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しおりを挟む「いっつも彼女いる奴は、知らねぇよな~」
にやにやした森田の肩を軽く叩き、「教えろよ」と話を促す。
「とりあえず聞いてみろって」
森田がスマホを操作すると、テーブルの上に置いていた俺のスマホが小さく震えた。俺はメッセージで送られてきたURLをクリックする。Webページに画面が切り替わり、動画の画面が表示された。
「それは女性向けなんだけど、リラックス効果とかあってさ」
森田の説明を聞きながら、俺は動画を再生する。画面は暗いままで、周囲が騒がしいせいで音が聞こえない。俺はボリュームを上げて、スマホを耳元に移動させた。かろうじて男性の声が聞こえたが、ぼそぼそと低音が聞こえるだけで、はっきり言葉までは聞こえない。それよりも耳元で囁かれるような感覚に、背筋がぞわりとして、すぐに耳からスマホを離した。
「催眠術的な、聞いてるうちにえっろい気分になれるらしいぜ」
「何だよ、それ」
「マジマジ、ハマったら動画の声聞くだけで、イケるようになるんだって」
「無理だろ」
「友達の彼女が言ってた」
俺は動画を止め、スクロールしてコメント欄を表示させる。「最高に気持ちよくなれました」「犬飼さんの声聞くと濡れる」「エロい気分になれるからオススメ♡」など様々なコメントが書きこまれていた。どうやら声の主は犬飼という名前らしい。まだまだ知らない世界があるものだと感心した。
「千寿、興味なさそうでウケる」
「俺、囁かれるの苦手だから、こういうの無理かも。ASMRも苦手だし」
ASMRを一度聞いてみたが、同じように背筋がぞわりとして、すぐに聞くのを辞めた。元々耳が弱いせいもある。俺には良さがわからなかった。
ちょうど店員が俺の注文したハイボールと、誰かの注文した唐揚げを持ってきたことで、催眠音声の話題は終わった。次の話題は最近テレビに出演しているグラビアアイドルの話になる。ぎゃあぎゃあと騒ぐ森田たちを横目に、俺はハイボールを飲みながら、残った料理をつまむ。せっかくの料理が勿体ない。
ふと、視線を感じて、俺は手を止める。視線はテーブルの端に座っている地味な人物からのもので、そいつはすぐに俺から視線をそらした。見慣れない人が参加していることはよくあるので気にするほどではなかったが、視線の強さが気になった。
「な、森田。あいつ誰?」
会話が途切れたタイミングで、俺は森田に尋ねる。
「峰谷(みねや)だよ、え、知らない?」
さも当たり前のように名前を言われたが、俺には心当たりがなかった。俺が首を横に振ると、森田は驚いた表情になる。「下の名前、忘れたけど」と森田は付け加え、さらに続けた。
「あいつ、一年からサークル入ってるし、飲み会にはだいたい来てるよ」
「全然知らなかった」
「今初めて気づくとか、千寿ひでぇな。峰谷が可哀そう」
言葉とは裏腹に、森田は楽しそうにけらけらと笑っていた。俺は自分の記憶をたどり、峰谷の存在を思い出そうとするが、記憶の検索結果はノーヒットだった。
「まぁ、ほとんど喋らないし、いつも端っこ座ってるから、気づかなくても仕方ないよな」
「森田は何で知ってんの?」
「え?俺?俺は合コンの人数合わせの時に、峰谷呼んでるから。あいつが一緒に座ってると、競争率下がるだろ」
「お前の方こそひどいだろ」
森田の発言にげんなりとしながら、俺は横目で峰谷を見た。染めたことのなさそうな黒髪、長めの前髪で顔は良く見えない。服はシンプルでかろうじて清潔感はあるが、雰囲気が暗くて、女子受けはしなさそうだ。童貞で、むっつりっぽい。俺は峰谷をそう分析したが、童貞でむっつりなのは、俺も一緒だと自嘲した。
陽キャの集まりのような飲み会サークルに、峰谷はなんで入部してるんだろう。俺は不思議に思いながら、ハイボールを飲み干した。
「千寿、次は何飲む?」
「梅酒ロック」
「おっけー」
森田がタッチパネルを操作する。飲み放題のため、気兼ねなく飲むことができ、酒好きの俺には最高の時間だ。
今の生活に不満はない。そこそこの大学に通い、友達が多く、交友関係は良好で、バイトで小遣い稼ぎをして、飲んで遊んでという日々。これで彼女がいればもっと最高なのに、と思わずため息がでる。森田ですら彼女がいて、セックスをしているというのに、なぜ俺には彼女がおらず童貞なのだろう。自慰で性欲を発散するには限度がある。AVに夢見るわけではないが、セックスはしたい。
「森田、今度合コン絶対呼んで」
酔っぱらった意識で、森田に念押しした俺は、その後浴びるように酒を飲んだ。
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