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22・エピローグ
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それから、数か月。
リオの新しい部屋にはひっきりなしに男たちが訪れていた。
「あっ、あぁんっ……『ご主人様』、気持ちいいです……あっ、あっ、もっと子種を、リオに子種を注いでください……!」
クッションだらけの大きな寝台の中、正気を失った美しい性奴隷が無我夢中で腰を振っている。両手両足には脱走防止の鉄輪が嵌められているのだが、彼が逃げ出す様子はなさそうだ。
シーツの上には淫具が散らばり、日夜繰り返される情交の痕跡が生々しく残されているが、不思議なことに精液だけは零れていない。
全て、あの優秀な青年が胎のうちに収めているからだ。
蜂蜜色の髪を振り乱し、空色の瞳に淫靡な媚びを浮かべ、しなやかな身体をくねらせる青年。その下腹部に刻まれた淫紋が妖しく輝き、延々と発情を促している。
「あかちゃんほしい、早くつぎのあかちゃんほしいぃ……!」
あられもない嬌声が、部屋の外まで響いてくる。
リオが客を取っている間、アーネストは廊下の壁に寄り掛かって中の痴態をじっと聞いていることが多かった。
いつもは一人で待機しているのだが、今日はたまたまハシムがそこにいた。別件でこの建物を訪れていたのだ。
「……やべぇな」
それが、流浪の武人の正直な感想だった。
アーネストは飄然と肩を竦めた。
「うちのはコレでもまともな方だぞ。他の孕み袋は犯されても反応すら返さないことが多い」
「やれやれ……手間暇かけて調教して、性奴隷としての下地を作った甲斐があったってわけか」
「ああ。まあ、それはそれで問題なんだがな。子作り目的ではなく種付け自体を楽しみたい層がリオに群がっていて、一回ごとの行為が妙に長引く傾向にあるから回転率が悪く、出産実績が芳しくない」
「それでも何人か産んだんだろ? ……たった、数か月で」
アーネストは無言で頷く。ハシムはぞっとしたように、嬌声が漏れ聞こえる扉を見遣った。
「信じられねぇな……。普通、赤ん坊ってのは、十月十日、おっかさんの腹のなかで育つわけだろ?」
「リオたちはだいたい十日で産み落とす。そしてまた十日ほど休めば、また孕みたがって子種を求めはじめる」
「うへぇ。それ、ちゃんとした赤ん坊が生まれてんの? 生まれて来ているの、本当に人間?」
「産み落とされた子たちをまとめて養育している機関からの報告によれば、普通の女の腹から生まれた普通の赤ん坊と何ら変わりがないそうだ。……俺としては、なんか面白い英雄でも生まれてこないかと期待していたんだがな。生まれてすぐ立って喋る、といったような」
「んな、神話じゃあるまいし。まぁ、たった十日で生まれてくるってのも、だいぶ御伽噺じみてるけどな。ウチの一族が歌い伝えている異国の伝承でそういうのあった気がするわ。詳しい内容は忘れたけども」
「神話や伝承の時代にあったことが、この時代にあってはならないという道理はあるまい」
「……俺、魔術師に対する偏見はこれっぽっちもなかったけど、いまちょっと偏見もったわ。考え方ぶっとびすぎてねぇ?」
「失敬な。俺個人の性質だ」
「失敬ついでに突っ込んだ話するけど、今この中でアンアン言ってる元王子が一番最初に産んだ子、首も座らないうちからすげぇ魔力反応示しているんだってな。養育機関の見解は、父親がかなりの魔力持ちだったんだろうって話だが……なぁ、アーネスト。つまりお前、そういうことだな?」
これにはアーネストは答えなかった。一切合切聞こえなかったふりをした。
そうこうしているうちに、客が性行為を終わらせたようだ。満足げに、服を着こみながら帰宅していく。
入れ替わりにアーネストがリオの部屋に入った。ハシムは部屋には入らず、出入口のあたりからじっと様子を見守っていた。
寝台の中で痙攣しているリオの身体を、アーネストは手慣れた仕草で点検していく。まず出された子種が零れないよう尻の穴に栓をして、次に腹の淫紋を確認する。
子宮を模した紋様の中に、命が宿ったことを示す印が新しく浮かび上がっていた。
アーネストは小さく頷き、リオの頭を撫でた。
「――うまく孕んだな。今日は店仕舞いだ。地下に行くぞ」
孕んでいる間は地下に籠り、魔術による栄養供給を受けながら十日後に訪れる出産の日に備えることになっている。
アーネストはリオを軽々と抱き上げた。すると、絶頂の余韻から回復したリオが、とろっと笑いかけて首の後ろに腕を回してきた。
「……ごしゅじん、さま」
客に向ける媚びとはまた違う響きの甘い声で、リオは言う。
「ほめてください、ご主人様……」
「……あぁ、良い子だ」
リオは実に幸せそうに、くすぐったそうに笑う。これなら、次の出産にも喜んで耐えてくれそうだ。
アーネストはぽんぽんとリオの背中を叩き――誰にも見えないように、暗く微笑した。
やっとここまで堕ちてくれた、と。
