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レイの内職7〜ご褒美〜
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「ニール!」
レイは、曲がり角からひょっこりと顔を出して、バレット邸の主人に声をかけた。
ニールはここ数日、仕事で外出していることが多く、今日も少し疲れたような顔をしていた。
だが、レイを見つけると、ほっと安心したように、目尻に皺を寄せて愛おしげに微笑んだ。
「レイ、どうしたんだ?」
「スクロールの課題の調べものが終わったので、相談しに来ました」
「早いな。もう少しかかるかと思ってたよ」
ニールはレイを書斎に案内すると、応接スペースのソファに座らせた。
メイドを呼んで、すぐにお茶を出すよう指示も出す。
レイも空間収納からメモ帳を取り出して、準備をしていた。
子猫サイズの琥珀も、ぴょこんとソファの上にあがって、レイの近くにごろりと寝そべった。
二人分のアイスティーがテーブルに並べられ、メイドが下がって行くと、レイは口を開いた。
「ユグドラの図書館の方にも探しに行ったんですけど……」
「それで、見つかったのか?」
「はい! やり方は二つあって、『転移魔術に影響しない属性の魔術を追加して防御する』のと『呪い返しを応用したトラップを仕掛ける』です」
「属性の追加と呪い返しか……まぁ、それなら確かに転移魔術を損なわずに、外部からの魔術攻撃を防げるか……」
ニールが、考え込むように小さく唸った。
「転移魔術自体に聖属性を追加すれば、術に干渉する系の魔術を無効にしたり、跳ね返すことができるな。呪い返しも同じか……ただ、これを仕込める魔術師はかなり限られてくるな」
ニールは腕を組み、スラスラと考えを口にした。
「でも、私なら両方いけますよ!」
レイは小さな胸を張ると、頼もしげにトンと拳で叩いた。
「レイは頼りになるな。それで、スクロールまで作れそうかな?」
ニールが穏やかに尋ねる。その目元は、面白がるように細められていた。
「ゔっ……練習をすれば、たぶん……でも、全属性に適性があるので、どっちのやり方でもいけるはずです」
レイは、自身なさそうに言葉を詰まらせた。
「そうだな……今回のスクロールは俺が作ろう。スクロールは魔術陣を描くから、単純に魔術を発動させることとは別の能力が必要なんだ」
「あ、確かに」
レイは、術符を作った時のことを思い出した。均等に、多すぎず少なすぎない魔力を込めながら複雑な魔術陣を描いていく作業は、非常に集中力が必要で、レイは何度も失敗したのだ。
(転移魔術のスクロールは材料費も結構かかるし、失敗したら商会にも迷惑がかかるかも……)
レイは冷静に考え直した。自分にできることが増えるのは楽しみだが、今無理を通す必要はどこにもなかった。
「う~ん、もっとスクロール作りに慣れてからの方がいいですね……」
「そうだな」
レイがキッパリ諦めると、ニールはくすりと微笑んだ。
「そういえば明後日だったな、ウィルが迎えに来るのは」
ニールはアイスティーで軽く喉を潤すと、ぽつりと言った。
「ニールはサーペントの王様のことは知ってるんですか?」
「直接は知らないな。噂だけは聞いたことがある。特に古い魔物の一体だな」
「じゃあ、どんな魔物なのかも、あまり詳しくはないですよね~」
レイは残念そうに少し肩を落とした。
明後日会いに行くのは、強力な魔物なのだ。自分の身の安全のためにも、何でもいいので情報が欲しかった。
「噂ではサーペントの王は、老獪かつファンキーだそうだ」
「ふぁんきー???」
ニールの思いがけない言葉に、レイはこてんと首を傾げた。
「それから、『星詠みの祖』とも呼ばれている」
「えぇっ!? 占い師なんですか?」
「そうらしいが、あくまでも噂だ。百年ほど前に封印されたから、事実かどうかはよく分からない」
(老獪でファンキーで占い師???)
