ナツキ

SHIZU

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俺の好き

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どうしていいかわからず、俺は逃げるようにして2階の恵さんのとこに行った。
「那月に会えた?」
「は…はい…」
「そ?で、その様子だと好きって言われた?」
「え!?」
「そんな驚かなくても…何となくそうじゃないかなって思ってたよ。全然気付かなかった?」
「はい。全く…」
「圭吾とかはたぶん気付いてないね。でも春陽さんとか、よく一緒にいるメンバーは気付いてる人もいるんじゃない?」
「俺どうしたらいいですか?」
「ん?どうしたらとは?」
「あいつの気持ち知って、その後、何事もなかったかのように接するなんて出来ないです」
「そっか…そうなると思って、ずっと秘めてたのよねー。きっと…」
「どうしよう…」
「夏はなっちゃんが好き?だとして、夏の好きはあの子の好きとは違うのかな?いずれにせよ、ちゃんと向き合って出した答えなら、あの子も納得するよ」
「…はい」
ストレッチを始めてすぐ、真理恵から電話があった。
「ちょっとすみません」
そう恵さんに言って電話に出る。
「はい」
「夏輝?なっちゃん…と連絡取れた!ありがとう」
「俺は何も…」
「ちゃんと言いたいこと言えたって言ってたよ。なっちゃん」
「そっか…もしかして真理恵も知ってた?あいつの気持ち」
「うん。2人のこと見てて、もしかしたらって思ったから、だから私なっちゃんと話したくて…」
「どういう意味?」
「あれ?聞いてない?私たちが会ってた理由」
「うん。それは結局教えてもらえなかった」
「そう…実は私ね。腐女子なの!」
「ん?腐女子って?」
「私、趣味でBL小説書いてるの!もちろん正体は隠してだけど」
「え??」
「たまたま本屋で、そっち系のコーナーに居るとこ、なっちゃんに見られちゃって。変装してたのに彼にはバレちゃってさ。だからこの際、なっちゃんの気持ち聞いちゃえと思って。2人で会うようになったのはそれがきっかけ。だから夏もなっちゃんも推しではあるけど、!」
「へー」
悲しむべき…だよな?
「それで話してただけなのに、写真撮られちゃってさ…なっちゃんは夏が好きで、真理恵は腐女子です!なんて公表出来ないから、友達です!で押し通すしかなくて、ごめんね。夏にも迷惑かけて…」
「いや、まぁそれは言えないよね」
「うん。なっちゃんが告白したって言ったから、私のことも話したのかと思って電話したの。もし話してないなら、私から全部話してモヤモヤをスッキリさせたかったし」
「あー。まぁスッキリはしたかも?」
「良かった!だから私のことは気にせず、仲良くやってよね!じゃあね!また3人でご飯行こ!」
そう言って、一方的に真理恵は電話を切った。
魂が抜けたように呆然としている俺に、
「今日はたぶんまともにレッスンできないでしょ?帰ってゆっくりしなよ」
と恵さんは言って、肩をぽんと叩いた。
「はい…」


俺は家に帰って、今までのことを思い返していた。
昔、那月と春陽さんが抱き合っているのを見て、勘違いしたことがあったな…
沙織さんと付き合ってることを知って、那月に対して誠実じゃないって、春陽さんに怒ったっけ…

そういえば、俺のファーストキスは那月なんだよな。
キスシーンがあるから、練習に付き合ってと言われてキスしたのが初めてだった。
そういえばあの時、那月は言ってた。
“田所さんよりかは、お前の方が好きだと思うし"
知り合った期間が俺の方が長いから、仲がいいって意味で好きだって言ったんだと思った。
“キスの練習だって、好きでもないのに頼んだりしない”
さっき那月はそう言った。
じゃあ俺は?
相手があいつじゃなければ、俺はキスシーンの練習相手を引き受けたのだろうか?

仕返しのつもりで練習をさせて欲しいと言った。
それは那月にもバレてた。
ベッドシーンの練習では、あいつ勃ってたよな。
若いせいで、相手が俺なんかでもそうなるんだと思ってた。
だけどそれより、崇さんとのキスシーンの時。
あの時、“先輩の気持ちに気付いて、動揺している演技がイメージ通りで良かった!"と監督に褒められた。
実際あの時、俺は動揺していた。
本番で崇さんとしたときよりも、前の日の那月とのの方がドキドキしたからだ。

俺の那月への好きが、どういう好きかわからない。
友達としてなのか、それ以上か。
たとえそれ以上でも、到底、那月の気持ちと同じ想いの強さとは言えない…
俺は悩んでいた。
このまま少し距離を置いて、気持ちを確かめるべきか。
それとも一緒に暮らしたまま、自分の気持ちを見つめ直すべきか。












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