能力鬼ごっこ

宮古 そら

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第6話

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「よし、僕は逃げようかな。」

「何言ってるんすか悠真さん。」
瀧川が焦って悠真を止めようとする。瀧川以外にもさっき逃げてきた女子生徒二人が焦った表情
を見せる。

「先輩二人を助けに行っても帰って被害が大きくなるだけだと思うよ。」

「同感だな。」

「それはそうっすけど、二人を見捨てるんすか?」

俺は吉田に賛成の意を示すが瀧川は難色を示す。

「助けるにしても先輩たちからその鬼面の男を引き離さないとね。」

吉田は先輩たちを完全に見捨てるわけではないようだ。

「君たち二人はどうしたい?」

「私は逃げたいです。先輩たちには悪いけど、今すぐにでも逃げ出したいです。」

吉田の質問に山本と名乗った女子生徒が震えながら答えた。

「私は助けに戻りたいです。何ができるかはわからないけど、助けたいです。」

山本とは対照的に福間という少女は助けることに強い意志を持っているようだ。

「でもまずはここから移動して距離をとろう。先輩たちがこれだけ時間を稼げているのも奇跡に近い。」

全員が吉田の提案に賛同し、教室を出る。

鬼面の男がいまだに姿を見せないのは違和感がある。その先輩たちがよほど腕の立つ人物であるか、男の気まぐれか。

「まずは反対側の階段に向かおう。僕が鬼面の男を引きつけるから四人で先輩たちのもとに向かってほしい。」

移動しながら吉田が作戦を口にした。おとりになるつもりのようだ。さっきまでは逃げると言っていたが先輩を助ける方向に舵を切った。逃げるという選択も俺たち四人の身を案じてのことだったのだろう。

「でも、悠真さん一人で大丈夫っすか?」

「うん、足には自信があるからね。逃げるだけなら一人の方が動きやすいし。」

心配の表情を浮かべる瀧川に吉田が答えた。吉田は身体能力であれば一人で動いた方が逃げられる可能性は高い。

「なんかいっぱいいるじゃん。」

「「なっ!?」」

後ろからの声に振り返る。渡り廊下と教室棟の角に鬼面の男が立っていた。

「うーん?なんか、、、。」

鬼面の男が何かをつぶやいた。

「みんな、走るんだ!」

吉田の声に反応して走り出した。



「なかなか楽しめたかな。」

廊下に倒れた二人を見て鬼面の男は嬉しそうにつぶやき、福間と山本は逃げて行った教室棟の方へ向かって歩き始めた。

「なんかいっぱいいるじゃん。」

廊下の角を曲がった男は、ちょうど教室から出始めた吉田たちを目撃した。

「「なっ!?」」

さっき逃がしたのは女子生徒二人だったような、、、。男子生徒が三人増えてるじゃん。

「うーん?なんか妙なのが混ざってるな。」

気のせいじゃないよね?一人だけ違うよね。困ったな~。まぁ、俺の仕事じゃないか!
鬼面の男は困惑したが、一瞬で開き直った。

「みんな、走るんだ!」

今指示出した子は頭の回転が速いし、指示の出し方も的確だ。そう、一般人相手ならとても良い指示だろうね。

鬼面の男は吉田に感心しながらも、生徒たちとは対照に焦る素振を見せることなく歩いている。

「うわ、ご丁寧にここにもバリケード張ってあるじゃん。」

歩いていると、吉田たちが階段に築いたバリケードが目に入った。

「ちょうどいいや。」

そういうと男はバリケードの机を無造作に手に取り、逃げている吉田たちの方へ投げた。吉田たちはすでにほとんど反対側まで走っており、4教室分の距離があった。しかし、投げられた机は勢いよく吉田たちに向かっていった。

「逃がさないよ。」

鬼面の男はにやりと笑った。



「みんな、走るんだ!」

僕の言葉と同時にみんなが走りだした。幸い、山本さんも足がすくむことなく走り出せている。
それよりもさっき男が言っていた言葉の意味が気になるな。

『うーん?なんか妙なのが混ざってるな。』

思わず漏れたような小さな声ではあったが、僕にはそう聞こえた。逃げてきた二人に加わった僕たちのことか?いや、今は逃げることに集中しよう。
一瞬男の方を振り返るが走って追ってくる様子はない。まるでいつでも追いつけるというようにゆっくり歩いている。

「そろそろ階段だ。下に降り―」

ガシャーン!

一番端の教室の前を通り過ぎるところで後ろから机の崩れる音がした。

「危ない!」

「きゃあ!」

物音に反応して後ろを振り返ると机が飛んできていた。吉田は悲鳴を上げる山本の腕を掴み、階段の角へ引っ張った。吉田たちが避けた直後、机は勢いよく廊下を通り過ぎて行った。

「大丈夫?」

「もう、いや。」

吉田が山本に声をかけるが、憔悴している。

「俺は大丈夫っす。それより、刹那さんと福間さんがいないっす。」

階段の方へ避けることができたのは吉田と山本と瀧川の三人だけだった。

「二人は大丈夫だよ。教室に入っていくのが見えたから。」

吉田の言葉に瀧川は安堵する。

ガシャーン!

二つ目の机が飛んできた。きっと志村君たちを教室から出れないようにするためだ。

「吉田、先に行ってくれ。」

「わかった。また後で。二人とも急いで。」

志村の言葉に吉田が答える。憔悴して動けないでいる山本を引っ張りながら三人は先に階段を降り始めた。
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