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第二章 グリムフォレスト
いきなり共闘
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「いてっ!」
俺は魔物の死体の上に不時着した。ボヨンと死体で跳ねて、そのまま地面に尻餅をつく。
俺はすぐにリュックから盾と杖を抜き取って構えた──数ヶ月ぶりの戦闘だけど、血の臭いを嗅いだせいか、一気に自分の中で戦闘スイッチが入ったのが分かった。
俺は、一番近くにいた隊に駆け寄った。
聖騎士一人に、聖騎士見習い三人、神官一人の隊だ。全員が魔物と戦ってる。
「タンクと回復ができます!!」
「よしっ! 頼んだ!!」
俺ができることを叫ぶと、リーダーらしき聖騎士が戦いながら吠えた。
俺は魔物の前に盾を構えた。まずは自分の身を守る。それから──
「エリアヒール」
隊のメンバーだけが入るように、広範囲の回復魔術をかける。
地面に一気に魔術陣が展開され、緑色の光が散った。
「「「「「!?」」」」」
聖騎士見習いたちと神官が驚いて、一瞬動きが止まった。
傷が消えたのにびっくりしたみたいだ。
聖騎士は一切気にせず、そのまま戦っていた。急にあらわれた魔術陣に驚いた魔物を、一気に切り伏せていく。
「ザック! 結界を張ってくれ!!」
聖騎士が叫んだ。
「分かった!!」
神官のザックさんは地面にしゃがみ込むと、呪文を唱え始めた。
彼の前には、広域結界を張るための小型のオベリスクのような魔道具が、地面に埋められている。
魔物たちがザックさんに向かって押し寄せようとし、聖騎士見習いたちがカバーに入る。
俺も盾を構えて、ザックさんを守った。
「結界!!」
ザックさんが長い呪文を唱え終わると、森との境目にキィーーンと聖属性の結界が張られた。
森側にいる魔物たちは結界内に入れなくなって、おぞましい唸り声をあげてこちらを睨んでいた。
聖騎士とその見習いたちは、結界の内側に残った魔物を掃討していった。
「……本当に助かった。ありがとう。教会からの援軍か?」
「はい、そうです! 支援物資も持って来ました!」
一通り魔物を退治した後に聖騎士に訊かれ、俺は力強く頷いた。
支援物資を持って来たんだし、「援軍」で合ってるよな?
「ありがたい。私は聖騎士のヘンリーだ。うちの隊は、聖騎士見習いが三人──銀髪がアレクシス、背が高いのがケイ、紫髪がランディだ。ザック上級神官の結界張りの護衛を担当している」
ヘンリー騎士は、小麦色の髪の大柄の聖騎士だ。手短にメンバーを紹介してくれた。
みんな騎士服や神官服のラインは青色だから、聖属性みたいだ。
「早速だが、他の隊の援護に向かう。ついて来てくれるか?」
「はいっ!」
俺は支援物資を担ぐと、ヘンリー隊について行った。
それからは、戦いに次ぐ戦いだった。
俺たちは、魔物と戦っている他の隊に近づくと、加勢していった。
ヘンリー騎士と聖騎士見習いの三人が戦闘に加勢し、ザック上級神官が他の神官と協力して結界を張っていった。俺は怪我人の治療と、神官の護衛だ。
これを何回か繰り返した後、勝てないと察知したのか魔物たちは森へと退却していった。
***
「あれ? ここが後方キャンプですか?」
俺は想像していたのと全く違うキャンプの様子に、思わず尋ねた。
ろくにテントも物資も無く、怪我人がただ集められてゴロゴロと寝転がされている場所に連れて来られたからだ。
治療しているのも、かろうじて治癒魔術が使えそうな、制服に青いラインが入った聖騎士や神官ばかりだ。
「いや、本当はもっと後方にキャンプがあるんだが……」
ヘンリー騎士が言いづらそうに言葉を濁した。
もしかしたら、何かワケアリかもしれないぞ……
「とにかく、まずは怪我人の治療ですね。エリアヒールをかけるので、代わりにこの荷物をお願いします」
俺は集中するために、肩に担いでいたポーション類と食糧の箱を、聖騎士見習いたちに渡した。
怪我人が寝かされている場所の真ん中に陣取ると、集中して魔力を練る。
「エリアヒール」
巨大な魔術陣が足元に広がって、パァッと緑色の光が立ちのぼった
「おぉ……」
「腕が、痛くない……?」
「まさか、傷が?」
「良かった! 治ったのか!?」
「いてぇ! お前が叩く方が怪我よりいてぇ!!」
「足が動くぞ!!」
「うぅっ……俺はあのまま騎士生命がなくなるものかと……」
キャンプ中が、驚きと歓喜の声で溢れ返った。
フラフラと上半身を起こして身体の具合を確かめる者、怪我の回復を喜んだ仲間に感極まってバシバシと叩かれる者、怪我が治って安堵したのかポロポロと泣き出す者までいる。
「ふぅ……」
