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剣術修行
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銀の不死鳥と鉄竜の鱗一行は、サハリアへ向けて、東へ東へと進んでいた。
「レイも剣の腕を鍛えましょう! 体力もつきますよ!」
「……レヴィ、急にどうしたの?」
レヴィが真面目な顔で、レイの目を見つめて提案してきた。
次の街へ向かう途中、昼の小休憩の時だった。
「レイは以前、スリングショットで筋肉痛になったので、さすがに鍛えた方が良いと……ルーファスが言ってました」
「ぶふっ!! レヴィ! そういう時は、僕のことは言わなくていいんだよ!」
ルーファスは突然の証言に、飲みかけの水を噴き出した。
レイは残念な子を見るような視線で、ルーファスを見つめた。
「あたしも、ルーファスに同意だね。体力の無い魔術師ほど足を引っ張るものはないからね。上位ランクの冒険者ほど、職業に関わらず体力はあるもんだよ。体力があるおかげで生き残れることも多いしさ」
カタリーナは、からりと言い放った。
冒険者として経験豊富なカタリーナに言われると、非常に説得力があった。
「体力をつけることでレイの命を守れるなら、その方がいいと思うよ」
ルーファスもやんわりと、カタリーナの意見に賛成した。
「確かに、そうですよね……」
現代日本で生きてきたレイは、それはもう、運動不足だった。
こちらの世界に来て、以前に比べてかなり動くようになり、冒険者も始めてだいぶ体力や筋力が付いてきているとは思ってはいたのだが……
(……まだまだ足りないみたい……)
こちらの世界では交通網が発達していないため、自分の足で歩いて行くのが基本なのだ。未開の地も多く、魔物も跋扈しているため、力や体力がいくらあっても損はないのである。
「う~ん、始めるなら何がいいんでしょう? 今はサハリアに向けて、ほぼ毎日、結構な距離を歩いてますよね?」
「レイもまだ小さいし、割とゆったりなペースで進んでるよ」
「!? そうだったんですね!?」
むむむっと、レイは腕を組んで顔を顰めた。
(……あれ? もしかして、私って足手まとい??)
これは冒険者パーティーのメンバーとして、由々しき問題である。
「それなら、私がレイに剣技を教えます。せっかくショートソードを持ってるのです。魔術だけじゃなく、もっと剣も扱えるようになりましょう」
「聖剣からの剣術指導!? 俺も受けたい!!」
レイが返事をするよりも早く、ダズが大きく手を挙げて反応した。
歴代剣聖の剣技を扱えるレヴィから、剣の指導を直接受けられるなど、滅多にないチャンスだ。
結局、毎日、朝晩三十分から一時間ほど、レヴィから剣術を教わることになった。
生徒は、レイとダズと時々カタリーナだ。
***
「「よろしくお願いします!!」」
ひんやりと空気が澄んだ早朝、レイとダズの気合が入った声が響いた。
(なんだか運動部の部活動みたい!)
レイの心は、懐かしい雰囲気に弾んでいた。
本日は剣術指導初日。天気は快晴である。
「ダズは、今朝は私と模擬試合です。課題点を探っていきましょう」
「はいっ! よろしくお願いします!!」
ダズは瞳をキラキラさせて、少年のようにはしゃいだ声を張り上げた。
「レイは素振りです。体力と、剣を振るのに必要な筋力、正しいフォームを身につけます」
「……素振り……」
逆に、レイは肩透かしを食らった。
レヴィは、レイに剣の持ち方や素振りのフォームを教えると、「止め」と言うまで素振りを続けるよう指示を出した。
レイはレヴィに教えて貰った通りにステップを踏みつつ、素振りを始めた。
(うぐっ……意外と難しいかも)
始めは手も足もバラバラと思うように動かなかったが、何回か剣を振るうちにだんだんと素振りに慣れてきた。
ある程度形になってきたかも、とレイが思い始めた頃には、今度は体力の限界がきた。剣を振る度に、体幹がブレ、剣筋もブレる。
「そこまでです」
「……ぷはぁっ!」
レイは剣と両腕を下げ、ふぅーっと、肩から大きく息を吐いた。
