ノエル

ひなた

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風の村

6話 アリア

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風の村を出て半日ほど歩いたころ、森の中の街道に不穏な気配が漂っていた。
鳥の声が止み、風すらも息を潜めている。

……いやな予感がする。

ノエルが立ち止まったその時、かすかな悲鳴が聞こえた。
「た、助けてくれ!」

ノエルは短剣を抜き、声のする方へ駆け出した。
そこには、ひっくり返った荷馬車と、血を流す護衛、そして商人らしき男が怯えていた。
彼らを囲むように、赤い目を光らせた**森狼(もりおおかみ)**の群れが唸り声を上げている。

ノエルは歯を食いしばり、短剣を構えて飛び込んだ。

最初の一匹に渾身の一撃を叩き込む。
だが、体当たりの衝撃で後ろに弾き飛ばされる。
二匹目が横から飛びかかり、腕に鋭い爪が走る。

「っ……!」

痛みと恐怖で視界が揺れる。
それでもノエルは必死に立ち上がる。

森狼の群れがじりじりと間合いを詰めてくる。
ノエルは腕に走る痛みをこらえ、必死で短剣を握り直した。
呼吸が荒い。心臓の鼓動が耳に響く。

怖い。でも、ここで退いたら——誰も助からない。

一歩、踏み出す。
その瞬間、背後から唸り声が迫り、ノエルは地面に押し倒された。
顔のすぐ横を鋭い牙がかすめる。
必死に体をひねり、足で狼を蹴り飛ばした。

「ぐっ……!」

短剣を探して手を伸ばす。
だが、別の一匹が影のように迫ってくる。

その時——。

森に突風が吹き抜け、落ち葉が宙へ舞い上がった。
霧が裂け、月明かりが差し込む。

「下がって!」

声が響いた瞬間、風が唸りを上げ、狼の一匹が吹き飛んだ。
視界の先に、アリアが立っていた。

彼女はゆっくりと歩みを進めると、くるりと回転する。
その動きに呼応するように風が渦を巻き、舞い上がった葉がきらめきながら円を描いた。
草木がざわめき、狼たちが怯む。

アリアは一歩、二歩と舞うように踏み込み、袖を払う。
弧を描く風が草を裂き、狼の毛を切り裂く。
吹き抜ける風の音が鋭い弦楽器の音色のように響いた。

ノエルはその隙に短剣を拾い、最後の一匹へ飛び込んだ。
足元に残る落ち葉が舞い上がり、炎のように揺れる中で、刃が森狼の肩口を貫く。
群れは唸り声を上げ、森の奥へと散っていった。

やがて森は再び静寂を取り戻す。
商人は震えながら頭を下げた。
「た、助かった……本当にありがとう……!」

二人は無事だった商人から食料と地図を受け取り、焚き火を囲んだ。
炎に照らされるアリアの横顔は、村で見た巫女姿よりもずっと冒険者らしかった。

アリアは火を見つめたまま口を開いた。
「……村で舞った夜、風が私に囁いた気がしたの。
ここにとどまっているだけじゃ、だめだって。」

ノエルは黙って聞いていたが、やがて微笑んだ。
「僕も今日、怖かった。でも、あそこで逃げなくてよかった。
——俺、もっと強くなりたい。」

アリアはそっと微笑んだ。
「なら、一緒に行こう。風は、きっと道を示してくれる。」

夜風が二人の髪を撫で、火の粉が星のように舞い上がる。
それは、始まったばかりの旅の行方を祝福するかのようだった。
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