冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

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第二章 グリムフォレスト

聖槍の騎士

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 グルルル!
 ギャギャッ!!

 魔物の唸り声が、だんだんとキャンプ地に近づいて来ていた。

 俺はまたヘンリー隊と行動させてもらうことにした。

 空間収納から魔力回復ポーションを一本取り出すと、一気に飲み干した。ぐんぐん魔力が回復していくのが分かった──グラントさんはかなりいいポーションを用意してくれたみたいだ。

 それから、バレット商会の商会長さんからいただいた盾と杖を構えた。さっきの戦いでも使ったけど、やっぱりいい物だった。丈夫で軽いし、扱いやすい。

「援護しますよ!」

 不意にケイ君に声をかけられた。
 聖騎士見習いたちは俺よりも二つ下で、皆同い年だった。

「えっ? 俺よりもザック上級神官を守った方がいいのでは?」

 俺は驚いて、俺よりも背が高いケイ君を見上げた。
 そもそもヘンリー隊は、ザック上級神官の護衛が仕事のはずだ。

「ザック上級神官よりもあなたの方が、なんだか大事そうです! ただのカンですけど!」

 ケイ君は、ニカッと屈託なく笑った。

「すみません! コイツのカン、よく当たるんで……それにアレクがザック上級神官の護衛に付いてるんで、大丈夫です!」

 ランディ君が、ポカリと隣のケイ君の肩を軽く殴った。

「えぇ……」

 なんなの、この聖騎士見習い君たち……


──その時、

「魔物だ! 総員、迎え討て!!」

 聖騎士の怒号がキャンプ中に響いた。

 キャンプ地に一角うさぎ、マッドボア、ウォーウルフなどがなだれ込んで来た。数は多いけど、そこまでランクが高い魔物じゃないし、冷静に対処していけば大丈夫だ。

 俺の役割は冒険者の時と何ら変わらない。
 盾を構えて魔物のヘイトを集める。魔物の注意が俺に集まったら、その隙にケイ君やランディ君に倒してもらう。
 それから怪我人に遠隔でヒールを飛ばす。一々呪文を唱えてる暇は無いから、ヒールは全部無詠唱だ。

 時々、神官たちが俺の戦闘スタイルに驚いていたけど、そんなことに構ってはいられなかった。


 魔物の数が減ってきてあと少しって時に、ズシンと、地面が大きく揺れた。

「レッドベアだ! 大型だぞ!!」

 森に近い方にいた聖騎士が叫んだ。

 体長四メートルはあろうかという大型の赤毛のクマが三頭現れた。
 一際大きな一頭が、何かをため込むように頬と胸を大きく膨らませた。

「簡易結界を張れ! 炎が来るぞ!!」

 レッドベアに応戦していた聖騎士が声をあげた。
 聖騎士たちはレッドベアと距離をとり、代わりに神官たちが前に出て瞬時に簡易結界を張った。

 結界の向こう側を、轟々ととぐろを巻くように燃え盛る炎が、真っ赤に染め上げる。

「うわぁっ!」
「ぎゃっ!!」

 炎を吐いているのとは別のレッドベアが、バリンッと簡易結界を叩き割ってなだれ込んで来た。
 近場にいた神官や聖騎士を巨大な爪で襲う。

「まずい!!」

 俺は遠隔でヒールを、レッドベアに襲われた人たちに飛ばした。
 怪我が治ったと同時に、他の神官が彼らを担いで後方に下がっていく。

 その間に、聖騎士たちが束になってレッドベアに斬りかかった。

「危ないっ!!」
「突っ込んで来るぞ!!」

 警告の叫び声に、俺は正面を向いた。

 燃え盛る炎をまといながら、一番大きなレッドベアが、簡易結界を凄まじい勢いで正面突破してきた。
 ドスドスッと大きな地響きを鳴らして、駆け抜けざまに逃げ遅れた神官たちを跳ね飛ばしていく。

「神官さん、逃げましょう!」
「奴の正面はまずいです!」

 ケイ君とランディ君が、俺の腕を力一杯引いて退避行動をとった。
 三人揃ってレッドベアの突進を避けるように横へ飛び、地面に転がった。急な退避だったからろくに受け身も取れず、身体中あちこち地面に叩きつけられる。

 レッドベアは急ブレーキをかけて立ち止まると、こっちを睨み付けるようにゆっくりと振り返った。

「ヤバッ! こっち見た!!」

 ケイ君が「げぇっ!」と顔を歪めた。腰を落として剣を構え、一気に戦闘態勢に入る。

「回復役が誰だか分かってんだ、あのクマ!!」

 ランディ君は急いで立ち上がると、俺の腕を引っ張って逃がそうとした。

 次の瞬間、レッドベアの頭に向かって強烈なかまいたちが襲いかかった。
 気づけば、アレクシス君がレッドベアに斬りかかっていた。彼の瞳は、煌々とエメラルド色に輝いている。

 他の聖騎士たちも、一気にレッドベアに襲いかかっていく。

「アレクシス君、なんだか目が光ってない?」
「あいつ、妖精の血が入ってるんです! たぶん、何か妖精魔術を使ってるんじゃないですか!? それよりも、一旦引いて、神官さんは怪我人を……」

 俺が疑問を口にすると、ランディ君が答えた。 

「アレク!」

 ケイ君が叫んだ。

 振り返ると、アレクシス君がレッドベアの大爪をくらって吹き飛ばされていた。

 レッドベアはブルリと身震いするように周囲の聖騎士たちを振り払うと、俺たちに向かって突進してきた。

 ヤバい!! 巨体のくせにめちゃくちゃ動きが速すぎる!!!