レイの中で、サーペントの王のイメージがカオスになっていた。思わず渋い表情になる。
「そういえば、レイにお土産があるんだ」
「ほえ? お土産ですか?」
(何だろ? ニールもどこか遠くに行ってたのかな?)
レイはきょとんと訊き返した。
「毛皮の魔術付与といい、調べものといい、最近立て続けに手伝ってもらったからな。そのお礼だ」
ニールは、空間収納から白い箱を取り出した。
箱の蓋を開けると、ホールケーキが出てきた。てっぺんがこんがりと狐色になったチーズケーキだ。
「わぁ! おいしそう!」
レイは瞳を輝かせた。
「他にもこういうのがあるよ」
ニールはさらに、ドライフルーツが入ったチーズを空間収納から取り出した。
「こっちには何が入ってるんですか?」
「チーズにドライフルーツが入ってるんだ。レーズンとあんずとベリーが入ってるらしい」
「こっちもおいしそうですね!」
レイは期待に胸を膨らませて、ニールの方を見た。
キラッキラの瞳に見つめられ、ニールは苦笑しながらメイドを呼んだ。
チーズケーキとドライフルーツ入りのチーズを取り分けさせる。
「! おいふぃです! すっごいクリーミーで濃厚ですね! それにしっとりなめらかです!」
レイはチーズケーキを一口食べて、満面の笑みで答えた。
「こっちのドライフルーツ入りのチーズもいいな。塩加減と甘味がちょうどいい。酒のつまみにもデザートにも良さそうだ」
ニールも薄く切り分けられたチーズを一口食べて、ニッと口角を上げた。
「どこに行って来たんですか?」
「ドラゴニア南西部だな。酪農で有名なところだ」
「そうなんですね~。こんなにおいしいものがいっぱい食べられるなんて、素敵なところですね!」
「そうだな」
レイはにっこりと微笑んで、また一口、ぱくりとチーズケーキを食べた。
ニールも、レイの嬉しそうな様子を見て、頬を緩めていた。
(ニールのお手伝い、頑張って良かった~!)
レイはほくほくした想いで、二個目のチーズケーキを頬張った。
レイは、曲がり角からひょっこりと顔を出して、バレット邸の主人に声をかけた。
ニールはここ数日、仕事で外出していることが多く、今日も少し疲れたような顔をしていた。
だが、レイを見つけると、ほっと安心したように、目尻に皺を寄せて愛おしげに微笑んだ。
「レイ、どうしたんだ?」
「スクロールの課題の調べものが終わったので、相談しに来ました」
「早いな。もう少しかかるかと思ってたよ」
ニールはレイを書斎に案内すると、応接スペースのソファに座らせた。
メイドを呼んで、すぐにお茶を出すよう指示も出す。
レイも空間収納からメモ帳を取り出して、準備をしていた。
子猫サイズの琥珀も、ぴょこんとソファの上にあがって、レイの近くにごろりと寝そべった。
二人分のアイスティーがテーブルに並べられ、メイドが下がって行くと、レイは口を開いた。
「ユグドラの図書館の方にも探しに行ったんですけど……」
「それで、見つかったのか?」
「はい! やり方は二つあって、『転移魔術に影響しない属性の魔術を追加して防御する』のと『呪い返しを応用したトラップを仕掛ける』です」
「属性の追加と呪い返しか……まぁ、それなら確かに転移魔術を損なわずに、外部からの魔術攻撃を防げるか……」
ニールが、考え込むように小さく唸った。
「転移魔術自体に聖属性を追加すれば、術に干渉する系の魔術を無効にしたり、跳ね返すことができるな。呪い返しも同じか……ただ、これを仕込める魔術師はかなり限られてくるな」
ニールは腕を組み、スラスラと考えを口にした。
「でも、私なら両方いけますよ!」
レイは小さな胸を張ると、頼もしげにトンと拳で叩いた。
「レイは頼りになるな。それで、スクロールまで作れそうかな?」
ニールが穏やかに尋ねる。その目元は、面白がるように細められていた。
「ゔっ……練習をすれば、たぶん……でも、全属性に適性があるので、どっちのやり方でもいけるはずです」