誰が何といおうと、リオは幸せだった。
勿論、アーネストも。
END
リオの新しい部屋にはひっきりなしに男たちが訪れていた。
「あっ、あぁんっ……『ご主人様』、気持ちいいです……あっ、あっ、もっと子種を、リオに子種を注いでください……!」
クッションだらけの大きな寝台の中、正気を失った美しい性奴隷が無我夢中で腰を振っている。両手両足には脱走防止の鉄輪が嵌められているのだが、彼が逃げ出す様子はなさそうだ。
シーツの上には淫具が散らばり、日夜繰り返される情交の痕跡が生々しく残されているが、不思議なことに精液だけは零れていない。
全て、あの優秀な青年が胎のうちに収めているからだ。
蜂蜜色の髪を振り乱し、空色の瞳に淫靡な媚びを浮かべ、しなやかな身体をくねらせる青年。その下腹部に刻まれた淫紋が妖しく輝き、延々と発情を促している。
「あかちゃんほしい、早くつぎのあかちゃんほしいぃ……!」
あられもない嬌声が、部屋の外まで響いてくる。
リオが客を取っている間、アーネストは廊下の壁に寄り掛かって中の痴態をじっと聞いていることが多かった。
いつもは一人で待機しているのだが、今日はたまたまハシムがそこにいた。別件でこの建物を訪れていたのだ。
「……やべぇな」
それが、流浪の武人の正直な感想だった。
アーネストは飄然と肩を竦めた。
「うちのはコレでもまともな方だぞ。他の孕み袋は犯されても反応すら返さないことが多い」
「やれやれ……手間暇かけて調教して、性奴隷としての下地を作った甲斐があったってわけか」
「ああ。まあ、それはそれで問題なんだがな。子作り目的ではなく種付け自体を楽しみたい層がリオに群がっていて、一回ごとの行為が妙に長引く傾向にあるから回転率が悪く、出産実績が芳しくない」
「それでも何人か産んだんだろ? ……たった、数か月で」
アーネストは無言で頷く。ハシムはぞっとしたように、嬌声が漏れ聞こえる扉を見遣った。
「信じられねぇな……。普通、赤ん坊ってのは、十月十日、おっかさんの腹のなかで育つわけだろ?」
「リオたちはだいたい十日で産み落とす。そしてまた十日ほど休めば、また孕みたがって子種を求めはじめる」
「うへぇ。それ、ちゃんとした赤ん坊が生まれてんの? 生まれて来ているの、本当に人間?」
「産み落とされた子たちをまとめて養育している機関からの報告によれば、普通の女の腹から生まれた普通の赤ん坊と何ら変わりがないそうだ。……俺としては、なんか面白い英雄でも生まれてこないかと期待していたんだがな。生まれてすぐ立って喋る、といったような」
「んな、神話じゃあるまいし。まぁ、たった十日で生まれてくるってのも、だいぶ御伽噺じみてるけどな。ウチの一族が歌い伝えている異国の伝承でそういうのあった気がするわ。詳しい内容は忘れたけども」
「神話や伝承の時代にあったことが、この時代にあってはならないという道理はあるまい」
「……俺、魔術師に対する偏見はこれっぽっちもなかったけど、いまちょっと偏見もったわ。考え方ぶっとびすぎてねぇ?」
「失敬な。俺個人の性質だ」
「失敬ついでに突っ込んだ話するけど、今この中でアンアン言ってる元王子が一番最初に産んだ子、首も座らないうちからすげぇ魔力反応示しているんだってな。養育機関の見解は、父親がかなりの魔力持ちだったんだろうって話だが……なぁ、アーネスト。つまりお前、そういうことだな?」
これにはアーネストは答えなかった。一切合切聞こえなかったふりをした。
そうこうしているうちに、客が性行為を終わらせたようだ。満足げに、服を着こみながら帰宅していく。
入れ替わりにアーネストがリオの部屋に入った。ハシムは部屋には入らず、出入口のあたりからじっと様子を見守っていた。
寝台の中で痙攣しているリオの身体を、アーネストは手慣れた仕草で点検していく。まず出された子種が零れないよう尻の穴に栓をして、次に腹の淫紋を確認する。
子宮を模した紋様の中に、命が宿ったことを示す印が新しく浮かび上がっていた。
アーネストは小さく頷き、リオの頭を撫でた。
「――うまく孕んだな。今日は店仕舞いだ。地下に行くぞ」
孕んでいる間は地下に籠り、魔術による栄養供給を受けながら十日後に訪れる出産の日に備えることになっている。
アーネストはリオを軽々と抱き上げた。すると、絶頂の余韻から回復したリオが、とろっと笑いかけて首の後ろに腕を回してきた。
「……ごしゅじん、さま」
客に向ける媚びとはまた違う響きの甘い声で、リオは言う。
「ほめてください、ご主人様……」
「……あぁ、良い子だ」
リオは実に幸せそうに、くすぐったそうに笑う。これなら、次の出産にも喜んで耐えてくれそうだ。
アーネストはぽんぽんとリオの背中を叩き――誰にも見えないように、暗く微笑した。
やっとここまで堕ちてくれた、と。
誰が何といおうと、リオは幸せだった。
勿論、アーネストも。
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