「う~ん、まずは体力ですね」
「……十分と持たなかったな」
ダズが、レイの体力不足っぷりに、呆れた表情で彼女を見つめた。
「レヴィが教えてくれた素振りは、全身を使います……?」
「ええ、体の軸がしっかりしていないと、良い剣は振れませんからね。慣れれば無駄な力も入らずに、疲れづらくなります……少し休んだら再開ですね」
「……はい……」
レイは近くにあった切り株に座り込むと、魔術で水を出してゴクゴクと飲んだ。
(……素振りだけなのに、想像以上にハードかも……)
体幹から丸ごと使っているようで、正しいフォームをとること自体がまずきついのだ。
レイが休んでいると、レヴィとダズが、空き地で模擬試合を始めていた。
木刀をカンカンと打ち合う乾いた音が鳴り響く。
レヴィが攻撃を繰り出して、ダズがそれを木刀で受けているようだ。
始めのうちは、ダズは器用に受け流していたが、だんだんと切迫詰まった表情になっていった。
レイがはたから見ていても、二人の剣速が徐々に上がっていっているのが分かった。
最後に、ダズの横腹にレヴィの木刀が横なぎに入り、ダズは勢いよく吹き飛ばされた。
「いってぇ……」
「力強くて良い剣ですね。一撃一撃に重みがあります。真っ直ぐな剣筋です。ただその分、小技を丁寧に使ってくるような相手は苦手でしょう。大振りになりやすく、脇も甘いですし、そこを突かれます。読み合いも苦手ですね」
「うぐっ……やっぱりそうか。他の指南役にも、同じようなことを言われたことがある」
ダズは脇腹を押さえつつ、苦い顔で地面にへたりこんでいた。
レイは、へぇ、と感心して二人を眺めていた。
「そういえば、レイは歴代剣聖の剣技は使えるのか? レヴィは使えるんだろ? どうなんだ?」
ダズの素朴な疑問に、レイとレヴィは揃って顔を彼に向けた。
「そうですね。人間は体力がすぐにはつかないようですし、型だけでも、歴代のご主人様のものを使って慣れておくのは良いことですね」
「……でも、そんなことで口寄せ魔術を使ったら、次の日は筋肉痛が……」
レイは、翌日のベッドの住人生活を思い、表情を曇らせた。
「そんなことができるのか!? レイ、絶対、歴代剣聖の型を先に覚える方をおすすめするぜ! レイは成長期だし、体力は自然とこれからどんどんついていくだろう? でも、型は間違えて、直されて、少しずつ身体で覚えて自分のものにしていくもんなんだ。下手すれば、変な癖もついちまう。それが、始めから正しい型を覚えられるなら、そっちの方が断然上達が早いだろ!」
ダズがパッとレイの方を振り向いて、勢いよく喋り出した。剣の先輩からの、実感のこもったアドバイスだ。
「レイ、ダズの言う通り、少しずつ口寄せで以前のご主人様の型を覚えましょうか。体力は剣を振っているうちに、少しずつ付いていくでしょう」
レヴィがしかりと頷いた。
「えぇぇえぇぇ……」
「大丈夫です、少しずついきましょう」
(うぅ……明日は筋肉痛かも……)
レイは、明日の筋肉痛を覚悟した。Noとは言えない日本人なのであった。
***
「まず、どのご主人様を口寄せするかですね」
「剣聖を選べるのか? 贅沢すぎだろ」
ダズが目を丸くしつつ、「羨ましすぎる」と呟いた。
「まず、おすすめしないのは、種族が違うご主人様と、八代目、十三代目と十四代目のご主人様です」
「種族が違えば、そもそもの体のつくりが違うから分かるが、八代目と十三、十四代目はどう違うんだ?」
ダズがいつの間にか、レヴィの講義に聞き入っていた。
「……フォレストエイプ……」
レイが遠い目をして、ぼそりと呟いた。
レヴィが以前見せてくれた、歴代剣聖の姿——フォレストエイプ、レイの元の世界でいうゴリラのような、筋骨隆々とした大柄の男性たちの姿が、レイの頭の片隅をよぎっていった。
「あん?」
ダズが不思議そうに聞き返した。
「そうです。彼らは、その有り余る筋力と体力を最大限に利用した剣技が、とにかく強かったのです。『力こそパゥワー』がご主人様たちの口癖でした……」
レヴィが珍しく、少しだけ悲しげにブラウンの瞳を伏せた。——彼らは力が強すぎて、レヴィの扱いが雑だったのだ。あまり思い出したくはなかったのだろう。