レイは、自身なさそうに言葉を詰まらせた。
「そうだな……今回のスクロールは俺が作ろう。スクロールは魔術陣を描くから、単純に魔術を発動させることとは別の能力が必要なんだ」
「あ、確かに」
レイは、術符を作った時のことを思い出した。均等に、多すぎず少なすぎない魔力を込めながら複雑な魔術陣を描いていく作業は、非常に集中力が必要で、レイは何度も失敗したのだ。
(転移魔術のスクロールは材料費も結構かかるし、失敗したら商会にも迷惑がかかるかも……)
レイは冷静に考え直した。自分にできることが増えるのは楽しみだが、今無理を通す必要はどこにもなかった。
「う~ん、もっとスクロール作りに慣れてからの方がいいですね……」
「そうだな」
レイがキッパリ諦めると、ニールはくすりと微笑んだ。
「そういえば明後日だったな、ウィルが迎えに来るのは」
ニールはアイスティーで軽く喉を潤すと、ぽつりと言った。
「ニールはサーペントの王様のことは知ってるんですか?」
「直接は知らないな。噂だけは聞いたことがある。特に古い魔物の一体だな」
「じゃあ、どんな魔物なのかも、あまり詳しくはないですよね~」
レイは残念そうに少し肩を落とした。
明後日会いに行くのは、強力な魔物なのだ。自分の身の安全のためにも、何でもいいので情報が欲しかった。
「噂ではサーペントの王は、老獪かつファンキーだそうだ」
「ふぁんきー???」
ニールの思いがけない言葉に、レイはこてんと首を傾げた。
「それから、『星詠みの祖』とも呼ばれている」
「えぇっ!? 占い師なんですか?」
「そうらしいが、あくまでも噂だ。百年ほど前に封印されたから、事実かどうかはよく分からない」
(老獪でファンキーで占い師???)
レイの中で、サーペントの王のイメージがカオスになっていた。思わず渋い表情になる。
「そういえば、レイにお土産があるんだ」
「ほえ? お土産ですか?」
(何だろ? ニールもどこか遠くに行ってたのかな?)
レイはきょとんと訊き返した。
「毛皮の魔術付与といい、調べものといい、最近立て続けに手伝ってもらったからな。そのお礼だ」
ニールは、空間収納から白い箱を取り出した。
箱の蓋を開けると、ホールケーキが出てきた。てっぺんがこんがりと狐色になったチーズケーキだ。
「わぁ! おいしそう!」
レイは瞳を輝かせた。
「他にもこういうのがあるよ」
ニールはさらに、ドライフルーツが入ったチーズを空間収納から取り出した。
「こっちには何が入ってるんですか?」
「チーズにドライフルーツが入ってるんだ。レーズンとあんずとベリーが入ってるらしい」
「こっちもおいしそうですね!」
レイは期待に胸を膨らませて、ニールの方を見た。
キラッキラの瞳に見つめられ、ニールは苦笑しながらメイドを呼んだ。
チーズケーキとドライフルーツ入りのチーズを取り分けさせる。
「! おいふぃです! すっごいクリーミーで濃厚ですね! それにしっとりなめらかです!」
レイはチーズケーキを一口食べて、満面の笑みで答えた。
「こっちのドライフルーツ入りのチーズもいいな。塩加減と甘味がちょうどいい。酒のつまみにもデザートにも良さそうだ」
ニールも薄く切り分けられたチーズを一口食べて、ニッと口角を上げた。
「どこに行って来たんですか?」
「ドラゴニア南西部だな。酪農で有名なところだ」
「そうなんですね~。こんなにおいしいものがいっぱい食べられるなんて、素敵なところですね!」
「そうだな」
レイはにっこりと微笑んで、また一口、ぱくりとチーズケーキを食べた。
ニールも、レイの嬉しそうな様子を見て、頬を緩めていた。
(ニールのお手伝い、頑張って良かった~!)
レイはほくほくした想いで、二個目のチーズケーキを頬張った。
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