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卒業
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俺たちは別々の道に行く。
理数系の颯人はエンジニアになりたいと工学部に。奏多は絵が得意で美大へ。萌ちゃんは学校の先生になりたいと教育学部に決めた。恵美は柔道整復師になるための学校へ。
そして凱と俺は別々の服飾系の大学に行く。
「みんな見事に別々だな」
卒業式終わりに奏多が言った。
「でもいつでも会えるよ!」
萌ちゃんが明るく言う。頬には涙の跡。卒業式めっちゃ泣いてたもんな。
最後はみんなでご飯食べて、カラオケ行って高校最後の思い出を作った。
色んなことあったな。
修学旅行とか。
直前で恵美と恋人になれて浮かれてたっけ。
あの時から凱も萌ちゃんと付き合い始めたんだよな。
まともに会話もしたことなかった凱と友達になって、ギクシャクしながらも水族館行って。
ペンギンを可愛いな! って言ったら、最後にこっそり買ってたペンギン柄のハンカチくれて。
夜緊張しながら電話して。電話越しの声が心地よくて。
萌ちゃんの茶道部の着付けの手伝いしたりもして。
あいつの浴衣の襟を直した時、ふと触れた胸の音が手を伝わって、ドキドキしたんだよ。
夏祭り行って。目が合うといつも逸らしちゃうんだよなー。
卒業旅行は箱根に行って、そこで買った秘密箱。
あいつとの思い出を全部これにしまっておこう。
4人でお揃いのキーホルダーも、ペンギンのハンカチも、2人が写る写真も、全てを箱に詰めて……
コンコンコン。
部屋のドアをノックする音と声が聞こえた。
「にいちゃん! 入るよー」
「紡? あ! ちょっと待って」
俺は秘密箱を急いで隠した。
「何? やらしい本でも読んでた?」
「違うよ。何?」
「卒業のお祝いだって。一緒に食べよ?」
と言ってケーキを持ってきた。
「卒業ってお祝いなの?ってかなんで一緒に食べんの?」
「さあ?門出的な? だってもうすぐ一人暮らししちゃうじゃん? 僕との思い出も作っとかないと! ってか泣いてんの?」
「……本当だな」
「え、無意識? こわ!」
「うるせぇよ」
「泣くほど楽しかったんだ?」
「まぁな。辛いこともあったけど、ずっと続けばいいと思う瞬間が沢山あったから。お前も4月から高校生だろ? きっとわかるよ。この気持ち」
「そっかぁ。にいちゃん、いい友達たくさんいたもんな。颯人くんたちや恵美ちゃんや、あとお隣さんとか……」
「……え?」
「前に部屋の前通った時、電話してるの聞こえたから。凱って呼んでたの、隣の兄ちゃんでしょ? それに時々一緒に帰ってきてたじゃん? 家のちょっと手前まで」
「知ってたのか? それ、父さんたちには?」
「言うわけないじゃん。大騒ぎなるわ」
だよな。
「ありがとな。でももう気を遣わなくて大丈夫だよ。元の関係に……友達でもなかった時に戻るから」
「にいちゃん?」
「ご馳走様。俺、荷作りするから……」
「うん。手伝う事あったら言ってね」
「じゃあ、後で母さんにガムテープだけもらってきてくれる?」
「わかった」
「ありがと」
1週間後、俺は引っ越しを済ませた。
秘密箱は2つとも実家に置いてきた。
颯人と奏多には新しい住所を知らせた。
「あとは……」
俺は電話をかける。
「もしもし。今度話したいことあるから時間作れる?」
3日後。ファミレスに俺はいた。
「どうした?何話って。引っ越す前に言えばよかったのに……」
「ごめん。ちょっとバタバタしてて。ちゃんと心も体も健康な時に考えたかったから……」
「ん? まぁいいや。で?」
「俺たち別れよう?」
「え……と……どうして?」
「俺から告白しといて、俺から別れようなんて虫が良すぎると思うんだけど、別れて欲しい」
