騎士調教~淫獄に堕ちた無垢の成れ果て~

ビビアン

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7・過去は幸せ

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幸せな頃の夢を見ていた。

夢の中のリオはまだ幼くて、王宮の奥深くから出てくることを禁じられていた。けれど、それを不満に思ったことはなかった。王宮は広くて綺麗で、出される食事はいつも美味しくて、召使たちは従順だった。あそこには何でも揃っていた。
ただひとつ、母上さまだけを除いては。

リオの母上さまは、息子を産んですぐに死んでしまった。なのでリオは母親のぬくもりを知らないし、本来ならば全ての王子が持っているはずの『母方親戚による政治的後ろ盾』とやらも持っていない。

美しい城のなかでリオの立場はあまりにも危うげで、けれどリオ自身は幸せでいっぱいだった。

母上さまがいなくても、大勢の兄上さまたちが可愛がってくれたから。

例えば、ある日、リオは中庭へ出て遊んでいた。瑞々しく整えられた芝生に、咲き乱れる花々、芸術品のような噴水やベンチ。そんな場所にリオは飼い犬を何頭も放し、追いかけっこをして楽しんでいた。この飼い犬たちは、それぞれ別の異母兄から贈られたものだった。犬種は様々だったがどれも高価なもので、リオによく懐き、遊んでやると尻尾を振って喜ぶのが可愛かった。

そんなリオの様子を見守る人影がある。異母兄たちだ。リオは彼らの姿に気付くと、即座に犬たちとの遊びを中断し、そちらの方へ駆け寄った。

「兄上さまがた! 来てくださったんですね!」

リオの顔が上気しているのは、ずっと走り回っていたせいだけではない。大好きな大好きな兄たちが今日もリオのところに来てくれたのが嬉しくてたまらなかったのだ。

兄たちはリオとは違い、大貴族の後ろ盾をもった立派な王子である。リオよりもたくさんの教師をつけられて厳しく育てられ、成人前からある程度の権力を有し、父王を助けて国を治めている正真正銘の王子様たちだ。
基本的に全員違う妃から生まれているため顔立ちは似ていないが、高貴かつ威厳ある雰囲気を纏っているところは共通していた。
末弟であるリオを溺愛してくれているのも。

リオは王宮の奥深くに閉じ込められていても、外の世界で兄たちがどのように活躍しているのかという情報収集だけは欠かさなかった。

「クリストファー兄上さま! 兄上さまが指揮した魔女狩りで、たくさんの魔女や魔術師を検挙されたと聞きました。御立派です。リオも嬉しいです! ウィリアム兄上さまは、王都の徴税に関わる重要なお役目に就いたそうですね。どうかお疲れが出ませんよう! エドワード兄上さまは、ご成人おめでとうございます! これから寵姫選びが始まりますね。素敵な方と兄上さまが結ばれますように!」

リオは次々と兄の名を挙げ、彼らの喜ばしいところについて祝福した。
それこそ高価な飼い犬のように、尻尾を振らんばかりにはしゃいでいるリオを、兄たちは慈愛の眼差しで眺めたり、頭を撫でたりしてくれる。兄たちが従えている召使たちもまた、美しい兄弟愛を恭しく見守っていた。

しかし、そんな幸せいっぱいの空気の中、リオは唐突に肌がひりつくのを感じた。

(……視線?)

リオに注がれる柔らかな視線の中に、何か妙なものが混じっている。大輪の薔薇を愛でていたら、庭師が取り除き損ねた棘がひとつ隠れていて、それが指をひっかいた。そんな感じの、微小だが鋭いもの。

(なんだろう、誰だろう)

幼いリオは、不思議に思って周囲を見回す。
優しい兄上さまたち。
従順な召使たち。

その、召使たちの一番後ろから。

(――血の、色が)

『それ』を認識した途端、夢の世界が脆く崩れ去った。


******


「起きろ」

冷たくて静かな声をかけられて、リオは目を覚ました。

美しい王宮ではなく、窓一つない地下牢。夢の名残は一瞬で霧散し、リオは暗澹たる気持ちになった。

(そうだ……もう、あの暮しはなくなった)

自由も尊厳も奪われ、服を着ることも許されず、穢れた魔術師や彼が使役する気味の悪い生命体に身体を弄ばれる。これが今のリオだ。睡眠も食事も排泄も、生命活動の全て管理されている。
劣悪な環境の中、寝台だけが不自然に豪華なのはもはや嫌がらせの域だろう。幸せな過去夢ばかり見るのは絶対にこの寝台のせいだとリオは思っている。

「……何度言わせる気だ。起きろ。食事の時間だ」

再び冷たい声で言われ、リオはのろのろとベッドから這い出した。一晩中リオの肛門を拡張していた触手が、ぐぽ、と湿った音を立てながら抜けた。

地下牢の隅に粗末な机と椅子のセットが置かれ、その上に今日の食事が乗っていた。一方、アーネストはというと、机や椅子とは離れたところにある棚を開け、何やら道具を選んでいる。

(……今日は道具を多く使うのか)

リオはアーネストから目を背け、裸のまま食卓に着いた。
一日一回ないしは二回与えられる食事は、大抵は硬いパンと薄いスープだけで、ほんの時々干し肉の切れ端がついてくる。とても日々の調教に耐えられるようなメニューではないが、固形物の食事を貰えるだけマシだ。

調教が始まったばかりの頃、酷く反抗した罰として食事を取り上げられたことがある。どうしても何か食べたければ触手の粘液かアーネストの精液を飲めと言われ、飢えと尊厳の間で葛藤した末にアーネストの股間の前に跪いた。その際、アーネストが『せめてもの情け』と言って一時的に味覚が変わる魔術をリオにかけたので、苦くてまずくてたまらないはずの精液が極上の美味として舌の上でとろけた。
触手を使ったご奉仕練習で培った舌技を最大限駆使し、アーネストの精液を何度も絞っては喉を鳴らして飲み下し――飢えがおさまったころ、リオは惨めでたまらなくなった。

こうやって、リオの矜持はどんどん傷つけられ、後戻りできない領域を進んでいく。

(耐えなければ……兄上さまたちと再び会う日まで)

リオは硬いパンをちぎって食べ、スープを飲み干した。どちらも、ほんのわずかに奇妙な味が混ざっていた。おそらく毎回の食事には妙な薬が混ぜ込まれている。それも、医術師が調合するような真っ当な薬ではなく、魔女が大釜で煮るような邪な薬が。

(わたしの身体が、魔術に染まっていく……)

リオが食事を終えると、目の前にアーネストが立った。背の高い男の血色の双眸が、モノを見るような目つきでリオを見下ろしている。

「立て。検分の時間だ」

リオはおとなしく立ち上がり、両手を頭の後ろで組み、両足を肩幅程度に開いた。この、裸体を一切隠すことができない姿勢も、アーネストの指示である。リオには自分の身体を自分の意思で隠す権利がない。
アーネストの乾いた両手が、リオの肌の上を滑った。調教中になされるような底意地の悪い愛撫ではなく、純粋にリオの身体の状態を確かめているのだ。
首元から始まり、胸、腹、腰と、肉付きや鞭の跡などを丁寧に確認していく。

「……痩せたな」

ぼそりと言われ、リオは思わず自嘲気味に笑った。

「当たり前だろう。こんな生活を長く続けて、太るわけがない」

「不必要な筋力が落ちるのは喜ばしいが、骨と皮ばかりになっては母胎として機能しなくなる可能性がある。――こちらは」

アーネストの指がリオの後孔に潜り込んだ。孔は容易に綻び、アーネストの指をやわらかく迎え入れる。指を三本に増やされても抵抗なく受け入れ、拡げればそのまま素直に広がった。

「申し分ない。よく拡張に耐えたな、リオ」

その言い方に、リオは少なからず驚いてアーネストの顔を見た。アーネストは無表情でリオの下半身の検分を続けており、それ以上何か言及する様子はない。

(褒められた……のか?)

記憶する限り、アーネストはリオを罵ることはあっても、褒めたことはなかった。無茶苦茶な命令をなんとかこなしても「ようやく出来たか」といった態度をとられるばかりで。

凌辱され続ける生活の中でこれ以上ないほど張りつめていた心が、ほんの一瞬だけ、緩んだ。

(……いや、しっかりしろリオ! 気をしっかり保て!)

「――さて。今日からは新しいことをやる。こっちに来い、リオ」

アーネストの声は相変わらず冷たく、何の感情もうかがい知れない。
彼はいつもこうだ。調教初日、リオが騎士としての矜持を見せた瞬間に彼が高笑いしたのは、今思えばとても珍しい出来事だった。リオが屈辱とそれに伴う激情に耐えている傍ら、アーネストは冷淡に、事務的に、おぞましい加虐をなしとげていくのだ。

そんなアーネストの後について、地下牢の反対側まで移動する。今日は寝台ではなく床で調教を行うらしい。
壁際に設置されているものを見て、リオはぎょっとした。

「……なんだ、この鞍は!」

乗馬練習用の鞍だ。馬の背を模した台に騎座とあぶみが取り付けられ、乗馬中の腰の張り方や体重移動などを訓練できるようになっている。王侯貴族の子弟は全員これを使ったことがあるはずだ。リオだって、本物の馬に乗れるようになるまではこのような道具で練習を重ねていた。

だが、この鞍には、騎座の中央から奇妙な性具が生やされていた。亀頭ばかりを連ねたような歪な張型だ。
リオは、一目見ただけで、この鞍の用途を察した。

「お前用に誂えた……と言いたいところだが、初めからこの部屋にあったものだ。軽く埃は拭ってやったが、まだ潤滑油はかけていない」

アーネストはそう言いながら、リオに一本のガラス瓶を渡してきた。この中には触手の粘液が貯められている。

「命令だ、リオ。これを『ご主人様』のモノだと思って、丁寧にご挨拶した上で前準備して差し上げろ。手を抜くなよ。粗末に扱ったら、後で辛いのはお前自身だ」

リオは口元まででかかった言葉を飲み込み、覚悟を決めて鞍の前に膝をつき、禍々しい性具へ唇を寄せた。

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