冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

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第二章 グリムフォレスト

後方支援キャンプ1(リリアン視点)

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「きゃあ! 聖者様、よくぞいらしてくださいました!」
「お待ちしてましたわ! 聖者様は背が高いんですね!」
「……いえ、俺は……」
「今度是非、聖者様の治癒魔術を見学させてください!」
「私は中級ヒールが苦手なんです。今度じっくりコツを教えてもらえませんか?」

 グラントさんが困惑しきった様子で、歓迎に出てきたレスタリア領の教会の聖女たちをあしらっていた。


 私たちがレスタリア領の後方支援キャンプに到着すると、いきなり熱烈な歓迎を受けた──主にグラントさんが。

 レスタリア領の聖女たちは、キャアキャアと甲高い黄色い声をあげて、私たちを出迎えてくれた。
 そして、必死に避けようとするグラントさんを囲んで捕まえて、自分の腕を絡めたり、胸を押し付けたり……

 グラントさんは急いでいることもあって、イライラしているみたいだった。

 もしここに本物の聖者──ノア──私の婚約者がいたら、しかもこんな風に女の子たちにもみくちゃにされていたら、私は冷静でいられなかったかもしれない。


***


 今日、私たちは結界張りの後方支援のため、レスタリア領のグリムフォレストに向かう予定だった。

 聖者のノアは週に一度、特別治癒の日がある。
 普通に移動して遠征すると、特別治癒の日に王都に帰れなくなってしまうため、聖騎士団の支援業務には参加することができなかった。

 でも今回は、教会から特別に転移のスクロールの使用許可が下りたため、後方支援のお仕事に就くことができたのだ。

 教会の事務局からは、事前に「今回の結界張りは、魔物が多くてかなり苦戦している」と聞かされていた。
 なので、食糧やポーションなどの追加の支援物資も一緒に運んでもらえるようお願いされていた。

 特別に高価な転移のスクロールを使わせてもらえることだし、スクロールを使えば支援物資を運ぶのは一瞬だから、そのことはチームで了承していた。


 その時は、私たちは王都にある教会の中庭で、後方支援キャンプに向かうための準備を進めていた。

 中庭にはすでに、食糧やポーション等が入った箱が運び込まれていた。

 私とエラはグラントさんの指示で、念のため支援物資と事務局からもらったリストを突き合わせて確認していた。

 私たちの確認が終わった物から、ノアが軽々と担いでいった。

 私の婚約者のノアは、優しそうな甘い顔立ちをしていて、綺麗でサラサラな亜麻色の髪をしている──本人には言えないけれど、キツく見られやすい私とは違って、可愛い感じなのがちょっぴり羨ましい……

 ノアは細身だし、そんなに重たい荷物が持てそうには見えないけれど、実は力持ちだ。元々は冒険者をしていたから、体力もある。

「ノア、そんなにいっぱい持って大丈夫? 重くない? ウィリアムさんもいるから、手伝ってもらえばいいのに」
「このぐらい平気だよ! 俺、『怪力』スキルがあるから、全然重くないし!」
「もう、仕方ないわね。無茶だけはしないでね」
「は~い」

 私が心配して尋ねると、ノアからは余裕の笑顔であっさりと返された。


 異変が起きたのは、ノアが転移のスクロールを使った時だった──

 私たちは事務局の女性神官から、一人一巻きずつスクロールを渡された。
 そして、ノアが支援物資を担いだまま転移のスクロールを使おうとした瞬間だった。

「……あ、ちょっと待っ……」

 事務局の女性神官が血相を変えてノアを止めようとしたのだ。でも、ノアはすでにスクロールに魔力を流した後だった。
 スクロールは開くか、魔力を流すと発動する。すぐにノアの足元に、転移の魔術陣が光を放って現れた。

 バリバリバリッ!!!

「うわっ!?」

 ノアの魔術陣に赤黒い光がまとわり付くように走って、魔術陣から放たれた光が異様に明滅していた。

 ウィリアムさんが、ちょうど持ち直そうとしていた荷物を放り出して、ノアの方に手を伸ばして跳んでいるのが見えた。

 次の瞬間、ノアはどこかに消えていた。

「……嘘……今のは、何? ノアは……?」

 私は突然のことにわけが分からず、何も反応できなかった。ただノアが消えて行くのを見ていることしかできなかった……

「……これはまずいですね……何かが干渉して、転移先が変わってしまったようです」

 ウィリアムさんが、ノアがさっきまでいた所で、何かを探るようにしゃがみ込んでいた。

 次にウィリアムさんが振り返ったのは、事務局の女性神官の方だった。

 彼女は顔が真っ青になっていて、怯えるように震えていた。

「あなたは何かご存知のようですね」

 ウィリアムさんが、藍色の瞳をゾッとするほど冷たく煌めかせて、威圧するように女性神官に近づいて行った。

 彼女は、目の前に来たウィリアムさんを見上げて「ヒィッ」と小さく叫ぶと、その場で身を縮こめて震えていた。

「……わ、私は……」
「……時間が惜しい。あなたのことは本職に任せましょう」
「そんな! ……!?」

 女性神官の腕にはいつの間にか手枷がされていて、彼女の足元には青黒い光を放つ魔術陣が現れた。そして、彼女はすぐにその光に包まれて消えてしまった。

「ウィリアム騎士、今のは……?」

 グラントさんが、ウィリアムさんの元に駆け寄ると、慎重な声音で尋ねた。表情もすごく険しくなっている。

「重要参考人としてお話を聞くだけですよ。ただ、教会内の尋問部隊にお任せしました。私たちは一旦、後方支援キャンプの方に向かいましょう。転移先をいきなり変えるのは、かなり高度な魔術です。先程の感じですと、ノアさんはおそらくレスタリア方面のどこかに落ちてるでしょう」

 ウィリアムさんが難しい顔で答えた。

「どこかに落ちてるって……」

 私は、思わずウィリアムさんの言葉を口にしていた。

 ノアが、もし高い所から落ちて酷い怪我をしていたら?
 もし、人里離れた危険な魔物ばかりの場所に落ちてしまったら?
 それこそ、妖精自治区の方に放り出されてしまったら?