「だから、なんで?」
「昔から恵美のことめっちゃ好きで、もちろん今も好きなんだけど、この先俺といても恵美の時間を無駄にしてしまうだけだと思うから」
「それ……」
しばらく沈黙が続く。
凱とはどうにもならなくても、前と同じ気持ちで恵美と付き合うことは無理だと思った。
新生活が始まるタイミングで別れた方が、恵美も新しい出逢いに希望が持てるだろう。
俺と別れて、新しく好きな人を見つけて幸せになってくれたら、それが一番いいと思ったんだ。
「……そっか。まぁその辺ドライなのが私の長所だからね。大丈夫!大丈夫……やっぱ全然……だいじょうばない……よ……」
「ごめん。本当にごめん……」
「私、なんかダメなとこあった? やっぱバレーばっかして、藍のことほったらかしてたから、それで嫌いになった?」
「違うよ。バレーやってる恵美はめっちゃキラキラして格好良かったよ」
「じゃあ、キスまでしか出来なかったから、それで欲求不満で……とか?」
「そんなんじゃない。一緒にいるだけで楽しかった」
「じゃあ、私以上に好きな人に出逢ったとか?」
「……恵美以上に好きな女の子はいないよ」
「……そっか。まぁ何言っても結果は変わんないもんね! けどさ、私たち友達にも戻れない?」
「それは申し訳ないよ」
友達に戻ったら、俺の気持ちがもしバレた時、また傷付けることになると思った。
「申し訳なくなんかないよ。気まずくなんないよ。だからまたみんなでご飯行ったりしようよ」
「……うん」
「良かった。じゃあここは藍の奢りね!」
「もちろん」
「えっとじゃあーあ。すみませーん! マルゲリータと唐揚げとシーザーサラダお願いします!」
「すげぇ食べるじゃん」
「失恋したんだからやけ食いくらいするでしょ?」
「あ。すみません」
「あはは。ほら、またこうやって笑えるよ!」
本当に恵美のことは好きだった。
いつかこの日のことを、後悔する時が来るかもしれないって思うほどに。
理数系の颯人はエンジニアになりたいと工学部に。奏多は絵が得意で美大へ。萌ちゃんは学校の先生になりたいと教育学部に決めた。恵美は柔道整復師になるための学校へ。
そして凱と俺は別々の服飾系の大学に行く。
「みんな見事に別々だな」
卒業式終わりに奏多が言った。
「でもいつでも会えるよ!」
萌ちゃんが明るく言う。頬には涙の跡。卒業式めっちゃ泣いてたもんな。
最後はみんなでご飯食べて、カラオケ行って高校最後の思い出を作った。
色んなことあったな。
修学旅行とか。
直前で恵美と恋人になれて浮かれてたっけ。
あの時から凱も萌ちゃんと付き合い始めたんだよな。
まともに会話もしたことなかった凱と友達になって、ギクシャクしながらも水族館行って。
ペンギンを可愛いな! って言ったら、最後にこっそり買ってたペンギン柄のハンカチくれて。
夜緊張しながら電話して。電話越しの声が心地よくて。
萌ちゃんの茶道部の着付けの手伝いしたりもして。
あいつの浴衣の襟を直した時、ふと触れた胸の音が手を伝わって、ドキドキしたんだよ。
夏祭り行って。目が合うといつも逸らしちゃうんだよなー。
卒業旅行は箱根に行って、そこで買った秘密箱。
あいつとの思い出を全部これにしまっておこう。
4人でお揃いのキーホルダーも、ペンギンのハンカチも、2人が写る写真も、全てを箱に詰めて……
コンコンコン。
部屋のドアをノックする音と声が聞こえた。
「にいちゃん! 入るよー」
「紡? あ! ちょっと待って」
俺は秘密箱を急いで隠した。
「何? やらしい本でも読んでた?」
「違うよ。何?」
「卒業のお祝いだって。一緒に食べよ?」
と言ってケーキを持ってきた。
「卒業ってお祝いなの?ってかなんで一緒に食べんの?」
「さあ?門出的な? だってもうすぐ一人暮らししちゃうじゃん? 僕との思い出も作っとかないと! ってか泣いてんの?」
