ノエル

ひなた

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砂漠の国

20話 砂漠の魔物

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翌朝。
僕たちは出発を急ぐ前に、少しだけ村の手伝いをした。

ガルドは大斧を脇に置き、折れた門柱を肩で支え直す。
「よし、もう少し持ち上げろ!」
数人の男たちと共に、崩れた門を修理していく姿は頼もしかった。

アリアは泉のそばで、子どもたちに水袋を配りながら微笑む。
「少しずつでも、落ち着きを取り戻していきましょうね。」
その穏やかな声に、張り詰めていた人々の表情が和らいだ。

僕は子どもたちと一緒に石を運び、焦げた壁の隙間を埋めた。
額から汗が落ちるたびに、不思議と胸の奥に温かさが広がる。
昨日まで怯えていた子どもたちが笑って手を貸してくれるのが嬉しかった。

「……助かりました。本当にありがとう。」
村長が深々と頭を下げる。
「おかげで、村はまた立ち直れます。」

ガルドが肩を竦めた。
「大したことじゃねぇさ。生きてりゃまた出直せる。」

アリアは軽く首を振り、僕の方を見やった。
「でも、この子が一番頑張ってたわ。」

「えっ……僕は、ただ……。」
慌てて言葉を詰まらせると、子どもたちが笑い声を上げた。
「また来てね、ノエルお兄ちゃん!」

胸の奥がくすぐったくなり、僕は思わず笑った。



昼頃、修復の手伝いを終え、村人たちに見送られて門を出る。
小さな声で「ありがとう」「気をつけて」と言葉が飛んできた。
僕たちは手を振り返しながら、砂漠の道へと足を踏み出した。

「……よし、カル=セラムへ向かおう。」
太陽の下、砂の地平線の彼方に、新しい冒険の舞台が待っていた。



太陽は容赦なく砂を照り返し、地平線は揺らめく蜃気楼に包まれていた。
足を踏み出すたび、靴の中に砂が入り込み、喉の奥が渇いていく。

「……本格的な砂漠ね。」
アリアが額の汗を拭い、視線を遠くに投げた。
「夜になれば今度は凍えるほど寒くなる。休める時に体を休めておかないと。」

「まったくだ……。」
ガルドが水袋を煽り、渋い顔をした。
「これで敵にでも襲われたら、たまったもんじゃねぇな。」

その瞬間だった。
——ズズ……ッ!

地面が揺れ、砂が盛り上がる。
次の瞬間、巨大な影が砂を割って飛び出した。

「なっ……!」
僕は思わず後ずさる。

現れたのは、全長三メートルはあろうかという巨大なサソリ。
甲殻は黒光りし、二本の爪がぎちぎちと鳴る。
背の長い尾が弧を描き、毒針が太陽の下で鈍く光った。

「デューンスコルピオだ!」
ガルドが叫び、斧を構える。
僕は剣を抜き、前に飛び出した。



剣を振り下ろす——しかし硬い甲殻に弾かれ、火花が散るだけだった。
「くっ……全然通らない!」

爪が振り下ろされ、地面が抉れる。
僕は転がってかわしたが、背筋を冷たい汗が伝った。
すぐ横でアリアが風を起こし、砂を巻き上げる。
「今よ、ノエル!」

視界を奪われたサソリの脚を狙って斬りつけるが、それでも浅い傷しか残せない。
毒針が振り下ろされ、僕の頭上に影が落ちた。

「しまっ——」

シュッ!

鋭い矢が飛び、毒針をかすめて逸らした。
次いで、力強い声が響く。

「おいおい、こんなところで死ぬ気かよ!」

砂丘の上から槍を担いで駆け下りてくる影。
その後ろでは、弓を構えた少女が次の矢を番えていた。

「ケイン……! リア……!」

懐かしい顔に一瞬息を呑んだ僕の前に、ケインが飛び込み、槍でサソリの爪を受け止める。
「久しぶりだな! だが再会を喜ぶのは後だ!」

リアの矢が続けざまに飛び、サソリの脚を正確に射抜く。
「話はあと! 今は倒すのよ!」

「アリア!」
僕が叫ぶと、アリアは頷き、両腕を広げて舞う。
風が渦を巻き、砂嵐がサソリの顔を覆い尽くした。
視界を奪われた巨体がのたうち、腹を晒す。

「ノエル! 今だ!」
リアの声に背中を押され、僕は駆けた。

胸の鼓動が耳を打つ。
仲間たちが作ってくれた一瞬の隙——絶対に逃さない。

「うおぉぉっ!」
全身の力を剣に込め、腹の柔らかな部分に突き立てる。
硬い抵抗を抜け、刃が深く沈んだ。

デューンスコルピオが耳をつんざく絶叫を上げ、砂を撒き散らしながら暴れる。
だがすぐに脚が痙攣し、巨体は砂の上に崩れ落ちた。


しばしの沈黙。
やがて誰かが大きく息を吐き、皆がその場にへたり込んだ。

「……ふぅ、相変わらず無茶する坊主だな。」
ケインが槍を肩に担ぎ、僕を見て笑った。

「いや、ノエルのおかげで決まったわよ。」
リアが弓を下ろし、僕に微笑みかける。
「あなたが突っ込む勇気がなかったら、今ごろ全員やられてたわ。」

僕は息を荒げながらも、仲間の顔を見渡した。
怖かった。でも、みんながいて、勝てた。
胸の奥で熱いものが広がり、自然と笑みがこぼれた。

「……ありがとう。やっぱり、こうしてまた会えて嬉しいよ。」

アリアも小さく頷き、風に舞う砂の中で口を開いた。
「再会を祝うなら、カル=セラムに着いてからね。——まだ道は続くんだから。」

夕日が砂漠を赤く染め、僕たちは再び歩き出した。
五人の影が、長く長く伸びていった。
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