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第四章 ウォーグラフト領
反省会
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意識が浮上してきて、ゆるゆると目を開ける。まだ少しまどろんでいたいような、怠いような……でも、背中とか固い所が当たってちょっと痛い……うん? 固い? ここ、どこ?
疑問に思った瞬間、バチッと一気に目が覚めた。
見慣れない天井が見える。俺は固い木製ベンチの上に横になって寝ていたようだ。おなかの上には、ベンチの上にあった毛布が掛けられていた。
「あれ? 俺、どのくらい寝てました?」
「一時間くらいですよ」
俺が確認すると、ウィリアムさんがさっくり教えてくれた。
ウィリアムさんは、俺とは別のベンチに腰かけていた。
起き上がろうとすると、ベンチに当たっていた腕や背中は痛んだけど、魔力切れが原因の頭痛の方はすっかりおさまっていた。
「顔色は良さそうですね。大丈夫ですか?」
「平気そうです。頭痛も治りました」
ウィリアムさんに訊かれ、俺は大丈夫だと伝えるように、にかっと笑ってみせた。
その時、控え室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ウィリアムさんが答えると、グラントさんが扉から顔を覗かせた。
「ノア、大丈夫そうか?」
グラントさんが心配そうに尋ねてきた。様子を見に来てくれたみたいだ。
「少し休んだらスッキリしました。大丈夫そうです」
「そうか。初めての慰問で張り切る気持ちも分かるが、無茶はするなよ。これからまだまだ他の教会も回るんだ。ノアが倒れたら困るぞ」
「はい……」
確かにそうだよな……さっきは考えも無しにエリアヒールをかけちゃったけど、俺が無理して倒れたりしたら、周りにも迷惑がかかるし、今後の慰問の予定にも影響しちゃうよな。
「負担の大きいエリアヒールはダメだが、リリアンたちの方を手伝いに行くか?」
グラントさんが少し呆れたように息を吐きつつ、訊いてきた。
「行きます!」
すっかり魔力も戻ってるし、少し休んでスッキリしたから、まだ手伝えるはずだ。
俺はハッキリと頷いた。
***
アンボス支部の聖堂は、白壁に青いステンドグラスがはめられていて、とても綺麗な建物だ。
王都の教会と同じように聖堂の中には、神々の像や説教台のほか、信徒たちが座るための長椅子が置かれていた。
ただ、今は軽傷者向けの臨時の治療所が開かれているためか、聖堂の端の方にはまるで治療院のような怪我人の行列ができていた。
アンボス支部所属の神官や聖女に混じって、リリアンとエラも治療を行なっていた。
グラントさんと俺は二人の所へ近づいて行った。
「ノア、もう大丈夫なの?」
患者さんの治療が終わって、リリアンが顔を上げた。今まで治療に集中していたようで、少し疲れたようにふぅっと息を吐いていた。
「うん。少し休ませてもらったから、大丈夫だよ。交代しようか?」
「ええ、お願いするわ」
俺とグラントさんは、リリアンとエラと交代することにした。
「次の方~」
俺は診察席に座ると、次の患者さんを呼んだ。
俺の向かいの席には、両脚のズボンの裾をめくったおじさんが座った。おじさんの脚には、派手に打ち身やすり傷、切り傷ができていた。
「おや? 見かけない先生だな」
「ええ。王都から応援に参りました」
「そうか、よろしく頼む。瓦礫撤去の作業をしてて滑っちまったんだ」
俺はしゃがみ込んでおじさんの脚を見た。どうやら、教会に来るまでに一応傷口は洗ってあるみたいだった。
「滑ったって、脚だけですか?」
「腰の方も打っちまったみたいなんだ」
「分かりました」
俺はたらいの水をもらうと、一度患部を綺麗に洗った。そして、患部をさらりと撫でた。
痣ができて変色していた部分も、脚にぱっくり入っていた傷も綺麗に消えていった。
「っ!!?」
おじさんは驚きすぎて自分の脚を二度見した。
「じゃあ、次は腰の方ですね」
「せっ、先生!? 今のは!?」
「大丈夫ですよ、治ってますよ」
「いや、そうなんだが……!」
おじさんは慌ててたけど、俺はさっさとおじさんの腰にポンッと手を当てて治癒魔術をかけた。