 私は一瞬にして、ありとあらゆる悪いことを想像してしまった。
 気がつくと、指の先が冷たくなっていて、自分が震えているのが分かった。

「リリアン、ノアは元冒険者よ! いっぱい準備もしていたし、物資もたくさん持ってるわ! すぐにやられたりはしないわよ!」

 エラが、元気づけるように私の手を握ってくれた。ほんのりと、彼女の熱が伝わってくる。
 エラのペリドット色の瞳を覗くと、少し潤んでいて、本当は不安だけど無理にでも気をしっかり持とうと頑張っているようだった。

「そうね。早くノアを助けに行かなきゃ!」

 私も、少しでも気を強く持とうと、わざと力強く頷いた。

「リリアン、エラ、準備はいいか?」
「「はいっ!」」

 グラントさんに訊かれ、私たちはしっかりと返事をした。

 今度はチームでバラバラにならないように、できるだけまとまって転移のスクロールを使った。


***


「さぁ、聖者様はこちらですよ!」

 レスタリア領の聖女たちが、グラントさんを案内しようと、彼の手を引いた。

 グラントさんは急に立ち止まると、大きく声を張りあげた。

「だから、私は聖者ではありません! 上級神官のグラントです! 一足先に聖者がキャンプ地に来ているはずなんですが、まだ到着していませんか!?」

 グラントさんの一言で、サァッとその場の空気が一気に凍りついた。

「聖者様ではない……?」
「それに、聖者様が先に到着している……? 今日いらしたのはあなたたちだけですよ」

 レスタリア領の聖女たちは、顔色を青くしたり白くしたりして答えた。

「それにしても、おかしいですねぇ。ここは後方支援キャンプなのに、血の匂い一つしない。事務局からは『魔物が多くて苦戦してる』と伺ったんですけどね。怪我人は一人もいないようだ。……あなた方もずいぶんとお暇なようですし?」

 ウィリアムさんが、皮肉げに片方の口角だけ上げて、横から口を挟んだ。

「……あなたは?」

 一人の聖女が、訝しげに尋ねた。

「申し遅れました。私、ライオネル教皇猊下直属の聖槍の騎士ウィリアム・モノケロスと申します。このキャンプの責任者は、今いらっしゃいます? 少々お話を伺いたいのですが」
「!? す、すぐに確認して参ります!」

 ウィリアムさんが笑顔を貼り付けて慇懃無礼に自己紹介をすると、聖女たちは血相を変えて、慌てて奥へと引っ込んで行った。

 ウィリアムさんは、今度は私たちチームメンバーを手招きした。
 彼に近づくと、何かヴゥン……と微かに魔道具を発動させたような音がした。

「実は、万が一のために、私はノアさんと契約しておいたのです。なので、今の私ならノアさんの現在地が分かります」

 ウィリアムさんがこそこそと話し始めた。

「それならなぜすぐに……」

 グラントさんが眉根を寄せて問い詰めようとすると、

「すぐには無理ですよ。さすがに王都とレスタリア領は離れすぎてます……でも、今なら正確な位置が分かりますよ」

 ウィリアムさんのその言葉に、チームの全員がホッと少しだけ肩の力を抜いた。

「ということで、私はすぐにでもノアさんの元に向かいたのですが、グラント上級神官には、ここでの対応をお願いできますか? 私の同僚にも応援をお願いしておいたので、すぐに駆けつけてくれるとは思いますが……」
「ええ、分かりました。こちらはお任せください」

 ウィリアムさんが確認すると、グラントさんは力強く頷いた。

「それから、ノアさんを見つけたら、使い魔で連絡を寄越しますので、受け取ってくれますか?」

 ウィリアムさんが騎士服の懐を少し寛げると、そこには三つ目の真っ黒なイタチのような使い魔が顔を覗かせていた。

「承知しました。ノアをお願いします」

 グラントさんが重々しく答えた。


「ウィリアムさん、ノアのことをよろしくお願いします」

 私は、ウィリアムさんがキャンプ地を出る前に、丁寧に頭を下げた。

 私は、ノアが消えてしまった時も何もできなかったし、今もウィリアムさんの力に縋るしかない。
 今の私にできることは、ノアの無事を祈ることと、ノアのために頑張ってくれる人に礼を尽くすことだけ。

「……はぁ、私は乙女の懇願には弱いのですよ……」

 ウィリアムさんが、少し面倒臭そうに溜め息混じりに答えた。

「無事にノアさんを連れ帰りますので、安心してください」

 私が顔を上げると、ウィリアムさんの藍色の瞳が優しく細められていた。

 そして次の瞬間には、ウィリアムさんは消えていた。


 ノア、一体どこに行ってしまったの……?

 とにかく、どうか無事でいて欲しい……


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