「それなら、今のレイにはキツいな」
「……はい」
「それから、十一代目ご主人様の口寄せも控えてください。暗部だったご主人様は、とにかく生き残ることが正義でした。任務を遂行することと、生き残ること、それを何よりも大切にされてました。なので、この前のように襲撃から命を守りたいなら、まずは十一代目ご主人様を口寄せするのが良いと思います。ただ、今回のように型を学びたいなら、別のご主人様の方が良いでしょう」
「暗部の剣聖……」
ダズが、ゴクリと喉を鳴らした。
「そんなのに狙われたら、それこそ命がねぇな……レイが暗部じゃなくて良かったぜ」
「……うん」
レイは少しだけ顔色を悪くして、頷いた。
(……あの時、あの剣聖は、敵を「機械的に処理した」って感じだった……それにあの時、頭の中に響いてた声は、たぶん、十一代目剣聖のものだと思う……)
レイは、聖鳳教会での襲撃を思い出していた。
襲撃者に対して、「効率的に処理する」といった機械的で冷たい感じの剣技だった。それでいて、全ての動作から無駄が一切省かれた機能美すら感じられるものだった。
「それなら、誰ならいいんだ?」
ダズがレイの代わりに、興味津々といった感じでレヴィに質問していた。
「今、私が姿をお借りしている十七代目ご主人様ですね。彼は基礎をとても重視されてました。型も正確で、今のレイにピッタリだと思います。まずはやってみましょうか」
レヴィは、容赦なく、にこりと笑った。
***
「全っ然、違うな!! 口寄せで、こんなにも変わるものなのか!?」
レイが口寄せ魔術で十七代目剣聖を呼び起こし、素振りを始めると、ダズは驚愕の表情で彼女を見つめた。
その剣筋は、ただの素振りだというのに、凛とした気迫が伝わってくるようで、非常に正確だった。
ヒュンッと空を切る音でさえ、澄んでいた。
「あれ? こっちの方が、そんなに辛くない??」
「ええ。正確で美しい型は、負担が少ないのです。レイはしばらくの間、口寄せ魔術で、十七代目ご主人様の型を覚えることに集中しましょうか」
「はいっ!」
こうして、レイたちは、毎日剣の修練を行うことになった。
「レイも剣の腕を鍛えましょう! 体力もつきますよ!」
「……レヴィ、急にどうしたの?」
レヴィが真面目な顔で、レイの目を見つめて提案してきた。
次の街へ向かう途中、昼の小休憩の時だった。
「レイは以前、スリングショットで筋肉痛になったので、さすがに鍛えた方が良いと……ルーファスが言ってました」
「ぶふっ!! レヴィ! そういう時は、僕のことは言わなくていいんだよ!」
ルーファスは突然の証言に、飲みかけの水を噴き出した。
レイは残念な子を見るような視線で、ルーファスを見つめた。
「あたしも、ルーファスに同意だね。体力の無い魔術師ほど足を引っ張るものはないからね。上位ランクの冒険者ほど、職業に関わらず体力はあるもんだよ。体力があるおかげで生き残れることも多いしさ」
カタリーナは、からりと言い放った。
冒険者として経験豊富なカタリーナに言われると、非常に説得力があった。
「体力をつけることでレイの命を守れるなら、その方がいいと思うよ」
ルーファスもやんわりと、カタリーナの意見に賛成した。
「確かに、そうですよね……」
現代日本で生きてきたレイは、それはもう、運動不足だった。
こちらの世界に来て、以前に比べてかなり動くようになり、冒険者も始めてだいぶ体力や筋力が付いてきているとは思ってはいたのだが……
(……まだまだ足りないみたい……)
こちらの世界では交通網が発達していないため、自分の足で歩いて行くのが基本なのだ。未開の地も多く、魔物も跋扈しているため、力や体力がいくらあっても損はないのである。
「う~ん、始めるなら何がいいんでしょう? 今はサハリアに向けて、ほぼ毎日、結構な距離を歩いてますよね?」
「レイもまだ小さいし、割とゆったりなペースで進んでるよ」
「!? そうだったんですね!?」
むむむっと、レイは腕を組んで顔を顰めた。
(……あれ? もしかして、私って足手まとい??)