次の患者さんが待たせてるし、早くしないとな。
「これで治療は終わりですよ」
「へっ??? 今ので?」
「ええ。立って確かめてみてください」
「いくらなんでも早すぎるだろ…………!!?」
おじさんは席から立つと、腰を捻ったり、打ち身になっていたであろう部分を手で押したりしていた。
「……な、治ってる……!?」
おじさんがびっくりしすぎて大声をあげた。
列に並んでいた患者さんたちが「なんだ、なんだ?」とざわめき始めた。
「これが聖者様の治癒魔術……」
「無詠唱だったわね」
「すごい……傷を治すのが早すぎるわ」
俺の後ろには、いつの間にがアンボス支部の神官や聖女たちが見学していた。
そんな彼らのヒソヒソ話を聞きつけた患者さんたちが、「えっ、聖者様!?」「聖者様に治療してもらえるのか!?」とざわざわと騒ぎ始めた。
「この列は聖者様の治療の列です。治療を受ける方は順番に並んでくださーい!」
騒ぎを見かねたグラントさんが、一旦治療の手を止めてアナウンスしてくれた。
「お、俺も聖者様に治療してもらいてぇ!」
「せっかくだもの、私も!」
俺の治療の列には、どんどん人だかりができていった。
俺は集中して患者さんたちの治療に当たった。
軽傷者向けの治療所ということもあるけど、本当にポンッと撫でるだけで治療が完了した。
あまりにも治療が早すぎて、どの患者さんもびっくりしていたし、俺の後ろで見学していたアンボス支部の神官や聖女たちも「どうなってるんだ!?」と驚きの声をあげていた。
一通り俺の列の治療が終わる頃には、夕方に差し掛かっていた。
聖堂の青いステンドグラスからは、オレンジ色がかったあたたかい絶妙な色の光が差し込んでいた。
***
軽い夕食をとった後、俺たちは治癒院の控え室を貸してもらった──今日の反省会と明日以降の予定を確認するらしい。
参加者は、グラントさん、俺、リリアン、エラ、ウィリアムさん、それから護衛の聖騎士たちだ。
光属性のドワーフ神官たちは、アンボスの街の魔道電灯の復興から戻って来てなかった。このままこの街で復興を手伝うらしい。
「今日の反省会を始めるぞ」
全員がベンチに座ったのを確認すると、グラントさんが口火を切った。
「まずはノア。初めての慰問はどうだった?」
「治癒院のあまりに悲惨な状況にびっくりしちゃって……気づいたらエリアヒールを使ってました……」
「そうだな、予定にないエリアヒールは今後控えてくれ。ノアが魔力切れでぶっ倒れたら、いろいろ予定が狂ってくるからな。今回の慰問のメインは、聖者のノアなんだ。滅多に会えない聖者を一目見たくて集まって来る人も多い。それが、決まった休憩時間でもないのに魔力切れで皆の前に顔を出せないのでは、現地の人たちに悲しまれるぞ」
「……はい、気をつけます……」
グラントさんにピシャリと言われて、俺は本当に申し訳ないなと思った。
そうだよな。慰問では治療することも大切だけど、俺があちこちに顔を出して、被災した人たちや彼らを支える教会関係者を励ましたり元気づけることが重要だもんな。
何より、いつもの治癒院での治療とは違って、大きな災害の後なんだから患者さんも桁違いだ──俺一人が頑張ったところで、すぐ魔力切れになるのがオチだ。一人で無理せず、もっと周りを頼らないとな……
「リリアンとエラも、ノアが無茶しすぎないよう気を配ってやってくれ。慰問は初めてだしな。慣れないことも多いだろう」
「「分かりました」」
グラントさんの言葉に、リリアンとエラが小さく頷いた。
その後は、それぞれが気づいた点なんかを出し合って、軽く話し合った。
「明日は領都にあるランサルド支部に移動ですね。どうやら領主様もいらっしゃるそうですよ」
「おそらく領主様は治療の様子を見学されるだろうな」
ウィリアムさんが明日のことを口にすると、グラントさんが相槌を打った。
領主様もいらっしゃるのか。なんか偉い人が来るとなると、すごく緊張するなぁ~
「とりあえず今日の反省会は以上だな。今日は初日だからな、疲れも溜まっているだろう。早めに休んでおくように」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
グラントさんの締めの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
