異世界転移!普通の主婦が、冴えない男と暮らしたら?

哩月

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異世界での生活

魔法って、なぁに?

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002 沙織が、突如として“異世界”に飛ばされて3日がたった。

 助けてくれた恩人少年·キリは、父親·ニールと二人暮らし。

 もともと飼っていた雌馬·コクが、アルーを産んで亡くなり、アルーはキリの弟のように育てられている。


「はい、どうぞ」

 小さな手で温かなココアをサオリに渡してから、小さな口を窄め息で冷ましつつ飲もうとしては、アチっ!と悲鳴をあげていた。

「キリくん。きみは、何歳なのかな?」

「ナンサイ? なーに?」

 どうやら、そこまではわからないのか?

「トシ。年齢かな?」

 キリは、目を天に向けて指を折って数え、

「6歳」

 元気よく答える。

(6歳? うちの隆史と大違いだわ)

「サオリおばちゃん、パンどうぞ」

 テーブルに置かれたパンのバスケットから小さなパンを1つ差し出し、自分も食べようとして、後ろからニールに小突かれる。

「まだ、駄目だ。お腹が空いたのなら手伝う。手伝わないと今日の報酬はナシ!」

 ここにいて3日立つと、ニールの言ってる“報酬”が何に値するのかはわかってきた。どうやら、現代でいうと“お駄賃”や“ご褒美”らしい。

「やる! サオリおばちゃんも手伝う?」

 一瞬、ニールと目が合い首を振られるも、

「じゃ、手伝おっかな」

 一緒に朝餉の準備をすると、そこにニールの会話が飛ぶ。

「全くキリの奴。すみません。お客様なのに···」

 軽く頭を下げるニールの顔をどことなく、安心した笑み。


「さ、食うぞ。今日は、町まで行って買い物をしなければいかんからな。あとサオリさん。あなたの服も。そのままじゃ、いかんだろう···」

「そうですね。でも···」

 考えてみれば、沙織は着の身着のままでこの世界にやってきた。携帯も無ければ、財布すら持っておらず、ましてやこの世界のお金の通過がわからない。

「金は、なんとかなる。キリ、先にギルドに行くからな」

「うん! 今回は、どれ位だろうね? お父さん」

 食事をしながらでも、この二人はよくいろいろな事を話し、笑い、親子というよりは、友達みたいに見えてくる。

「ギルド? って、なんですか?」

 沙織の目の前で、初めて聞く言葉が次々と飛び交う。

「んー、まぁ行けば判る」

 ニールは、炒めた卵にスプーンを入れると豪快に開けた口の中に放り込んだ。

「お父さんね、いつもそこでお仕事貰ってんの。強いんだよ!」

 キリは、目を輝かせて父親の話をしてくれた。

「キリ、話ばかりするな。先に食ってからにしろ」

 言い方は強いが、キリは嫌がるでもなく素直に従い、サオリに着替えを手伝った。

「キリ、アルー出してこい。今日は、荷物が多いからな」

 ニールにそう言われたキリは、小走りで馬小屋へと向かうと、室内にいてもわかるようにアズールの鳴き声が聞こえた。

「可愛いですね」

 キリを見てると、隆史の幼かった頃を思い出す。

「大丈夫ですか? 王国まで行けたら、何かわかるかも知れないのですが···」

 キリやニールの話によると、城下町には凄い占い師がいるとか!

 でも、かなり高いらしい。

「あー、いえ。キリくんを見てると、子供の事を思い出してしまって···」

 そんなしんみりとした場面も、

「おとーさーん! 誰かきたー!」

 キリの大きな声に崩れていった。

 扉を乱暴に開け、二人の男性がズカズカと入ってきた。

「これはこれは···。王兵が、なんのおでましで? キリ! サオリさんといつものとこに行っててくれないか!」

 背中を押され、キリと外に出されたサオリは、手を取られるようにキリについて歩いていった。

「王兵だ。一人の人、前にぼくが見たことある」

「兵隊さん?」

「んー? ちょっと違う。お城にも兵隊さんいるけど、その一人達より、怖いの···」

 キリは、心配そうな顔で丘の上から見える我が家を眺めていた。

(なんの話をしてるのかしら? 随分と怖い顔を合わせるしていたけれど···)