これは冒険者パーティーのメンバーとして、由々しき問題である。
「それなら、私がレイに剣技を教えます。せっかくショートソードを持ってるのです。魔術だけじゃなく、もっと剣も扱えるようになりましょう」
「聖剣からの剣術指導!? 俺も受けたい!!」
レイが返事をするよりも早く、ダズが大きく手を挙げて反応した。
歴代剣聖の剣技を扱えるレヴィから、剣の指導を直接受けられるなど、滅多にないチャンスだ。
結局、毎日、朝晩三十分から一時間ほど、レヴィから剣術を教わることになった。
生徒は、レイとダズと時々カタリーナだ。
***
「「よろしくお願いします!!」」
ひんやりと空気が澄んだ早朝、レイとダズの気合が入った声が響いた。
(なんだか運動部の部活動みたい!)
レイの心は、懐かしい雰囲気に弾んでいた。
本日は剣術指導初日。天気は快晴である。
「ダズは、今朝は私と模擬試合です。課題点を探っていきましょう」
「はいっ! よろしくお願いします!!」
ダズは瞳をキラキラさせて、少年のようにはしゃいだ声を張り上げた。
「レイは素振りです。体力と、剣を振るのに必要な筋力、正しいフォームを身につけます」
「……素振り……」
逆に、レイは肩透かしを食らった。
レヴィは、レイに剣の持ち方や素振りのフォームを教えると、「止め」と言うまで素振りを続けるよう指示を出した。
レイはレヴィに教えて貰った通りにステップを踏みつつ、素振りを始めた。
(うぐっ……意外と難しいかも)
始めは手も足もバラバラと思うように動かなかったが、何回か剣を振るうちにだんだんと素振りに慣れてきた。
ある程度形になってきたかも、とレイが思い始めた頃には、今度は体力の限界がきた。剣を振る度に、体幹がブレ、剣筋もブレる。
「そこまでです」
「……ぷはぁっ!」
レイは剣と両腕を下げ、ふぅーっと、肩から大きく息を吐いた。
「う~ん、まずは体力ですね」
「……十分と持たなかったな」
ダズが、レイの体力不足っぷりに、呆れた表情で彼女を見つめた。
「レヴィが教えてくれた素振りは、全身を使います……?」
「ええ、体の軸がしっかりしていないと、良い剣は振れませんからね。慣れれば無駄な力も入らずに、疲れづらくなります……少し休んだら再開ですね」
「……はい……」
レイは近くにあった切り株に座り込むと、魔術で水を出してゴクゴクと飲んだ。
(……素振りだけなのに、想像以上にハードかも……)
体幹から丸ごと使っているようで、正しいフォームをとること自体がまずきついのだ。
レイが休んでいると、レヴィとダズが、空き地で模擬試合を始めていた。
木刀をカンカンと打ち合う乾いた音が鳴り響く。
レヴィが攻撃を繰り出して、ダズがそれを木刀で受けているようだ。
始めのうちは、ダズは器用に受け流していたが、だんだんと切迫詰まった表情になっていった。
レイがはたから見ていても、二人の剣速が徐々に上がっていっているのが分かった。
最後に、ダズの横腹にレヴィの木刀が横なぎに入り、ダズは勢いよく吹き飛ばされた。
「いってぇ……」
「力強くて良い剣ですね。一撃一撃に重みがあります。真っ直ぐな剣筋です。ただその分、小技を丁寧に使ってくるような相手は苦手でしょう。大振りになりやすく、脇も甘いですし、そこを突かれます。読み合いも苦手ですね」
「うぐっ……やっぱりそうか。他の指南役にも、同じようなことを言われたことがある」
ダズは脇腹を押さえつつ、苦い顔で地面にへたりこんでいた。
レイは、へぇ、と感心して二人を眺めていた。
「そういえば、レイは歴代剣聖の剣技は使えるのか? レヴィは使えるんだろ? どうなんだ?」
ダズの素朴な疑問に、レイとレヴィは揃って顔を彼に向けた。
「そうですね。人間は体力がすぐにはつかないようですし、型だけでも、歴代のご主人様のものを使って慣れておくのは良いことですね」
「……でも、そんなことで口寄せ魔術を使ったら、次の日は筋肉痛が……」
レイは、翌日のベッドの住人生活を思い、表情を曇らせた。
「そんなことができるのか!? レイ、絶対、歴代剣聖の型を先に覚える方をおすすめするぜ! レイは成長期だし、体力は自然とこれからどんどんついていくだろう? でも、型は間違えて、直されて、少しずつ身体で覚えて自分のものにしていくもんなんだ。下手すれば、変な癖もついちまう。それが、始めから正しい型を覚えられるなら、そっちの方が断然上達が早いだろ!」
ダズがパッとレイの方を振り向いて、勢いよく喋り出した。剣の先輩からの、実感のこもったアドバイスだ。
「レイ、ダズの言う通り、少しずつ口寄せで以前のご主人様の型を覚えましょうか。体力は剣を振っているうちに、少しずつ付いていくでしょう」
レヴィがしかりと頷いた。
「えぇぇえぇぇ……」
「大丈夫です、少しずついきましょう」
(うぅ……明日は筋肉痛かも……)
レイは、明日の筋肉痛を覚悟した。Noとは言えない日本人なのであった。
***
「まず、どのご主人様を口寄せするかですね」
「剣聖を選べるのか? 贅沢すぎだろ」
ダズが目を丸くしつつ、「羨ましすぎる」と呟いた。
「まず、おすすめしないのは、種族が違うご主人様と、八代目、十三代目と十四代目のご主人様です」
「種族が違えば、そもそもの体のつくりが違うから分かるが、八代目と十三、十四代目はどう違うんだ?」
ダズがいつの間にか、レヴィの講義に聞き入っていた。
「……フォレストエイプ……」
レイが遠い目をして、ぼそりと呟いた。
レヴィが以前見せてくれた、歴代剣聖の姿——フォレストエイプ、レイの元の世界でいうゴリラのような、筋骨隆々とした大柄の男性たちの姿が、レイの頭の片隅をよぎっていった。
「あん?」
ダズが不思議そうに聞き返した。
「そうです。彼らは、その有り余る筋力と体力を最大限に利用した剣技が、とにかく強かったのです。『力こそパゥワー』がご主人様たちの口癖でした……」
レヴィが珍しく、少しだけ悲しげにブラウンの瞳を伏せた。——彼らは力が強すぎて、レヴィの扱いが雑だったのだ。あまり思い出したくはなかったのだろう。
「それなら、今のレイにはキツいな」
「……はい」
「それから、十一代目ご主人様の口寄せも控えてください。暗部だったご主人様は、とにかく生き残ることが正義でした。任務を遂行することと、生き残ること、それを何よりも大切にされてました。なので、この前のように襲撃から命を守りたいなら、まずは十一代目ご主人様を口寄せするのが良いと思います。ただ、今回のように型を学びたいなら、別のご主人様の方が良いでしょう」
「暗部の剣聖……」
ダズが、ゴクリと喉を鳴らした。
「そんなのに狙われたら、それこそ命がねぇな……レイが暗部じゃなくて良かったぜ」
「……うん」
レイは少しだけ顔色を悪くして、頷いた。
(……あの時、あの剣聖は、敵を「機械的に処理した」って感じだった……それにあの時、頭の中に響いてた声は、たぶん、十一代目剣聖のものだと思う……)
レイは、聖鳳教会での襲撃を思い出していた。
襲撃者に対して、「効率的に処理する」といった機械的で冷たい感じの剣技だった。それでいて、全ての動作から無駄が一切省かれた機能美すら感じられるものだった。
「それなら、誰ならいいんだ?」
ダズがレイの代わりに、興味津々といった感じでレヴィに質問していた。
「今、私が姿をお借りしている十七代目ご主人様ですね。彼は基礎をとても重視されてました。型も正確で、今のレイにピッタリだと思います。まずはやってみましょうか」
レヴィは、容赦なく、にこりと笑った。
***
「全っ然、違うな!! 口寄せで、こんなにも変わるものなのか!?」
レイが口寄せ魔術で十七代目剣聖を呼び起こし、素振りを始めると、ダズは驚愕の表情で彼女を見つめた。
その剣筋は、ただの素振りだというのに、凛とした気迫が伝わってくるようで、非常に正確だった。
ヒュンッと空を切る音でさえ、澄んでいた。
「あれ? こっちの方が、そんなに辛くない??」
「ええ。正確で美しい型は、負担が少ないのです。レイはしばらくの間、口寄せ魔術で、十七代目ご主人様の型を覚えることに集中しましょうか」
「はいっ!」
こうして、レイたちは、毎日剣の修練を行うことになった。
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