反省会の後は、本日泊まる部屋に案内された。男女別で、ベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だった。
今日の疲れが出たのか、俺はベッドに横になると、すぐに眠りに落ちた。
疑問に思った瞬間、バチッと一気に目が覚めた。
見慣れない天井が見える。俺は固い木製ベンチの上に横になって寝ていたようだ。おなかの上には、ベンチの上にあった毛布が掛けられていた。
「あれ? 俺、どのくらい寝てました?」
「一時間くらいですよ」
俺が確認すると、ウィリアムさんがさっくり教えてくれた。
ウィリアムさんは、俺とは別のベンチに腰かけていた。
起き上がろうとすると、ベンチに当たっていた腕や背中は痛んだけど、魔力切れが原因の頭痛の方はすっかりおさまっていた。
「顔色は良さそうですね。大丈夫ですか?」
「平気そうです。頭痛も治りました」
ウィリアムさんに訊かれ、俺は大丈夫だと伝えるように、にかっと笑ってみせた。
その時、控え室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ウィリアムさんが答えると、グラントさんが扉から顔を覗かせた。
「ノア、大丈夫そうか?」
グラントさんが心配そうに尋ねてきた。様子を見に来てくれたみたいだ。
「少し休んだらスッキリしました。大丈夫そうです」
「そうか。初めての慰問で張り切る気持ちも分かるが、無茶はするなよ。これからまだまだ他の教会も回るんだ。ノアが倒れたら困るぞ」
「はい……」
確かにそうだよな……さっきは考えも無しにエリアヒールをかけちゃったけど、俺が無理して倒れたりしたら、周りにも迷惑がかかるし、今後の慰問の予定にも影響しちゃうよな。
「負担の大きいエリアヒールはダメだが、リリアンたちの方を手伝いに行くか?」
グラントさんが少し呆れたように息を吐きつつ、訊いてきた。
「行きます!」
すっかり魔力も戻ってるし、少し休んでスッキリしたから、まだ手伝えるはずだ。
俺はハッキリと頷いた。
***
アンボス支部の聖堂は、白壁に青いステンドグラスがはめられていて、とても綺麗な建物だ。
王都の教会と同じように聖堂の中には、神々の像や説教台のほか、信徒たちが座るための長椅子が置かれていた。
ただ、今は軽傷者向けの臨時の治療所が開かれているためか、聖堂の端の方にはまるで治療院のような怪我人の行列ができていた。
アンボス支部所属の神官や聖女に混じって、リリアンとエラも治療を行なっていた。
グラントさんと俺は二人の所へ近づいて行った。
「ノア、もう大丈夫なの?」
患者さんの治療が終わって、リリアンが顔を上げた。今まで治療に集中していたようで、少し疲れたようにふぅっと息を吐いていた。
「うん。少し休ませてもらったから、大丈夫だよ。交代しようか?」
「ええ、お願いするわ」
俺とグラントさんは、リリアンとエラと交代することにした。
「次の方~」
俺は診察席に座ると、次の患者さんを呼んだ。
俺の向かいの席には、両脚のズボンの裾をめくったおじさんが座った。おじさんの脚には、派手に打ち身やすり傷、切り傷ができていた。
「おや? 見かけない先生だな」
「ええ。王都から応援に参りました」
「そうか、よろしく頼む。瓦礫撤去の作業をしてて滑っちまったんだ」
俺はしゃがみ込んでおじさんの脚を見た。どうやら、教会に来るまでに一応傷口は洗ってあるみたいだった。
「滑ったって、脚だけですか?」
「腰の方も打っちまったみたいなんだ」
「分かりました」
俺はたらいの水をもらうと、一度患部を綺麗に洗った。そして、患部をさらりと撫でた。
痣ができて変色していた部分も、脚にぱっくり入っていた傷も綺麗に消えていった。
「っ!!?」
おじさんは驚きすぎて自分の脚を二度見した。
「じゃあ、次は腰の方ですね」
「せっ、先生!? 今のは!?」
「大丈夫ですよ、治ってますよ」
「いや、そうなんだが……!」
おじさんは慌ててたけど、俺はさっさとおじさんの腰にポンッと手を当てて治癒魔術をかけた。
次の患者さんが待たせてるし、早くしないとな。
「これで治療は終わりですよ」
「へっ??? 今ので?」
「ええ。立って確かめてみてください」
