6 / 6
第二章 重慶からの依頼
1─3
しおりを挟む「ハッ――!? ちょ、なっ、な……! 何が、パンティすか!? ダラっすか!?」
上市は声の主に赤面して怒鳴った。
その先にいたのは、副所長の肩書でありながらにして実質のボス――長く麗しい黒髪に狐耳、着物姿の妖狐・神楽坂文の姿であり、人間離れしているからだろうか、天井に足をつけ、重力を無視して逆さに立っていた。
なお、この妖狐の顔は超絶美人顔であるのだが、この顔が、『パンティ』などとのパワーワードを宣ったのであるが……
シュタッ――! と、妖狐は降りてきて地に足をつけた。
「……さて、いつまでダラダラと涼んでおるのだ? さっさと働かぬか、このトリプルTの低級動物ども」
「「誰が低級動物だよ……? ――てか、何だよ? トリプルTって?」」
定祐、上市はそろってイラつく。
「ふむ、答えてやろう。すなわち、『底辺! 低能! 低沸点!』の略だ! 貴様たちダメ人間のウンコども表わすのに、ちょうどよいだろう」
「「むっかつくな……。ほんと、バカにしてんのかよ、お前?」」
ブン殴ってやろうか、この狐は? と、二人は拳を震わせて再び苛立った。
ただ、確かに仕事をしていなかったのは事実であるので、
「――まあ、ダルいけど依頼をチェックするかのう」
と、定祐はやわやわと、仕方なく仕事に取りかかる。
まずは、異世界翻訳アプリを用い、エクスカリバー風のワケの分からない剣と巻物に書かれている内容を読み取ってみる。
すると、どうやらこの剣は、『軽井沢の〇〇の泉に刺す――』といった儀式が暗号になっており、そこから依頼の詳細が再生されるということであった。
「はいぃ? 何で、こんな面倒な形の依頼なんですかね? 依頼する気、あるんすかね? てか、何で軽井沢の……」
「私も知らんっちゃよ。まったく……」
定祐と上市は、ふたりそろって胡散くさそう顔をしかめる。
その横で、妖狐が剣を手に取ってみた。
「……」
妖狐はジッ……と、剣を観察しているようだった。
なお、ちゃっかりと青白いオーラを手にまとっているのだが……
そして、妖狐は言った。
「ふむ……。この依頼は、受けない方がよい。……というか、そもそもが手の込んだイタズラだ。“こいつ”を再生するとな、事務所の、この畳二枚ほどの一角が、魔界の腐海と化してしまうのだ。すなわち、この暖炉が使えなくなってしまうわけだ……」
「「何だよ、その微妙な嫌がらせ。――てか、いま夏だから、やるなら時期が違くないかい?」」
暖炉を指す妖狐に、定祐、上市は声を合わせてつっこんだ。
「はぁ……。まったく……」
定祐は溜め息をした。
また、気を取り直して、今度は電子媒体の依頼のほうを確認してみる。
すると、
「むむむ? 何だこりゃ?」
と、定祐はさっそく“あるもの”に気がついた。
そこには――いつの間にできたのか、当事務所の怪しいホームページがあった。
それも、『神楽坂怪奇探偵コンサルタント事務所』の表記とともに、どこか20年以上前のインターネットの黎明期ような、レイアウトや配色も古くさい仕様の、年代もののホームページであったのだが……
「ちょ? 何ですか? この、化石みたいなホームページ?」
「ほう。化石とはよく言ったな、小娘よ。あっ――、そうだ! よければ、貴様のエッチな写真でも載っけてやろうか? 風俗のパネ写のようにしてな」
「何が、あっ――だよ? もう氏ねよ、お前」
セクハラ交じりにおちょくってくる妖狐に、上市は露骨に「氏ね」と言い放ってつっこんだ。
それはさておいて、肝心の本題に戻る。
このレトロなホームページであるが、ここに、中国語で、恐らくは中国のSNSから、依頼と思しきメールが届いていた。
「なぜに中国からだ? ……てか、化け物よ、何だね? このホームページは?」
定祐が、苦虫を嚙み潰したような顔で聞いた。
「ふむ。“そいつ”はな……、ちゃっかり私が作ったものだ。依頼を必要とする者に、自動的につながる特殊なページといったところか? まあ、言って見れば、某『地獄〇女』方式か、あるいは某ジャンプの『シティーハ〇ター』の、XYZとか書く掲示板をパク――いや、参考にさせてもらったものだ」
「「いま、パクリって言おうとしただろ、お前? ――てか、何が某ジャンプだよ? 全然隠せてなくないか?」」
定祐、上市は再びつっこんだ。
つっこみつつも、
「――やれやれ。まったく、ワケの分からんことをするヤツめ……」
「まあ、とりあえず依頼を読んでみましょうよ、先生」
定祐と上市は呆れつつ、メールの内容を読もうとした。
そのとき、
「……ふむ。“俺たちは幽鬼に狙われている。助けてくれ”――だと……。そう、書いてある……」
と、先に妖狐が読み上げた。
「「ゆ、幽鬼だって……?」」
定祐、上市は声をそろえてポカンとした。
――続く
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる