星狩る人

仙崎 楓

文字の大きさ
16 / 28

この告り方はズルい

しおりを挟む
「コーヒー買ってきて」
二時間ほど走った後に高速のサービスエリアに入ると、叶多がピッ、と一万円札を指にはさんでオレに向けた。
「お、おう」
 オレは金を受け取って車から降りようとした。
 う~ん。
 いつまでたっても開けづらいドアだな、この車。
 普通の車と違う方向に押すから壊れそうで嫌なんだよ。
「いい加減慣れろよ」
叶多が俺の上に乗っかるように助手席のドアに手を伸ばした。
叶多の体重が感じられて、心臓がびくっと震えた。

 ダメだ。
変に意識してしまう。


「ご注文どうぞ~」
カフェエプロンをつけた店員に促されて、オレはスタンダードなコーヒーをひとつ頼んだ。
店内の大画面にはワードショーが映し出されている。
早くも叶多の暴走シーンが映し出されている。
あの目立つ車を長時間停めてると、人に気づかれて厄介なことになりそうだと思い、オレはコーヒーを受け取ると急いで車に戻った。
ドアを開けて車に乗り込む。
 叶多は何かの台本を読んでいたけど、オレに気づくとすぐにシートの横へ差し込んだ。
「あれ、一個?」
「おう」
「自分のも買ってこいよ」
「いい。いらない」
 オレはコーヒーとお釣りを渡すと横に座った。
叶多はコーヒを一口飲むとオレに差し出した。
「ほれ」
「叶多、本当に良かったのか?」
叶多はコーヒーを持ったままオレを睨んだ。
「何が」
「えっと、今ワイドショーでこの車の映像が流されてるの見たから…。
 見つかって騒ぎになるのも時間の問題だぜ」
「だから何? 騒がれてお前何か変わるの」
「オレは変わらない。けど叶多が困る」
「じゃあ、急がないとな」
ぐいっとコーヒーをオレに押し付けた。
叶多はエンジンをかけると高速のレーンに車を走らせた。



「………ハワイ?」
 うん、確かにハワイっぽいヤシの木は生えている。
けどね、うん。
芸能人がハワイって言うとアメリカ行っちゃうのかよ!とか思うよね?
叶多の横には「ようこそ羽合はわい温泉へ!」と書かれたでっかい看板が立っている。
「オレ、日本にハワイがあるとは知らなかった・・・」
「行くぞ」
「へ?」
「ここから先、車は入れない」
叶多は車から降りると暗い砂浜を迷うことなくずんずん歩いていった。
ザアアア、ドオン。
海どのくらい近付いているんだろう。
とてつもない波の轟きに思わず体がすくんで、すがる思いで上空を拝んだ。
元々まばらだった街灯がさらに減った海辺では、真っ白な星屑たちがオレたちを待ち構えていた。
オレは口をぽかりと開けたまま夢中で満天の空を見上げた。
黒いベルベットに散りばめられた宝石が、今にもオレたちに降り注いできそうだ。
「………っ」
叶多の呆れた顔が目の端っこに映った。
「泣かないって言う割によく泣くよな、お前」
「うっせえな!
 綺麗な星見るとだめなんだよ」
 オレの目からボロボロと涙がこぼれる。

「綺麗、か。
ここにお前と来たら、どんな風に見えるんだろうって思ったけど。
お前、やっぱスゴいわ。
 あのときは綺麗なんて思わなかった」
「あのとき?」
「大門と初めて枕した後に来た場所が、ここだよ。
 真っ暗な砂浜にずっと一人で座ってた。
 役者として売れたくて何でもやろうと思ってやったのに、あのときはもう誰にも見られたくなかった」

「暗闇は最高だって言うお前と一緒ならあの最悪だった気分も忘れられるかもな」
 叶多は自分の心臓辺りの服をぐしゃっとつかんだ。
「心臓、空にわしづかみにされたみたいだ。
俺とは比べ物にならないくらいお前は綺麗だよ」
 今度のドラマで言うセリフの練習か?なんて言おうかと思ったのに、叶多の顔が余りに真剣でふざけることができなかった。

「…オレみたいな奴どこにでもいるって」
 目が合わせられない.
半笑いで俯いて砂を蹴ってみる。
「世界中探せばいるのかもな。
でも、俺の前に現れたのは、空だけだ」
叶多の真っ直ぐな視線に胸を打ち抜かれたみたいだ。
心臓が痛いくらいバクバクと振動している。
それとも、足元もほとんど見えないほど薄暗い砂浜で轟く波の音のせいなんだろうか。
どちらからともなく少しずつ叶多との距離が縮まっていく。
「星ばっか追いかけてるから、空は自分のことが全然見えてないんだよ」

そして、風になびくお互いの髪が触れ合うほどの近さになった時、オレたちはまるで初めてのようなぎこちないキスをしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた

星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。 美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。 強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。 ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。 実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。 α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。 勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳 一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳 アルファポリス初投稿です。 ※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。 それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

処理中です...