「……本当だな」
「え、無意識? こわ!」
「うるせぇよ」
「泣くほど楽しかったんだ?」
「まぁな。辛いこともあったけど、ずっと続けばいいと思う瞬間が沢山あったから。お前も4月から高校生だろ? きっとわかるよ。この気持ち」
「そっかぁ。にいちゃん、いい友達たくさんいたもんな。颯人くんたちや恵美ちゃんや、あとお隣さんとか……」
「……え?」
「前に部屋の前通った時、電話してるの聞こえたから。凱って呼んでたの、隣の兄ちゃんでしょ? それに時々一緒に帰ってきてたじゃん? 家のちょっと手前まで」
「知ってたのか? それ、父さんたちには?」
「言うわけないじゃん。大騒ぎなるわ」
だよな。
「ありがとな。でももう気を遣わなくて大丈夫だよ。元の関係に……友達でもなかった時に戻るから」
「にいちゃん?」
「ご馳走様。俺、荷作りするから……」
「うん。手伝う事あったら言ってね」
「じゃあ、後で母さんにガムテープだけもらってきてくれる?」
「わかった」
「ありがと」
1週間後、俺は引っ越しを済ませた。
秘密箱は2つとも実家に置いてきた。
颯人と奏多には新しい住所を知らせた。
「あとは……」
俺は電話をかける。
「もしもし。今度話したいことあるから時間作れる?」
3日後。ファミレスに俺はいた。
「どうした?何話って。引っ越す前に言えばよかったのに……」
「ごめん。ちょっとバタバタしてて。ちゃんと心も体も健康な時に考えたかったから……」
「ん? まぁいいや。で?」
「俺たち別れよう?」
「え……と……どうして?」
「俺から告白しといて、俺から別れようなんて虫が良すぎると思うんだけど、別れて欲しい」
「だから、なんで?」
「昔から恵美のことめっちゃ好きで、もちろん今も好きなんだけど、この先俺といても恵美の時間を無駄にしてしまうだけだと思うから」
「それ……」
しばらく沈黙が続く。
凱とはどうにもならなくても、前と同じ気持ちで恵美と付き合うことは無理だと思った。
新生活が始まるタイミングで別れた方が、恵美も新しい出逢いに希望が持てるだろう。
俺と別れて、新しく好きな人を見つけて幸せになってくれたら、それが一番いいと思ったんだ。
「……そっか。まぁその辺ドライなのが私の長所だからね。大丈夫!大丈夫……やっぱ全然……だいじょうばない……よ……」
「ごめん。本当にごめん……」
「私、なんかダメなとこあった? やっぱバレーばっかして、藍のことほったらかしてたから、それで嫌いになった?」
「違うよ。バレーやってる恵美はめっちゃキラキラして格好良かったよ」
「じゃあ、キスまでしか出来なかったから、それで欲求不満で……とか?」
「そんなんじゃない。一緒にいるだけで楽しかった」
「じゃあ、私以上に好きな人に出逢ったとか?」
「……恵美以上に好きな女の子はいないよ」
「……そっか。まぁ何言っても結果は変わんないもんね! けどさ、私たち友達にも戻れない?」
「それは申し訳ないよ」
友達に戻ったら、俺の気持ちがもしバレた時、また傷付けることになると思った。
「申し訳なくなんかないよ。気まずくなんないよ。だからまたみんなでご飯行ったりしようよ」
「……うん」
「良かった。じゃあここは藍の奢りね!」
「もちろん」
「えっとじゃあーあ。すみませーん! マルゲリータと唐揚げとシーザーサラダお願いします!」
「すげぇ食べるじゃん」
「失恋したんだからやけ食いくらいするでしょ?」
「あ。すみません」
「あはは。ほら、またこうやって笑えるよ!」
本当に恵美のことは好きだった。
いつかこの日のことを、後悔する時が来るかもしれないって思うほどに。
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