俺はガクンッと力が抜けて、膝をついた。
戦闘中に何回もヒールを使ったし、さらに今回かなり広範囲のエリアヒールをかけたから、もうほとんど魔力が残ってない。
「見事なエリアヒールだ。まさか教会がこんな上位の神官を前線に送ってくれるなんて……」
ヘンリー騎士が、驚愕の表情で俺を見つめてきた。
「私はただの中級神官ですよ?」
「まさか、そんなはずは……だが、仲間を救ってくれてありがとう」
ヘンリー騎士が胸に片手を当てて丁寧に教会式の礼の姿勢をとると、キャンプにいた他の聖騎士や神官たちも同じように俺に向かって一斉に礼の姿勢をとった。
「ははっ。そんな、畏まらなくても……」
俺はキャンプ中の聖騎士や神官たちにお礼をされて、かえって恐縮した。こんなに仰々しくされると、恥ずかしくてなんだかこそばゆい感じだ。
「そ、そうだ! 食糧を持って来たので、食事にしましょう!」
俺は誤魔化すように、食糧の箱を預かってもらった聖騎士見習いのアレクシス君の方を振り向いた。
アレクシス君は、いきなりキャンプにいた聖騎士や神官たち全員に注目されて、少しびっくりしていた。
「やった!!」
「一週間ぶりのまともな飯だ!!」
「もう黒焦げの魔物なんか食わなくていいんだ!!」
「マジで神か聖者か!?」
キャンプ地で再度、野太い歓声があがった。
中には滂沱の涙を流す者もいる。
「へ?」
結界張りって、そんなに過酷なの?
まぁ、確かに俺は聖者だけど……
キャンプの異様な盛り上がりに俺が呆気にとられていると、ポンッと肩に手を置かれた。
振り返ると、ヘンリー騎士だった。
ヘンリー騎士は、なぜか渋い表情を浮かべていた。
「……詳しくは後で話す。まずは皆に食事を」
「あ、はいっ!」
俺は食糧を配るのを手伝うために、聖騎士見習いたちの元に向かった。
***
俺は、ヘンリー隊のメンバーと一緒に食事をとることになった。
支援物資は、胡桃やドライフルーツが入ったパンだ。かために焼かれていて、保存が利くやつだ。水は、水魔術が使える神官からもらった。
そんなに上等な食事ではなかったけど、聖騎士や神官たちは「うまい……」「生きてて良かった……」と噛みしめるように味わっていた。
「君は『援軍』だと言っていたが、一人だけなのか? 他のメンバーは?」
ヘンリー騎士が食事を済ませると、俺に尋ねてきた。
「私が転移のスクロールを使った時に、何かに干渉されたようで、いきなり前線に飛ばされたんです。本当は後方キャンプに向かう予定でした」
俺は、前線に飛ばされるまでの経緯を正直に答えた。
「教会の方には、この前線のことはどう伝わってるんだ?」
ザック上級神官が尋ねてきた。
ザック上級神官は無精髭を生やしていて、一際くたびれた神官服を着ている。でも、まとっている雰囲気は歴戦の勇士っぽくて、キャンプの他の聖騎士にも負けないくらいのドンッとした落ち着きがある。
「『今回は魔物が多くてかなり苦戦している』とだけ……」
俺の回答に、ヘンリー隊のメンバー全員が息を呑んだ。
「どこかで情報が握りつぶされたか……」
「大方そうだろうな……」
ザック上級神官が悲痛な表情を浮かべて言うと、ヘンリー騎士も顔をしかめて大きく頷いた。
聖騎士見習いたちも、それぞれ暗い表情で黙り込んでいた。
「……ここで一体何があったんですか?」
俺は現状把握するためにも尋ねた。
「レスタリア領の指示が、はじめからおかしかったんです。結界を張る位置が、教会から指示されてる場所と違ってたんです」
紫髪の聖騎士見習いの少年、ランディ君が説明してくれた。
「えっ? そんなことって……」
「レスタリア領の役人から、元の結界の位置よりもずっと森の奥の方に張れと言われたんです」
俺が何と言えばいいか言葉に詰まっていると、アレクシス君がぶっきらぼうに答えた。
「そんなことをすれば、妖精自治区に侵入することになって妖精側とトラブルになるからな。『教会の指示に従う』とレスタリア領の依頼を拒否すれば、後方支援キャンプを張る許可が下りなくなったんだ。『キャンプが張れないのであれば、結界を張ることはできない』と撤退をほのめかすことで、やっとキャンプを張る許可が下りたんだが……」
ヘンリー騎士が説明を引き継いだ。
「その後方支援キャンプも、前線からかなり離れた場所にしか許可できないと言われて……仕方なく、ここに仮のキャンプ地をつくったんです」
大柄の聖騎士見習いのケイ君が、困惑するように言った。
「えぇっ!? そんなことってあるんですか!?」
俺は信じられない思いでヘンリー騎士を見つめた。
無理を言ってるのはレスタリア領のはずで、しかも結界を張ってもらう立場のはずだ。それなのにわざと邪魔するようなことをして、どうしたいんだ!?