「いくらなんでも早すぎるだろ…………!!?」
おじさんは席から立つと、腰を捻ったり、打ち身になっていたであろう部分を手で押したりしていた。
「……な、治ってる……!?」
おじさんがびっくりしすぎて大声をあげた。
列に並んでいた患者さんたちが「なんだ、なんだ?」とざわめき始めた。
「これが聖者様の治癒魔術……」
「無詠唱だったわね」
「すごい……傷を治すのが早すぎるわ」
俺の後ろには、いつの間にがアンボス支部の神官や聖女たちが見学していた。
そんな彼らのヒソヒソ話を聞きつけた患者さんたちが、「えっ、聖者様!?」「聖者様に治療してもらえるのか!?」とざわざわと騒ぎ始めた。
「この列は聖者様の治療の列です。治療を受ける方は順番に並んでくださーい!」
騒ぎを見かねたグラントさんが、一旦治療の手を止めてアナウンスしてくれた。
「お、俺も聖者様に治療してもらいてぇ!」
「せっかくだもの、私も!」
俺の治療の列には、どんどん人だかりができていった。
俺は集中して患者さんたちの治療に当たった。
軽傷者向けの治療所ということもあるけど、本当にポンッと撫でるだけで治療が完了した。
あまりにも治療が早すぎて、どの患者さんもびっくりしていたし、俺の後ろで見学していたアンボス支部の神官や聖女たちも「どうなってるんだ!?」と驚きの声をあげていた。
一通り俺の列の治療が終わる頃には、夕方に差し掛かっていた。
聖堂の青いステンドグラスからは、オレンジ色がかったあたたかい絶妙な色の光が差し込んでいた。
***
軽い夕食をとった後、俺たちは治癒院の控え室を貸してもらった──今日の反省会と明日以降の予定を確認するらしい。
参加者は、グラントさん、俺、リリアン、エラ、ウィリアムさん、それから護衛の聖騎士たちだ。
光属性のドワーフ神官たちは、アンボスの街の魔道電灯の復興から戻って来てなかった。このままこの街で復興を手伝うらしい。
「今日の反省会を始めるぞ」
全員がベンチに座ったのを確認すると、グラントさんが口火を切った。
「まずはノア。初めての慰問はどうだった?」
「治癒院のあまりに悲惨な状況にびっくりしちゃって……気づいたらエリアヒールを使ってました……」
「そうだな、予定にないエリアヒールは今後控えてくれ。ノアが魔力切れでぶっ倒れたら、いろいろ予定が狂ってくるからな。今回の慰問のメインは、聖者のノアなんだ。滅多に会えない聖者を一目見たくて集まって来る人も多い。それが、決まった休憩時間でもないのに魔力切れで皆の前に顔を出せないのでは、現地の人たちに悲しまれるぞ」
「……はい、気をつけます……」
グラントさんにピシャリと言われて、俺は本当に申し訳ないなと思った。
そうだよな。慰問では治療することも大切だけど、俺があちこちに顔を出して、被災した人たちや彼らを支える教会関係者を励ましたり元気づけることが重要だもんな。
何より、いつもの治癒院での治療とは違って、大きな災害の後なんだから患者さんも桁違いだ──俺一人が頑張ったところで、すぐ魔力切れになるのがオチだ。一人で無理せず、もっと周りを頼らないとな……
「リリアンとエラも、ノアが無茶しすぎないよう気を配ってやってくれ。慰問は初めてだしな。慣れないことも多いだろう」
「「分かりました」」
グラントさんの言葉に、リリアンとエラが小さく頷いた。
その後は、それぞれが気づいた点なんかを出し合って、軽く話し合った。
「明日は領都にあるランサルド支部に移動ですね。どうやら領主様もいらっしゃるそうですよ」
「おそらく領主様は治療の様子を見学されるだろうな」
ウィリアムさんが明日のことを口にすると、グラントさんが相槌を打った。
領主様もいらっしゃるのか。なんか偉い人が来るとなると、すごく緊張するなぁ~
「とりあえず今日の反省会は以上だな。今日は初日だからな、疲れも溜まっているだろう。早めに休んでおくように」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
グラントさんの締めの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
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