明晰夢

赤花雪夜

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おかえり

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夕日が沈む頃、一人の女性がヒールを鳴らして歩いていた。
その歩きは悠々と、今にもスキップをするのではと思う歩き方だった。
春達が住む家の玄関前で止まり肩掛けカバンからキーホルダー付きの家の鍵を鍵穴に差し込み玄関を開け中に入ると、ダッダッダッと誰かが走る音が近づく。
「雪ねぇ~! おかえり!」
愛は雪と呼ぶ女性に抱きついた。
雪は愛の五つ年上の姉であった。
今の雪はファッションデザイナーの仕事をしそれが少しずついい方向に進んでいる。
家に居れば妹の愛をモデルにし安いスケッチブックで服のコーデを描くのが雪の楽しみでもあり日課でもあった。またモデル役をやっている愛も嫌ではなかった。逆に雪がデザインする服は愛にとってお気に入りで、去年の誕生日は雪がデザインしたオリジナルのワンピースを一から作り贈ると愛はとても喜んでいた。どの店にも売っていない世界でたった一つのワンピース。
今でもそのワンピースは愛のクローゼットの中でハンガーに掛けてあり今でも大事に愛が着ていた。
「ただいま」
そう言いながら雪は愛の頭を優しく撫でた。
二人は一緒にリビングに入ると香ばしい匂いが二人の鼻を擽る。
春はプレートの皿にハンバーグを一個ずつ移し生のレタスやポテトサラダも加える。
春はテキパキと料理を作ると二人気付き「おかえり」と言えば「ただいま」と雪は返した。
雪は一旦自分の荷物を置きに行くため部屋に行き、その間に愛は春の手伝いをしていた。
鍋に在あるポトフをお椀に移し、火傷しないようにと春に言われながら慎重に、だが大胆に三人分のお椀にポトフを入れた。
雪は楽な私服でリビングに現れると愛は急かす様に早く早くと椅子を引き姉を座らせる。
愛が盛ったお椀を春は盆に乗せて運び置く。
そして三人揃い手を合わせて同時に「頂きます」と声が綺麗に重なる。
リビングの中には色んな音がする。
食べる音、箸が食器に当たる音、スープを啜る音、お茶碗を置く音、楽しそうな笑い声、他愛のない話、リビングの中には肉の香ばしい香りを漂わせ優しい匂いに包まれていた。
そんな中、春は一旦箸を止めこう口にする。
「今度の土曜日、三人で花見に行こうと思うのだけど。何か予定はないかい?」
「何も無いわ。其れにあっても私は断るわ。だって折角家族でお花見行けるのですもの」
姉の言葉を聞いていた愛は口の中にハンバーグを詰め込み頬をリスのように膨らませていた。
頬張っているせいで声が出せないが目は嬉しそうにキラキラとさせ頭を降っていた。
愛なりの喜びの表しである。
「じゃあ、土曜日は雨が降らないことを祈ろうか」
「ママ! 私お弁当はハンバーグと甘い卵焼きが食べたい」
「私はアスパラガスのバター炒めが良いわ」
口に入ったハンバーグを急いで噛んで呑み込んだ愛は我先にとお弁当のおかずを春にリクエストすると雪も愛に便乗すると春は困ったように「はいはい、ちゃんと作るよ」と言った。
春は心の中で忙しくなりそうと思いながらハンバーグを一口、口に入れた。

皿洗いをしている春にその隣で鼻歌を歌いながら手伝っている愛の機嫌はとても良かった。
「そんなに楽しみかい?」
「すっごく! ママは? 楽しみ?」
愛の問いに春は「私も楽しみだよ」っと微笑みながら答えた。
二人が皿洗いを終えると同時に部屋に行っていた雪が箱を持ってリビングに現れた。
愛は箱の中身を覗くと中にある物を取り出した。
箱から出てきたのは雪が服や小物等に使っている白い布と切った布の切れ端だった。
「これで何するの?」
愛は布切れを持って来た雪に問う。
雪は微笑みながら「これでてるてる坊主を作りましょう」と言い出した。
手本として雪が一つてるてる坊主を作り披露する。
完成したてるてる坊主を見て二人は雪とてるてる坊主を見比べ微笑んだ。
そして三人はてるてる坊主を一人一つ作った。
そして自分達が作ったてるてる坊主の首にリボンが結ばれていた。
愛は赤、雪は水色、春はピンク。それぞれリボンを結びリビングのベランダの窓に紐で括り吊るし、三人は手を合わせた。
てるてる坊主に夜空に、土曜は晴れるようにと。
三人はそれぞれ自分の部屋に戻りパジャマに着替え眠りに入る。けれど愛だけはベッドに入っても未だに眠っていなかった。
愛は一度ベッドから出て物音を立てずに部屋を出た。廊下を歩くと小さくギィッっという音なるとが愛の心臓の鼓動が早くなる。真っ暗な階段、壁に手を付けながら慎重に歩きギィッと音が鳴るたびに冷や汗をかきゆっくりと歩く。昼間は階段を慌ただしく早足で降りていたのに夜中となるとゆっくりと慎重に歩いていた。
リビングの扉をそっと開け愛は三人で作った三つのてるてる坊主の前に立ち自分の両手を固く握り目を閉じてまた晴れることを愛は願った。
「毎日が晴れますように」
まるで夢が覚めないでと言わんかのような願い。
愛は願い事を終えるとまた忍び足とリビングを出て自分の部屋に戻り、眠りに落ちた。
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