「通常ならばあり得ない。結界を張ることを依頼したのもレスタリア領だし、レスタリア領の領主は代々、敬虔な教会派のはずだ。まさか、こんな……」
ヘンリー騎士もにわかには信じられないといった表情だ。
「とにかくさっさと終わらせようと結界を張り始めれば、森の魔物に襲われるわ、どうにか森の魔物を追い返せば、今度は南から魔物の群れがやってくるわ……酷い目に遭ったよ」
ザック上級神官が銀色の髪をくしゃりと握って、頭を抱え込んで言った。
ギャオォォオオォオッ!!!
──その時、周囲にけたたましい魔物の唸り声が響いた。
「新手の魔物か……」
「夜で活発化したか、面倒くせぇな……」
ヘンリー騎士とザック上級神官が立ち上がった。
キャンプの他の聖騎士や神官たちも、雰囲気をガラリと険しいものに変えて、戦いの準備に取りかかった。
俺は魔物の死体の上に不時着した。ボヨンと死体で跳ねて、そのまま地面に尻餅をつく。
俺はすぐにリュックから盾と杖を抜き取って構えた──数ヶ月ぶりの戦闘だけど、血の臭いを嗅いだせいか、一気に自分の中で戦闘スイッチが入ったのが分かった。
俺は、一番近くにいた隊に駆け寄った。
聖騎士一人に、聖騎士見習い三人、神官一人の隊だ。全員が魔物と戦ってる。
「タンクと回復ができます!!」
「よしっ! 頼んだ!!」
俺ができることを叫ぶと、リーダーらしき聖騎士が戦いながら吠えた。
俺は魔物の前に盾を構えた。まずは自分の身を守る。それから──
「エリアヒール」
隊のメンバーだけが入るように、広範囲の回復魔術をかける。
地面に一気に魔術陣が展開され、緑色の光が散った。
「「「「「!?」」」」」
聖騎士見習いたちと神官が驚いて、一瞬動きが止まった。
傷が消えたのにびっくりしたみたいだ。
聖騎士は一切気にせず、そのまま戦っていた。急にあらわれた魔術陣に驚いた魔物を、一気に切り伏せていく。
「ザック! 結界を張ってくれ!!」
聖騎士が叫んだ。
「分かった!!」
神官のザックさんは地面にしゃがみ込むと、呪文を唱え始めた。
彼の前には、広域結界を張るための小型のオベリスクのような魔道具が、地面に埋められている。
魔物たちがザックさんに向かって押し寄せようとし、聖騎士見習いたちがカバーに入る。
俺も盾を構えて、ザックさんを守った。
「結界!!」
ザックさんが長い呪文を唱え終わると、森との境目にキィーーンと聖属性の結界が張られた。
森側にいる魔物たちは結界内に入れなくなって、おぞましい唸り声をあげてこちらを睨んでいた。
聖騎士とその見習いたちは、結界の内側に残った魔物を掃討していった。
「……本当に助かった。ありがとう。教会からの援軍か?」
「はい、そうです! 支援物資も持って来ました!」
一通り魔物を退治した後に聖騎士に訊かれ、俺は力強く頷いた。
支援物資を持って来たんだし、「援軍」で合ってるよな?
