♯00【神楽坂ゴシック・フォックス探偵事務所のB級的調査譚】重慶の幽鬼

る・美祢八

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第二章 重慶からの依頼

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「ハッ――!? ちょ、なっ、な……! 何が、パンティすか!? ダラっすか!?」

 上市は声の主に赤面して怒鳴った。

 その先にいたのは、副所長の肩書でありながらにして実質のボス――長く麗しい黒髪に狐耳、着物姿の妖狐・神楽坂文の姿であり、人間離れしているからだろうか、天井に足をつけ、重力を無視して逆さに立っていた。

 なお、この妖狐の顔は超絶美人顔であるのだが、この顔が、『パンティ』などとのパワーワードを宣ったのであるが……

 シュタッ――! と、妖狐は降りてきて地に足をつけた。

「……さて、いつまでダラダラと涼んでおるのだ? さっさと働かぬか、このトリプルTの低級動物ども」

「「誰が低級動物だよ……? ――てか、何だよ? トリプルTって?」」

 定祐、上市はそろってイラつく。

「ふむ、答えてやろう。すなわち、『底辺! 低能! 低沸点!』の略だ! 貴様たちダメ人間のウンコども表わすのに、ちょうどよいだろう」

「「むっかつくな……。ほんと、バカにしてんのかよ、お前?」」  
 ブン殴ってやろうか、この狐は? と、二人は拳を震わせて再び苛立った。



 ただ、確かに仕事をしていなかったのは事実であるので、

「――まあ、ダルいけど依頼をチェックするかのう」

 と、定祐はやわやわと、仕方なく仕事に取りかかる。

 まずは、異世界翻訳アプリを用い、エクスカリバー風のワケの分からない剣と巻物に書かれている内容を読み取ってみる。

 すると、どうやらこの剣は、『軽井沢の〇〇の泉に刺す――』といった儀式が暗号になっており、そこから依頼の詳細が再生されるということであった。

「はいぃ? 何で、こんな面倒な形の依頼なんですかね? 依頼する気、あるんすかね? てか、何で軽井沢の……」

「私も知らんっちゃよ。まったく……」

 定祐と上市は、ふたりそろって胡散くさそう顔をしかめる。

 その横で、妖狐が剣を手に取ってみた。

「……」

 妖狐はジッ……と、剣を観察しているようだった。

 なお、ちゃっかりと青白いオーラを手にまとっているのだが……

 そして、妖狐は言った。

「ふむ……。この依頼は、受けない方がよい。……というか、そもそもが手の込んだイタズラだ。“こいつ”を再生するとな、事務所の、この畳二枚ほどの一角が、魔界の腐海と化してしまうのだ。すなわち、この暖炉が使えなくなってしまうわけだ……」

「「何だよ、その微妙な嫌がらせ。――てか、いま夏だから、やるなら時期が違くないかい?」」

 暖炉を指す妖狐に、定祐、上市は声を合わせてつっこんだ。



「はぁ……。まったく……」

 定祐は溜め息をした。

 また、気を取り直して、今度は電子媒体の依頼のほうを確認してみる。

 すると、

「むむむ? 何だこりゃ?」 

 と、定祐はさっそく“あるもの”に気がついた。

 そこには――いつの間にできたのか、当事務所の怪しいホームページがあった。

 それも、『神楽坂怪奇探偵コンサルタント事務所』の表記とともに、どこか20年以上前のインターネットの黎明期ような、レイアウトや配色も古くさい仕様の、年代もののホームページであったのだが……

「ちょ? 何ですか? この、化石みたいなホームページ?」

「ほう。化石とはよく言ったな、小娘よ。あっ――、そうだ! よければ、貴様のエッチな写真でも載っけてやろうか? 風俗のパネ写のようにしてな」

「何が、あっ――だよ? もう氏ねよ、お前」

 セクハラ交じりにおちょくってくる妖狐に、上市は露骨に「氏ね」と言い放ってつっこんだ。

 それはさておいて、肝心の本題に戻る。

 このレトロなホームページであるが、ここに、中国語で、恐らくは中国のSNSから、依頼と思しきメールが届いていた。

「なぜに中国からだ? ……てか、化け物よ、何だね? このホームページは?」

 定祐が、苦虫を嚙み潰したような顔で聞いた。

「ふむ。“そいつ”はな……、ちゃっかり私が作ったものだ。依頼を必要とする者に、自動的につながる特殊なページといったところか? まあ、言って見れば、某『地獄〇女』方式か、あるいは某ジャンプの『シティーハ〇ター』の、XYZとか書く掲示板をパク――いや、参考にさせてもらったものだ」  

「「いま、パクリって言おうとしただろ、お前? ――てか、何が某ジャンプだよ? 全然隠せてなくないか?」」

 定祐、上市は再びつっこんだ。

 つっこみつつも、

「――やれやれ。まったく、ワケの分からんことをするヤツめ……」

「まあ、とりあえず依頼を読んでみましょうよ、先生」

 定祐と上市は呆れつつ、メールの内容を読もうとした。

 そのとき、


「……ふむ。“俺たちは幽鬼に狙われている。助けてくれ”――だと……。そう、書いてある……」


 と、先に妖狐が読み上げた。

「「ゆ、幽鬼だって……?」」

 定祐、上市は声をそろえてポカンとした。



――続く
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