ナツキ

SHIZU

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那月の好き

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崇さんが帰ってしばらくして電話が鳴った。
「もしもし、真理恵?どうしたの?」
「なっちゃん、どこにいるか知ってる?」
「…いや、知らないけど?何で?」
「今日、9時に会う約束してたんだけど、まだ来なくって…」
時計を見ると、10時を回っていた。
那月が時間に遅れることなんて、まずないのに…
「朝、荷物取りには来てたみたいだけど、すぐ帰ったみたい。それからはわかんないな」
「そっか…」
「上手くいってるんだね!良かった」
「え?」
「デートでしょ?あんな周りがいらんこと言ったせいで、2人が別れることないんだよ!好きなら一緒にいればいいんだから」
「違うよ!本当に私たち、ただの友達だから…」
「うん。まぁどっちでもいいよ。俺には関係ないし」
「関係なくないよ。というか、那月から何も聞いてないの?」
「聞いたよ!ただの友達だって。でも2人がコソコソ俺に内緒で会ってた理由は、聞いても教えてくんなかったし」
「何それ。話してもいいから、ちゃんと説明してって言ったのに…」
「何のこと?」
「とりあえず、会ったらこう伝えて。私のことは気にしなくていいから、ちゃんと自分の気持ち伝えてって」
そう言って真理恵は電話を切った。
「なんだよ…」
顔を洗うためバスルームに向かう。
みんなして何だよ…
なんだ自分の気持ちって。
とりあえず、今日は笠松先生のとこ、予約してあるから準備しなきゃ…

「どうしたの?」
ぼーっとしながらストレッチしていた俺に、恵先生が聞いた。
「朝、那月が約束の時間に現れないって知り合いから…あいつ時間は絶対守るのに…」
「春陽さん?」
「じゃなくて友達です…」
「そっか…なんか、頭整理したいことあるのかもね」
「整理ですか…」
「そうそう。昔からなんかあるとここに…あ!」
「ど、どうしたんですか?」
あーびっくりした…
先生は電話をかけた。
「もしもし、圭吾?朝、屋上開けた?…そう、今日の朝…うん…やっぱり。ありがとう」
「どうしたんですか?」
「たぶん那月、上にいるよ」
「上?」
「そう。あの子嫌なことあると、いつもここの屋上に来るの。昔からイケメンだから女の子にはモテるけど、その分男の子からは反感かったりして、それでいじめられた時とか、サッカーで怪我した時とか、あとはデビューする前の不安な時とか、この上でずっとぼーっとしてるの」
と天井を指差して恵さんが言う。
スクールの入っているビルは、1階が圭吾さんの整骨院。
2階が恵さんのダンススクール。
3階は物置&事務所。
そしてその上に屋上があるらしい。
「あの…」
「うん。行ってあげて」
俺は階段を登りながら考える。
あいつの顔見て何を言う?
会って何を聞く?
でも…
扉を開けた俺の前に、空を見上げる那月がいた。
「え…?」
俺に気付いて、驚く那月。
「お前何してんの?」
「……」
「今日真理恵と約束あったんだろ?約束の時間に来ないって心配してたぞ?」
「あ…ごめん」
「俺に謝られても困る。後で自分で言いな…あと、なんか伝言頼まれた。“私のことは気にしなくていいから正直に気持ち伝えろ”だって。何のこと?」
「それは…」
「…じゃあ、俺行くわ。レッスンあるし、もう伝言は伝えたから」
「…待って!」
那月は俺の腕を掴んだ。
「何?」
「少し話出来る?」
俺たちは屋上にあるベンチに腰掛けた。
「何?」
「あのさ、お前って崇さんのこと…」
「あぁ。好きだよ」
「そっか…そうだったのか。いつから?」
「さぁ?出会った時からじゃない?」
「…」
「崇さんも、その時崇さんのマネージャーしてた春陽さんも、俺の面倒よく見てくれて、遊びとかご飯とかよく連れてってくれた。2人とも俺には大事な存在で、兄弟のいない俺にはお兄ちゃんみたいな感じ。だから大好きだよ」
「それって付き合ったりしてるわけじゃないってこと?」
「うん。じゃあ…俺も質問していい?」
「何?」
「俺が崇さんに担がれて帰った日、俺にキスしたの、那月だったんだな?」
「え?」
「どうしてそんなことしたの?」
「どうしてって…」
「…まぁいいや。昔の話だし。今は真理恵が好きなんだろ?」
「違う。俺が、俺が本当に好きなのは…」
俺の顔をじっと見た後、そっとキスをした。
「那月!?」
押し離した俺に那月は言った。
「俺が好きなのは…お前だよ」
「は?何言って…」
「会った時から好きだった。初恋だったんだよ…それからはずっとお前だけを見てた」
ちょっと何?訳がわからん!初恋って?
「那月の好きって、それって…」
「だから初恋なんだって。家族みたいとか友達としてとかじゃなくて、俺はただお前が好き。手を繋いだりキスしたり、付き合ったりしたい。極端な話、出来ることなら結婚して、お前との子供作りたい。そういう意味の好き」
「何言ってんの?そんな急に…」
「急じゃない。ずっと口説いてたよ。わかりにくかったかもだけど、キスの練習だって、好きでもないのに頼んだりしない。お前は仕返しみたいな感じで、頼んできたけどな。それでも俺は嬉しかった。お前とキスして、体温に触れて、セリフでも好きって言ってもらえた。親に他人を紹介したのも、お前が初めてだ。誕生日を2人っきりで過ごしたいと思うのも、そばにいるだけで幸せな気持ちになれるのもお前だけだよ」
「そんなの…」
「わかってる。俺のことそういう目で見てないって。だから今まではっきり言えなかった。言ったら全部終わるしな。でもこのままお前が離れていくのも嫌だからちゃんと言う」
那月は俺の肩に手を置き、目を見ながら言った。
「俺は夏輝が好き。死ぬほど好き。や、たとえ死んだとしても、夏輝だけを好き」
出会ってから初めて、那月が俺を夏輝って呼んだ。









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