「ありがたい。私は聖騎士のヘンリーだ。うちの隊は、聖騎士見習いが三人──銀髪がアレクシス、背が高いのがケイ、紫髪がランディだ。ザック上級神官の結界張りの護衛を担当している」
ヘンリー騎士は、小麦色の髪の大柄の聖騎士だ。手短にメンバーを紹介してくれた。
みんな騎士服や神官服のラインは青色だから、聖属性みたいだ。
「早速だが、他の隊の援護に向かう。ついて来てくれるか?」
「はいっ!」
俺は支援物資を担ぐと、ヘンリー隊について行った。
それからは、戦いに次ぐ戦いだった。
俺たちは、魔物と戦っている他の隊に近づくと、加勢していった。
ヘンリー騎士と聖騎士見習いの三人が戦闘に加勢し、ザック上級神官が他の神官と協力して結界を張っていった。俺は怪我人の治療と、神官の護衛だ。
これを何回か繰り返した後、勝てないと察知したのか魔物たちは森へと退却していった。
***
「あれ? ここが後方キャンプですか?」
俺は想像していたのと全く違うキャンプの様子に、思わず尋ねた。
ろくにテントも物資も無く、怪我人がただ集められてゴロゴロと寝転がされている場所に連れて来られたからだ。
治療しているのも、かろうじて治癒魔術が使えそうな、制服に青いラインが入った聖騎士や神官ばかりだ。
「いや、本当はもっと後方にキャンプがあるんだが……」
ヘンリー騎士が言いづらそうに言葉を濁した。
もしかしたら、何かワケアリかもしれないぞ……
「とにかく、まずは怪我人の治療ですね。エリアヒールをかけるので、代わりにこの荷物をお願いします」
俺は集中するために、肩に担いでいたポーション類と食糧の箱を、聖騎士見習いたちに渡した。
怪我人が寝かされている場所の真ん中に陣取ると、集中して魔力を練る。
「エリアヒール」
巨大な魔術陣が足元に広がって、パァッと緑色の光が立ちのぼった
「おぉ……」
「腕が、痛くない……?」
「まさか、傷が?」
「良かった! 治ったのか!?」
「いてぇ! お前が叩く方が怪我よりいてぇ!!」
「足が動くぞ!!」
「うぅっ……俺はあのまま騎士生命がなくなるものかと……」
キャンプ中が、驚きと歓喜の声で溢れ返った。
フラフラと上半身を起こして身体の具合を確かめる者、怪我の回復を喜んだ仲間に感極まってバシバシと叩かれる者、怪我が治って安堵したのかポロポロと泣き出す者までいる。
「ふぅ……」
俺はガクンッと力が抜けて、膝をついた。
戦闘中に何回もヒールを使ったし、さらに今回かなり広範囲のエリアヒールをかけたから、もうほとんど魔力が残ってない。
「見事なエリアヒールだ。まさか教会がこんな上位の神官を前線に送ってくれるなんて……」
ヘンリー騎士が、驚愕の表情で俺を見つめてきた。
「私はただの中級神官ですよ?」
「まさか、そんなはずは……だが、仲間を救ってくれてありがとう」
ヘンリー騎士が胸に片手を当てて丁寧に教会式の礼の姿勢をとると、キャンプにいた他の聖騎士や神官たちも同じように俺に向かって一斉に礼の姿勢をとった。
「ははっ。そんな、畏まらなくても……」
俺はキャンプ中の聖騎士や神官たちにお礼をされて、かえって恐縮した。こんなに仰々しくされると、恥ずかしくてなんだかこそばゆい感じだ。
「そ、そうだ! 食糧を持って来たので、食事にしましょう!」
俺は誤魔化すように、食糧の箱を預かってもらった聖騎士見習いのアレクシス君の方を振り向いた。
アレクシス君は、いきなりキャンプにいた聖騎士や神官たち全員に注目されて、少しびっくりしていた。
「やった!!」
「一週間ぶりのまともな飯だ!!」
「もう黒焦げの魔物なんか食わなくていいんだ!!」
「マジで神か聖者か!?」
キャンプ地で再度、野太い歓声があがった。
中には滂沱の涙を流す者もいる。
「へ?」
結界張りって、そんなに過酷なの?
