耳から溶かして、声で愛して

えつこ

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1話

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 居酒屋からなんとかマンションに帰った俺は、部屋の電気もつけずにベッドに倒れこんだ。明日は日曜だが、昼からバイトがある。しかし朝はゆっくり眠れるから、このまま寝ても大丈夫だ。風呂は起きてからにすればいい。
 薄れる意識のなか、スマホを取り出し、念のためアラームをセットする。そのタイミングで森田からメッセージが届いたため、寝ぼけながら内容を確認する。
『○○女子大との合コン決まったぞ』
 セッティングの早さに驚きつつも、森田の人脈ならと納得してしまう。それに合コンに呼ばれるのは喜ばしいことだ。『ありがとう』とメッセージを送った後、ふと先ほどのURLが目に入った。
 ほんの少しの興味だった。URLをクリックして、動画を開く。タイトルの『イヤホン推奨』という字の羅列に、俺は起き上がり、ベッド脇に置いたカバンに手をつっこんだ。
「酔っぱらってんな」
 俺は一人で笑いながら、ワイヤレスイヤホンを取り出し、両耳につける。スマホと接続できたという軽い電子音を聞いた後、動画を再生した。少しの沈黙の後、男性の低い声と吐息が耳に届く。
『まずは、目を瞑って、身体の力を抜いて』
 イヤホンのせいで、直接鼓膜に声が響き、背筋がぞくぞくする。俺は身じろいだが、そのまま音声を聞き続けることにした。ここまできたら、全部聞いてやるという負けん気が顔を覗かせる。目を瞑って、ベッドへと身体を沈ませる。
『だめ、肩に力が入ってるよ。リラックスして』
 ふふっと笑い混じりに言われ、俺はぎくりとした。確かに身体が強張っている自覚があった。大勢に公開された動画で、俺一人に向けられた言葉ではないのに、見透かされている気がする。俺はふーっと大きく息を吐いて、身体の力を抜いた。
『うん、その調子。リラックス……、身体の力を抜いて、全部僕に委ねて……』
 俺は握っていた手を緩めた。体重は重くなるはずがないのに、なぜか身体がベッドにぐぐっと沈む感覚になる。
『次はゆっくり、大きく、深呼吸して』
 俺は指示に従って、深呼吸を繰り返す。普段呼吸を意識することはないし、深呼吸なんて最近した覚えがない。身体中に酸素が巡る感覚が心地よいほどだ。
『そう、吸って……、吐いて……、ゆっくり、呼吸して……』
 ただただ言われた通り呼吸を繰り返す。吸って、吐いて、肺や頭、全身に酸素が行き渡る。それだけで満たされていく。
『いい子だ』
 甘い声と同時に、彼の吐息が右耳に吹きかけられる。俺は逃げるように首を動かした。
『呼吸を続けて、そう、ゆっくり……』
 次の瞬間には左から囁かれる。左右で聞こえる音が異なり、臨場感に包まれる。まるで彼が本当に俺の部屋にいて、近くで囁かれているような感覚になった。
『身体、温かくなってきた?』
 そう言われると、指先や足先が温かい気がする。そもそも今は六月で別に寒くはないので、むしろ体感的には熱いくらいだ。
『熱いくらいだろ?』
 また、だ。相手に全て掌握されている気がして、怖くなる。イヤホンを外せば終わるのに、俺はそれが出来なかった。
『服、脱いじゃおうか』
 どこか楽しそうな声色に、俺は悔しいと思いながら、上半身を起こした。飲み会の匂いが残るTシャツを脱ぐと、空気が肌に触れ、体感気温が下がる。ジーンズや下着はどうするべきかと悩んでいると、声が続く。
『下着も、全部、脱いで』
 見透かされるように言葉は続いた。俺はジーンズのボタンに手をかけるが、一瞬戸惑った。ベッドで一人全裸になるのは、あまりにも惨めだ。オナニーするときですら、下半身を曝け出すだけ。風呂以外で全裸になる機会はない。
『大丈夫。ここには、僕と君しかいない。誰も見てない』
 優しく囁かれ、ふるりと身体が震えた。
『全部、見せて。隠さないで。気持ちよくなれるよ』
 俺は羞恥心を捨て、抵抗するのを諦めた。ジーンズを脱ぎ、下着も脱ぎ去る。俺自身は期待が相まって、軽く首をもたげていた。最近オナニーをしてないとは言え、単純すぎる身体に、思わず苦笑いが溢れた。
『うん、よくできたね』
 吐息混じりで囁かれ、首筋の皮膚がちりりと焼け付くように熱くなる。俺は全裸でベットに寝転がった。シーツが直接肌に触れ、こそばゆい。
『吸って、吐いて……。深呼吸は忘れないで……』
 俺は忘れていた深呼吸を再開する。俺の呼吸と彼の呼吸が重なる。
『どこから触ってほしい?ピンって立ってる乳首?それとも…… 』
 声の気配が移動する。焦らすように間を開けられ、俺は唾を飲みこみ、続くであろう言葉を待つ。
『期待で濡れてる、ここ、か……』
 低く、やらしい声が耳に吹きこまれ、俺は腰が揺れた。自身に熱が集まるのを感じる。今すぐ扱きたい。俺の手は自然と性器に伸びる。
『だーめ、まだ触らないで』
「なん、でっ……」
 制止の声に、俺は思わず声を上げた。自身に触れる直前だった手は、空を掴む。無視して扱けばいいのに、身体が声に従ってしまう。
『触りたい?』
俺は頷く。性器は期待して、じわじわと硬度を増す。身体の中でぐるぐると熱が溜まっていく感覚に、俺の呼吸は速くなる。


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