 俺が咄嗟に盾をレッドベアに向けて構えた瞬間──

「ノアさん、良かったですねぇ。私と契約があって。そのおかげで助かるのだから」

 のんびりした声と共に、目の前に閃光が走った。

「グギャァァッ!!!」

 レッドベアの断末魔が、キャンプ地に響く。

 一等大きなレッドベアの頭を、白銀色に輝く槍で串刺しにして、ウィリアムさんがニコニコと俺たちを見下ろしていた。

 ウィリアムさんは造作もなく槍を引き抜くと、レッドベアの背中からトスンッと軽快に地面に着地した。

「聖槍の騎士!? 猊下の懐刀──モノケロス卿か!?」

 ヘンリー騎士が驚愕の表情でウィリアムさんを見て、声をあげた。ヘンリー騎士は、吹き飛ばされたアレクシス君を助け起こしていたみたいだ。

「ふむ。まずは掃除が先ですね。ウィルゴ・ミセリア、お仕事ですよ」

 ウィリアムさんがそう口ずさむと、女性の金切り声のような強烈な高音が、槍から発せられた。
 あまりにも不快な音に、俺たちは思わず両耳を塞いだ。それは魔物たちも同じみたいで、びっくりして腰を引いて怯んでいる。

 次の瞬間、目の前からウィリアムさんが消えていた──気付けば、もう一頭のレッドベアの心臓を槍で一突きにしていた。

 もう一頭のレッドベアは、他の聖騎士たちが寄ってたかって倒していた。

 聖槍の高音に怯えたのか、他の細々とした魔物は、どこかへ逃げ去っていた。


***


「怪我をした方は集まってくださーい! エリアヒールをかけまーす!」

 俺は目立つように両手を上げて叫んだ。
 このキャンプで唯一の癒し属性の神官として、仕事をしないとな。

 怪我人が移動している間に、俺は空間収納から魔力回復ポーションを取り出して一気に煽った。さっきの戦いで消耗した分の魔力が、ぐんぐんと戻ってくる。

 周りに怪我人が集まったのを確認すると、俺は魔力を練り始めた。

「エリアヒール!」

 キャンプ地をほとんど囲む程大きな魔術陣が地面に現れ、緑色の光を放って消えていった。

「おぉ……」
「すごいな。もう傷が消えたのか」
「これほど大きなエリアヒールを……本当に上級神官ではないのか!?」
 
 聖騎士や神官たちの驚く声が、キャンプ内に広がっていった。

「さすがですね、ノアさん。聖者の肩書はダテではありませんね」
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
 
 ウィリアムさんがポツリと溢した一言で、キャンプにいた全員の視線が、一斉に俺を向いた。

「せ、せ、聖者様ぁあっ!!?」
「嘘だろっ!!? 聖者様だって!!?」
「王都にいるんじゃなかったのかよ!?」
「聖者様を前線で戦わせちまったぞ!!?」
「荷物持ちまでさせてたよな!?」

 キャンプ地は一気に騒然となった。

 俺の周りに、一気に聖騎士や神官たちが押し寄せて来る。

「はいはい、押さないの。群がらないの。聖者の護衛でもなければ、私が猊下を離れて前線に出てくることはありませんよ」

 ウィリアムさんが俺の前に入って、護衛らしく聖騎士や神官たちを宥めて落ち着かせてくれた。

「た、確かに。たかだか結界張りぐらいで、聖槍の騎士が出てくることはないな……」

 最前列にいた聖騎士が、ごくりと喉を鳴らした。

「それにしても、妙ですねぇ。その『たかだか結界張り』にずいぶん苦戦してるようですね」

 ウィリアムさんは何かに気づいたかのように急に表情を凍らせると、人垣を押しのけて、とある神官の前までツカツカと歩いて行った。

 神官は、どこにでもいそうな平凡そうな聖属性の神官で、突然目の前にやって来た聖槍の騎士を見上げて、怯えるように震えていた。

「ここら辺はずいぶん匂いがしますね……魔物寄せ、ですか?」

 ウィリアムさんは藍色の瞳を絶対零度に凍らせて、震える神官を見下ろした。

 神官は顔が真っ青を通り越して、白くなっていた。何か言い訳をしようとしているのか、はくはくと口だけが動いている。

 ウィリアムさんは、サッと神官の制服のポケットに手を突っ込むと、使用済みのスクロールを掴み出した。

「……こ、これは、違……」
「本部でお話を伺いましょうか」

 神官がどうにか言葉を絞り出そうとすると、ウィリアムさんは有無を言わさずに遮った。懐から手枷をじゃらりと取り出すと、その神官の両腕にはめた。

「ち、違うんです! 私はただ命令されただけ……」

 神官が反論しようとした瞬間、彼の足元に転移の魔術陣があらわれた。次の瞬間には、彼は光に包まれてどこかへ消え去っていた。

 キャンプ地は、あまりのことに誰も彼もが黙りこくってシーンと静まりかえっていた。

「彼は教会本部に送らせていただきました。あとは尋問部隊に任せましょう」

 ウィリアムさんが俺たちの方を振り向いて、薄く微笑んだ。

 この時、俺も含めてこのキャンプ地にいた全員が、この人には決して逆らってはいけないと、心に刻んだのだった。


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