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古傷が痛い
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ヤバイ、生きた心地がしない。
叶多の案で新しい付き人のフリをしてオレは撮影スタジオに入り込んだ。
もし叶多の事務所の人間に遭遇して、叶多を写真で脅してることがバレたら、オレは一体どうなっちゃうんだろう…。
「おはよう叶多くん。
あれ、その子誰?」
スタッフらしき人が声を掛けてきた。
早速ヤバイぞ!!
青ざめてパクパクしているオレを見て、叶多はふっと笑った。
「大丈夫だって。
よしよし」
叶多はぐいっとオレを抱き寄せると、オレのおでこに頬擦りした。
そして、口元に人差し指を立てて、スタッフにウインクをした。
「しー♪」
叶多に見事打ち抜かれたスタッフはそそくさと姿を消していった。
「~~~おい」
「赤面しすぎ。
これが一番手っ取り早いんだよ」
叶多はしれっとオレから離れていつもの無愛想な口調に戻った。
くそう、いつもオレって振り回されっぱなしだ。
「南 叶多様」と書かれたプレートのかかってある控え室がある。
叶多が中に誰もいないことを確認してから控え室に入った。
オレは応接セットのようないすにどさっとなだれ込んだ。
つ、疲れた。
目の前のテーブルには雑誌が何冊か置かれている。
そのうちの表紙のほとんどが叶多だった。
「あ」
叶多の写真の角に印字された「T・TAKI」の文字が目に飛び込んできた。
「滝…」
「今日のカメラマンもそいつだよ。学生時代に賞とってプロデビューしたのを鼻にかけたイケスカねえやつ」
「………知ってるよ」
「やっぱ有名なんだな。
在学中に大賞受賞だもんな」
「ていうか、同級生」
「マジで。
「・・・・・・・・」
「空?」
オレは突然立ち上がり、メイク台の上に片足を乗せてガッツポーズをした。
「オレは!
絶対に滝より有名になってやる!」
「何だよ、急に」
いつになく叶多が動揺していた。
「悪い悪い。
叶多は夢が叶ったんだろ?
オレも早くそこにたどり着きたくってさ」
オレが笑って言うと、叶多はふっと下を向いてつぶやいた。
「夢が叶うっていうのは、現実を見るってことだ。
夢が叶って終わりじゃない。
その後に待ってる胸くそ悪い現実に押しつぶされそうになる」
それはオレに向かって放たれた言葉じゃなかった。
多分、叶多は自分自身の経験を言ってるんだ。
「叶多さーん、お願いしまーす」
スタッフがドア越しに叶多に声を掛けた。
「ま、行ってくるわ」
叶多は返事をするとすぐに控え室から出て行った。
オレはぽつんと一人残されて特にすることもなく、仕方なく滝の撮った叶多の写真を見始めた。
色んなアングルで、様々な表情の叶多が切り取られている。
こちらに視線を向ける叶多はどれも魅力的で、いい写真だと思った。
けど、オレならもっといい写真が撮れるのに、とも思った。
もしこの仕事をオレが引き受けていたら。
あの賞を受賞したのが、オレだったら…。
叶多の向かった方向から誰かが走ってくる音が廊下に響いている。
足音の人物に控え室のドアを思いきり開けられた。
ヤバい!
鍵掛けとくんだった。
オレは身構えた。
けど、入ってきたのは叶多で、オレの心配は取り越し苦労に終わった。
「何だよ、もう~。
心臓止まるかと思ったぜ」
叶多は手に何かの写真をたくさんわしづかみにしていて、息を切らしている。
相当急いで走ってきたんだろう。
叶多は息も整えながら、神妙な面持ちでオレに言った。
「これ、今度のグラビアと一緒に載せる天体写真。
…滝が学生時代に撮ったって聞いた」
「そっか」
叶多が出してきた写真は見覚えのあるものだった。
「お前のパソコンに保存してた写真だよな。
お前は俺に、自分が撮った写真だって言った。
どういうことだ」
「………」
オレは何も言えなかった。
説明しようとすればするほど愚痴や泣き言のような言葉しか思いつかなかったからだ。
「言え」
叶多はオレに答えさせようと詰め寄ってくる。
オレは慎重に言葉を選んで言った。
「オレが、オレの撮った写真を持ってる。
そうとしか言いようがない」
叶多は堰を切ったように楽屋から飛び出そうとした。
咄嗟にオレは叶多を遮り、後ろ手に楽屋のドアを閉めた。
「叶多!
どうするつもりだよ」
「滝がお前から作品を盗んだことをスタッフの前で問いつめる」
「やめろよ!」
オレを押しのけて出て行こうとする叶多の前にオレは立ちふさがって、どうにか叶多を止めようとした。
それでも、叶多はちっともひるまない。
「離せ」
ものすごく怒ってる。
何でオレのことでこんなに必死になってるんだ?
訳も分からないままオレは叶多を落ち着かせようと必死になった。
「奇跡の一枚を失ってもオレはまだ諦めてない!
奇跡を一枚で終わらせたりしない」
「空は、踏み台にされたままでいいのかよ。
何で黙り込んでんだよ」
「言ったよ!」
オレは思わず言い返していた。
「滝にも、学校にも、主催者にだってかけあった。
けど、もう全てが決まっていて、何も覆せなかった。
オレ一人が騒いだって何の力にもならなかったんだ。
社会的価値のない人間には誰も耳を貸そうとしない。
それどころか、これ以上事を荒らげればオレの将来が険しくなるとまで言われた。
…だからもう止めたんだ。
馬鹿とケンカするのが一番馬鹿らしい。
時間の無駄だ。
それよりも自分の実力をつけたほうが滝を見返すことができる。
それ以外に、どうすればよかったんだよ!!」
叶多が悪いわけじゃないのに。
本当の事を言われて腹が立って、叶多にぶつけているだけだ。
最低だオレ。
「なら何でまだ引きずってるんだよ。」
「引きずってなんか」
「見返したいと思うのは、引きずってるって事じゃないのか」
「…プロになった笑って平気で話せるようになる!」
「プロになれたとしても、滝に奪われた時間は戻らない。
滝は何の償いもないままカメラマンでい続ける。
本当に心の底から笑えると思うか?」
叶多がズバズバ言ってきて、オレはぐっと言葉に詰まった。
「俺は、今苦しんでる空を泣き止ませたい」
「な、泣いてねえしっ。
滝の受賞を取り消せないって分かったときに一生分泣いて、もう泣かないって決めたんだ」
思いとは裏腹に目がジンジンして、涙が溢れてくる。
「泣くなよ」
「だから泣いてなんかっ…」
誤魔化すために出した怒鳴り声が途中で出なくなる。
俺の口は叶多の唇に塞がれていた。
「…っふ」
温かくて柔らかい唇が逃げても逃げても覆いかぶさってくる。
ついには頭を両手で包まれて身動きを封じられた。
叶多を受け入れるしかなくなる。
叶多の狙い通り、深いキスが終わるころにはオレの涙はすっかり止まっていた。
泣き止んだオレを見た叶多は言い聞かせるようにオレに言った。
「泣くべき人間は、空じゃないだろ」
叶多の案で新しい付き人のフリをしてオレは撮影スタジオに入り込んだ。
もし叶多の事務所の人間に遭遇して、叶多を写真で脅してることがバレたら、オレは一体どうなっちゃうんだろう…。
「おはよう叶多くん。
あれ、その子誰?」
スタッフらしき人が声を掛けてきた。
早速ヤバイぞ!!
青ざめてパクパクしているオレを見て、叶多はふっと笑った。
「大丈夫だって。
よしよし」
叶多はぐいっとオレを抱き寄せると、オレのおでこに頬擦りした。
そして、口元に人差し指を立てて、スタッフにウインクをした。
「しー♪」
叶多に見事打ち抜かれたスタッフはそそくさと姿を消していった。
「~~~おい」
「赤面しすぎ。
これが一番手っ取り早いんだよ」
叶多はしれっとオレから離れていつもの無愛想な口調に戻った。
くそう、いつもオレって振り回されっぱなしだ。
「南 叶多様」と書かれたプレートのかかってある控え室がある。
叶多が中に誰もいないことを確認してから控え室に入った。
オレは応接セットのようないすにどさっとなだれ込んだ。
つ、疲れた。
目の前のテーブルには雑誌が何冊か置かれている。
そのうちの表紙のほとんどが叶多だった。
「あ」
叶多の写真の角に印字された「T・TAKI」の文字が目に飛び込んできた。
「滝…」
「今日のカメラマンもそいつだよ。学生時代に賞とってプロデビューしたのを鼻にかけたイケスカねえやつ」
「………知ってるよ」
「やっぱ有名なんだな。
在学中に大賞受賞だもんな」
「ていうか、同級生」
「マジで。
「・・・・・・・・」
「空?」
オレは突然立ち上がり、メイク台の上に片足を乗せてガッツポーズをした。
「オレは!
絶対に滝より有名になってやる!」
「何だよ、急に」
いつになく叶多が動揺していた。
「悪い悪い。
叶多は夢が叶ったんだろ?
オレも早くそこにたどり着きたくってさ」
オレが笑って言うと、叶多はふっと下を向いてつぶやいた。
「夢が叶うっていうのは、現実を見るってことだ。
夢が叶って終わりじゃない。
その後に待ってる胸くそ悪い現実に押しつぶされそうになる」
それはオレに向かって放たれた言葉じゃなかった。
多分、叶多は自分自身の経験を言ってるんだ。
「叶多さーん、お願いしまーす」
スタッフがドア越しに叶多に声を掛けた。
「ま、行ってくるわ」
叶多は返事をするとすぐに控え室から出て行った。
オレはぽつんと一人残されて特にすることもなく、仕方なく滝の撮った叶多の写真を見始めた。
色んなアングルで、様々な表情の叶多が切り取られている。
こちらに視線を向ける叶多はどれも魅力的で、いい写真だと思った。
けど、オレならもっといい写真が撮れるのに、とも思った。
もしこの仕事をオレが引き受けていたら。
あの賞を受賞したのが、オレだったら…。
叶多の向かった方向から誰かが走ってくる音が廊下に響いている。
足音の人物に控え室のドアを思いきり開けられた。
ヤバい!
鍵掛けとくんだった。
オレは身構えた。
けど、入ってきたのは叶多で、オレの心配は取り越し苦労に終わった。
「何だよ、もう~。
心臓止まるかと思ったぜ」
叶多は手に何かの写真をたくさんわしづかみにしていて、息を切らしている。
相当急いで走ってきたんだろう。
叶多は息も整えながら、神妙な面持ちでオレに言った。
「これ、今度のグラビアと一緒に載せる天体写真。
…滝が学生時代に撮ったって聞いた」
「そっか」
叶多が出してきた写真は見覚えのあるものだった。
「お前のパソコンに保存してた写真だよな。
お前は俺に、自分が撮った写真だって言った。
どういうことだ」
「………」
オレは何も言えなかった。
説明しようとすればするほど愚痴や泣き言のような言葉しか思いつかなかったからだ。
「言え」
叶多はオレに答えさせようと詰め寄ってくる。
オレは慎重に言葉を選んで言った。
「オレが、オレの撮った写真を持ってる。
そうとしか言いようがない」
叶多は堰を切ったように楽屋から飛び出そうとした。
咄嗟にオレは叶多を遮り、後ろ手に楽屋のドアを閉めた。
「叶多!
どうするつもりだよ」
「滝がお前から作品を盗んだことをスタッフの前で問いつめる」
「やめろよ!」
オレを押しのけて出て行こうとする叶多の前にオレは立ちふさがって、どうにか叶多を止めようとした。
それでも、叶多はちっともひるまない。
「離せ」
ものすごく怒ってる。
何でオレのことでこんなに必死になってるんだ?
訳も分からないままオレは叶多を落ち着かせようと必死になった。
「奇跡の一枚を失ってもオレはまだ諦めてない!
奇跡を一枚で終わらせたりしない」
「空は、踏み台にされたままでいいのかよ。
何で黙り込んでんだよ」
「言ったよ!」
オレは思わず言い返していた。
「滝にも、学校にも、主催者にだってかけあった。
けど、もう全てが決まっていて、何も覆せなかった。
オレ一人が騒いだって何の力にもならなかったんだ。
社会的価値のない人間には誰も耳を貸そうとしない。
それどころか、これ以上事を荒らげればオレの将来が険しくなるとまで言われた。
…だからもう止めたんだ。
馬鹿とケンカするのが一番馬鹿らしい。
時間の無駄だ。
それよりも自分の実力をつけたほうが滝を見返すことができる。
それ以外に、どうすればよかったんだよ!!」
叶多が悪いわけじゃないのに。
本当の事を言われて腹が立って、叶多にぶつけているだけだ。
最低だオレ。
「なら何でまだ引きずってるんだよ。」
「引きずってなんか」
「見返したいと思うのは、引きずってるって事じゃないのか」
「…プロになった笑って平気で話せるようになる!」
「プロになれたとしても、滝に奪われた時間は戻らない。
滝は何の償いもないままカメラマンでい続ける。
本当に心の底から笑えると思うか?」
叶多がズバズバ言ってきて、オレはぐっと言葉に詰まった。
「俺は、今苦しんでる空を泣き止ませたい」
「な、泣いてねえしっ。
滝の受賞を取り消せないって分かったときに一生分泣いて、もう泣かないって決めたんだ」
思いとは裏腹に目がジンジンして、涙が溢れてくる。
「泣くなよ」
「だから泣いてなんかっ…」
誤魔化すために出した怒鳴り声が途中で出なくなる。
俺の口は叶多の唇に塞がれていた。
「…っふ」
温かくて柔らかい唇が逃げても逃げても覆いかぶさってくる。
ついには頭を両手で包まれて身動きを封じられた。
叶多を受け入れるしかなくなる。
叶多の狙い通り、深いキスが終わるころにはオレの涙はすっかり止まっていた。
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