まぁ、確かに俺は聖者だけど……
キャンプの異様な盛り上がりに俺が呆気にとられていると、ポンッと肩に手を置かれた。
振り返ると、ヘンリー騎士だった。
ヘンリー騎士は、なぜか渋い表情を浮かべていた。
「……詳しくは後で話す。まずは皆に食事を」
「あ、はいっ!」
俺は食糧を配るのを手伝うために、聖騎士見習いたちの元に向かった。
***
俺は、ヘンリー隊のメンバーと一緒に食事をとることになった。
支援物資は、胡桃やドライフルーツが入ったパンだ。かために焼かれていて、保存が利くやつだ。水は、水魔術が使える神官からもらった。
そんなに上等な食事ではなかったけど、聖騎士や神官たちは「うまい……」「生きてて良かった……」と噛みしめるように味わっていた。
「君は『援軍』だと言っていたが、一人だけなのか? 他のメンバーは?」
ヘンリー騎士が食事を済ませると、俺に尋ねてきた。
「私が転移のスクロールを使った時に、何かに干渉されたようで、いきなり前線に飛ばされたんです。本当は後方キャンプに向かう予定でした」
俺は、前線に飛ばされるまでの経緯を正直に答えた。
「教会の方には、この前線のことはどう伝わってるんだ?」
ザック上級神官が尋ねてきた。
ザック上級神官は無精髭を生やしていて、一際くたびれた神官服を着ている。でも、まとっている雰囲気は歴戦の勇士っぽくて、キャンプの他の聖騎士にも負けないくらいのドンッとした落ち着きがある。
「『今回は魔物が多くてかなり苦戦している』とだけ……」
俺の回答に、ヘンリー隊のメンバー全員が息を呑んだ。
「どこかで情報が握りつぶされたか……」
「大方そうだろうな……」
ザック上級神官が悲痛な表情を浮かべて言うと、ヘンリー騎士も顔をしかめて大きく頷いた。
聖騎士見習いたちも、それぞれ暗い表情で黙り込んでいた。
「……ここで一体何があったんですか?」
俺は現状把握するためにも尋ねた。
「レスタリア領の指示が、はじめからおかしかったんです。結界を張る位置が、教会から指示されてる場所と違ってたんです」
紫髪の聖騎士見習いの少年、ランディ君が説明してくれた。
「えっ? そんなことって……」
「レスタリア領の役人から、元の結界の位置よりもずっと森の奥の方に張れと言われたんです」
俺が何と言えばいいか言葉に詰まっていると、アレクシス君がぶっきらぼうに答えた。
「そんなことをすれば、妖精自治区に侵入することになって妖精側とトラブルになるからな。『教会の指示に従う』とレスタリア領の依頼を拒否すれば、後方支援キャンプを張る許可が下りなくなったんだ。『キャンプが張れないのであれば、結界を張ることはできない』と撤退をほのめかすことで、やっとキャンプを張る許可が下りたんだが……」
ヘンリー騎士が説明を引き継いだ。
「その後方支援キャンプも、前線からかなり離れた場所にしか許可できないと言われて……仕方なく、ここに仮のキャンプ地をつくったんです」
大柄の聖騎士見習いのケイ君が、困惑するように言った。
「えぇっ!? そんなことってあるんですか!?」
俺は信じられない思いでヘンリー騎士を見つめた。
無理を言ってるのはレスタリア領のはずで、しかも結界を張ってもらう立場のはずだ。それなのにわざと邪魔するようなことをして、どうしたいんだ!?
「通常ならばあり得ない。結界を張ることを依頼したのもレスタリア領だし、レスタリア領の領主は代々、敬虔な教会派のはずだ。まさか、こんな……」
ヘンリー騎士もにわかには信じられないといった表情だ。
「とにかくさっさと終わらせようと結界を張り始めれば、森の魔物に襲われるわ、どうにか森の魔物を追い返せば、今度は南から魔物の群れがやってくるわ……酷い目に遭ったよ」
ザック上級神官が銀色の髪をくしゃりと握って、頭を抱え込んで言った。
ギャオォォオオォオッ!!!
──その時、周囲にけたたましい魔物の唸り声が響いた。
「新手の魔物か……」
「夜で活発化したか、面倒くせぇな……」
ヘンリー騎士とザック上級神官が立ち上がった。
キャンプの他の聖騎士や神官たちも、雰囲気をガラリと険しいものに変えて、戦いの準備に取りかかった。
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