「サオリおばちゃんには、ぼくと同じ子供いるんだよね?」

「そうよ。いるけど、キリくんより少し大きいけど···」

 この滞在の間に、沙織は自身の家族についてもふたりには話してあった。

「強い?」

「どうだろ? でも、どうして?」

 キリは、二人の王兵が出てくる自分の家を見て、

「ぼくのお父さん、また狩りに行くから···。いこ、もうすぐお父さんやってくるから」

 小さなキリが、何を感じ何を思ってるか?それは沙織にはわからないが、手を握ったその手には力が籠もっているのがわかる。

「キリ! 待ったか?」

 腰に小さな巾着をぶら下げたニールは、息子を見ると駆け寄った。

「待ってない、かも。サオリおばちゃんとたくさん話してた」

「そうね。いろんな話したわね」

 沙織も沙織で、キリと過ごす時間も長くなりニールが王兵と話してる間、少しだけ字を教えたりもした。

「まぁ、この国は学校なんてもんはないからな」

 あの二人が聞いたら、さぞ羨ましがるだろう。

「でも、ぼくもう炎出せるよ! 小さいけど···」

 それは、沙織も初耳だった。

 ニールは、アルーにキリを乗せ、

「大丈夫ですよ。アルーは、怖くありませんから」

 沙織まで、アルーに乗せてくれた。

「アルー? ごめんね。私、重いから···」

 アルーの背を優しく撫でると少し首を振り、手綱を引くニールの後からゆっくりと前を歩いていく。

(馬の背中って、こんな硬いのね···)

 掌で感じる感覚は、サラッと柔らかいのに少し押すだけで硬さを感じていた。

「凄い。歩いてる···」

 キリは、前を見たり後ろに座ってる沙織を見たりとキョロキョロしているが、ニールは前だけを見ながら二人に話していた。

「先に、ギルドに行くからキリはサオリさんと表で待っててくれ」

「うん」

 馬に乗ること数十分。

「ここで、待ってろ。喉が乾いたら、あそこに井戸があるから」

 大方いつも言っているのだろう。キリは、はいはいと手で父親を払うような仕草をした。

「じゃ、サオリさん。お願いします」

 丁寧に頭を下げるニールに、つい沙織も、

「わ、わかりました」

 深々とお辞儀をしてしまった。

「キリくんて、炎が出せるの?」

 幾ら人間でも、流石にそれはないだろうと思っていた沙織だったが、

「うん。出せるよ。まだ小さいけどね。見てて」

 小さな少年は、目を閉じ何かを念じながら左手をエイッと突きつけた···

 ポンッと掌から何かが飛び出したが、直ぐに消えてしまった。

「見えた?」

 そう聞くキリに、沙織は小さく首を振るも、キリはキリでそれでへこむ訳ではなく、

「もっと魔法の勉強しないと」

 前向きの発言が口から溢れた。

(ここが違うのよね。隆史とは···)

 比べてはいけないと思いつつも、やはり同じ男の子であるゆえ、比べてしまう。

「サオリおばちゃんの子供も魔法使えるの?」

「ううん。私が住んでる国は、そういうのはないの。勉強はあるけど···」

「毎日、ぼくもお勉強してるよ。この魔法もお父さんに教わったの!」

 キリは、本当にニールが好きらしく、父親の事を話す時は···

「ほんとお父さんの事好きなんだね。興奮して言うと、二人共鼻の穴が広がってるもの···」

 魔法って、御伽の国だけの事だと思っていた。この世界の人は、みんな魔法を使えたりするのだろうか?だとしたら、魔法使い以外の人もいるのかしら?

 それにしても、親子ってほんと似てるなぁと、これはこれで面白い発見をした沙織であった。
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