倒して生き残った村の連中を助け出してくれたんだ。そしてそのまま魔王派を創設した。つまり、俺は創設メンバーって事だな」
サナンは楽しそうに素振りして宮本武蔵の栄光を語る。
しかし、その様子を見ても話の内容が内容なので笑顔で答えられなかった。
「……そうか……」
生き残った村の人間の数は聞けなかった。
何人にせよ、今は二十人。
それから後も減り続けたんだろう。
そんな俺の表情を読み取ったのか、サナンは席に戻った。
「……ま、スキルについて魔王様が調べてくれてるんだろ? 俺の村みたいな事になる村も減るだろうさ」
「……何言ってるんだ」
俺はサナンの言葉を訂正する。
「そんな事になる村は今後一つもなくなるさ。俺達が国を……世界の常識を塗り替えるんだからな」
「……流石は俺達の軍師……」
「いいや、これは軍師の言葉じゃない。お前の友の言葉だ。約束する。魔王派のリーダー、サナンの友である俺が約束するさ。サナン、この戦争に勝とう」
「……おう!」
0
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる